迷宮入り事件の解決は、隠されていた「悪意」をあぶり出す=大山誠一郎「赤い博物館」

ロンドン警視庁(スコットランドヤード」には、通称「黒博物館」という、これまでスコットランドヤードが取り扱った様々な犯罪に関する現場写真や犯行に使われた凶器、絞首刑に使った縄など、捜査関係の資料や犯罪関係の資料を揃えた警察関係者か招待者にしか閲覧できない犯罪専門の「資料館」があるのですが、それを模して設置されたのが、警視庁の管轄下でおきた犯罪や事件の証拠品や捜査資料を保管する「赤い博物館」。

本書の紹介文によると

キャリアながら《警視庁付属犯罪資料館》の館長に甘んじる謎多き美女・緋色冴子警視と、一刻も早く汚名を返上し捜査一課に戻りたい寺田聡巡査部長。
図らずも「迷宮入り、絶対阻止」に向けて共闘することになった二人が挑む難事件とは――。
予測不能の神業トリックが冴え渡る、著者初の本格警察小説!

ということで、この日本版「犯罪博物館」に勤務する二人が、事件から長時間が経過し、捜査もされなくなった「迷宮入り事件」の謎を解き明かしていくのが、本書『大山誠一郎「赤い博物館」(文春文庫)』です。

あらすじと注目ポイント

収録は

「パンの身代金」
「復讐日記」
「死が共犯者を別つまで」
「炎」
「死に至る問い」

となっていて、冒頭では、若くして花形の警視庁捜査一課に配属され、上昇志向バリバリだった刑事・寺田聡が、スコットランドヤードの「黒博物館」を模してつくられた警視庁付属犯罪資料館、通称「赤い博物館」に配置転換されてくるところから始まります。

この資料館には、警視庁の管轄下でおきた事件の様々な証拠品や捜査資料が、事件派生から一定期間経過後、所轄署から移管され、犯罪研究や捜査員の教育に使われることとなっているのですが、これは建前。実質のところは、迷宮入り間近の事件資料の、体の良い「保管庫」となっていて、職員は館長と助手の二人だけという職場です。
まあ、比較すると警視庁いきもの係と同じくらいの「閑職」ですね。

配転となった寺田聡巡査部長は、警視庁捜査一課の若手捜査員だったのですが、あるこう強盗傷害事件の容疑者の家に捜査資料を置き忘れ、その内容をネット公開されるという大失態を犯してしまい、ここに左遷されてきた、というわけですね。

彼を待っていたのは、青ざめたような白い肌と、肩まで伸びた黒髪で「雪女」という異名をとっている、キャリア警察官なから、コミュ障のために、この資料館に8年間、漬け置きにされている「緋色冴子」という女性警視です。寺田は彼女の指示に従って、保管資料の管理のためのQRコードのラベル貼りとデータ入力をするのですが、ある時、保管資料の整理のため、捜査資料を読み、証拠物件を点検していた彼女が、突然「再捜査を開始する」と言い始め、と物語が展開していきます。
第一話の「パンの身代金」では15年前の大手パン製造会社の社長の脅迫殺人事件の謎解きです。その事件は、一部上場のパン製造会社の製品に針の混入が相次ぎ、混入犯から5億円を要求する脅迫状が届きます。針混入のため、売上減少と株価下落に悩んだ会社は脅迫金を支払うことを決め、犯人に要求に従って、社長自らが受け渡し現場の廃屋に行くのですが、そこから社長の行方がわからなくなり、廃屋の近くにある防空壕後で殺害されているのが発見され・・という事件です。
脅迫金は現場に残されたままだったので、金銭目的ではなくて怨恨の線が疑われるのですが、一番疑わしい、社内のライバルの役員にはアリバイもあり、そのまま迷宮化した事件です。

寺田は、緋色の指示に従って、当時、捜査を担当していた警察官から情報をとって関係者の再度聞き取りをしていくのですが、その聞き取り結果を聞いて緋色が推理した真犯人は意外にも・・という展開です。若干、クリスティの「アクロイド殺し」的な感じがありますね。

第二話の「復讐日記」では、数月前に別れた元恋人の復讐をする男子学生の手記に隠された謎解きです。その男性の手記によると、交際していた女性から数月前に別れを告げられるのですが、その女性が実は他の男性の子供を妊娠していることが判明。それが原因で女性は自宅のベランダから転落死してしまうのですが、女性に結婚を迫られたお腹の子の父親による犯行に違いないと、その父親であろう大学教授を刺殺します。

元恋人を殺した相手への復讐劇として完結していたかと思われていた事件なのですが、その手記を呼んだ緋色館長は、違和感を覚え、勝手に「再調査」を始めます。緋色は、、死んだ元恋人女性の両親の聞き取りをするよう指示し、その情報をもとに再推理によると、この連続殺人の真犯人は男子学生ではなく、かれは誰かをかばっていて・・という展開です。元恋人による復讐劇のはずが、痴情のもつれっぽい殺人事件に変貌していきます。

このほか交通事故で死亡した男性が死の間際に告白した「交換殺人」の真実(「死が共犯者を別つまで」)であるとか、新進気鋭の女性写真家が幼い頃にみまわれた両親と叔母が、叔母のストーカーに殺され放火された事件の意外な真実(「炎」)や、26年前の殺人事件がほぼそっくり再現された殺人事件がおきた理由(「死に至る問い」)とか、迷宮いりしそうであったり、片付いたと思われていた事件の裏に、思っても見なかった真相が隠されていたことが、緋色の推理によって明らかになっていきます。

赤い博物館 (文春文庫)
『密室蒐集家』で第13回本格ミステリ大賞を射止めた著者がミステリ人生のすべてを...

レビュアーの一言

初っ端の第一話から明らかになるように、寺田が再聞き取りしてくる結果に基づいて、緋色が推理して明らかにする真相は、全てが誰かの隠しておきたい気持ちを裏切る、結構「ブラック」なものがごろりと出てきます。
普通、迷宮入りの事件の解決というと、逃げ切ろうとしていた犯人をつきとめる爽快感が伴うことが多いのですが、今巻では、謎解きによって、今まで優秀な捜査官として信頼されてきた警察官の姿が崩れていったり、優しい母親と思っていた女性の隠されていた悪意とか、苦味のある結論がでてきますので、そのあたりは覚悟して読んでくださいね。

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