江戸深川六間堀町の貧乏長屋「菖蒲長屋」で、町医者を営んでいる父・松庵の手伝いをしていて、思いを遺して死んでしまった人の姿を見たり、声を聞いたりといた特殊な才能をもった「おいち」が、診察の手伝いの合間に、死者の因縁の絡んだ事件の謎を解き明かしていく、ガールズ・時代ミステリーの第2弾が本書『あさのあつこ「桜舞う おいち不思議がたり」(PHP文芸文庫)』です。
前巻で大店の生薬屋でおきた連続毒殺事件の謎をといた「おいち」だったのですが、今巻では幼なじみを妊娠させて、死なせた男の正体を暴きます。
あらすじと注目ポイント
構成は
走る。
泣く。
救われる。
夢を見る。
再び走る。
驚く。
戸惑う。
思いを巡らせる。
恥じらう。
考える。
三たび走る。
佇む。
閃く。
謎に迫る。
闇に潜む。
立ち向かう。
となっていて、まず、冒頭では、転んでしまった「おいち」に絡んでくるごろつきどもを振り切って、幼馴染の「おふね」の実家の呉服問屋「小峯屋」へと急ぐおいちの姿が描かれます。
小峯屋の裏口には、同じく幼馴染の「お松」が待っていて、二人は屋敷の中にあがりこみ、おふねの元へかけつけるのですが、そこで見たのは大量に血を流してこと切れる「おふね」の姿です。おふねが死んだ後に判明するのですが、彼女は誰かの赤ん坊を妊娠していて、流産したせいで母子ともに亡くなったということのようです。
この三人、医者の娘=おいち、子沢山の貧乏人の長女で少し半グレ=お松、大店ののほほんとしたお嬢さま=おふねというとりあわせで、一番、こうしたスキャンダルっぽいことから遠そうな娘に起きた出来事です。おいちとお松は、おふねを妊娠させた男を見つけ出し、復讐しようろ、大憤慨して街中へ飛び出すのですが・・という流れです。
ただ、怒りに任せて飛び出しても、おふねを妊娠させた男が見つかるわけもなく、おいちは、「小峯屋」に来る前に絡んできた二人連れのごろつきに再び出会い、乱暴されそうになるのですが、そこを、田澄十斗という若い医者見習いに助けられ、という筋立てです。
物語の後半で、この田澄十斗が、おいちの父・松庵を母親を見殺しにした医者だ、と問いつめてくるのですが、これは「おふねの妊娠事件」とはちょっと別物の話ですね。
で、おふねはどこかのごろつきに手籠めにされたのでは、と疑った「おいち」は自分に絡んできた二人連れののごろつきが怪しいのではと調べ始めるのですが、その矢先、おいちに惚れている飾り職人の「新吉」が彼らと諍いを起こし、その後、二人のごろつきが刺殺されているのが発見されます。このため、新吉が犯人ではと疑われるのですが、おいちの父・松庵は、刺殺にしては出血量が少ないことに疑いをもち、刺殺ではなく毒殺ではないかと推理します。
おいちは自分を助けてくれた時、十斗は「いなくなったほうが世のため、人のため」とあの二人を評していたことを思い出し、医者なら毒を薬と偽って飲ませることもできるのでは・・と疑いを抱き始めるのですが・・・という展開です。
十斗への疑いが深まる中、巻の後半では、お松の行方知れずとなるのですが、いなくなる前に「お医者さんのところへ行ってくる」と妹に告げていて・・と物語が動き、お松の捜索とおふねを妊娠させた男の捜索がクロスしていくのですが詳細は原書のほうで。
レビュアーの一言
今巻ではおいちの幼馴染が流産死しているのですが、一説によると、江戸時代の出産の10%~15%が死産で、産後死と難産死は21歳から50歳までの女性の死因の25%以上という話がありますので、まさに妊娠・出産は命がけ、でありました。
さらに、無事出産を終えても、口にできるのは主にお粥と鰹節で、さらに出産後7日間は「頭に血が上っては一大事」と考えられて横になることは許されず、また眠ってはいけないとされていたそうなので、本当に大変な「大事業」であったわけですね。
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