「苦い秘密」が隠された事件は学校図書室から始まる=米澤穂信「本と鍵の季節」

都内の高校に通う高校二年生の主人公「堀川次郎」が「図書委員」をしている学校図書室は、先輩の三年生の取書院が互いに仲が良すぎて、図書室を委員同士の「溜まり場」的に使っていたのが災いして、三年生の引退後は、不人気で寂れた図書室に変貌しています。

その図書室で同級生の図書委員・松倉詩門(まつくらしもん)と当番をしていると、たいてい奇妙な事件に巻き込まてしまう、という図書室を舞台にした青春ミステリーの第1弾が本書『米澤穂信「本と鍵の季節」(集英社文庫)』です。

あらすじと注目ポイント

収録は

「913」
「ロックオンロッカー」
「金曜に彼は何をしたのか」
「ない本」
「昔話を聞かせておくれよ」
「友よ知るなかれ」

の六篇。

物語のメインキャストとなる二人は、2年生となった4月に図書委員の会議で知り合った同士で、主人公の堀川に言わせると松倉は「快活で、ほどよく皮肉屋。運動も成績もそこそこできる」という生徒らしく、堀川くんのほうは、気づいたことをはっきり言ってしまう傾向はあるものの、奇矯なところはなく、どちらかというと扱いやすい印象を与える男子生徒です。

まず第一話の「913」は3年生の引退後、訪れる生徒も少なくめっきり寂しくなった学校の図書室で、堀川次郎と松倉詩門、今巻の中心キャストとなる二人が、返却された図書の手続きや補修をしている場面から始まります。

その二人が作業をしているところに現れたのが、三年生の浦上先輩で、堀川くんは美人の彼女に少し憧れを抱いているという設定です。

その彼女が二人にお願いをしてきたのが、死んだ祖父が孫に遺す「遺産」をいれたままロックされている金庫を開けてほしい、というもの。なぜ、金庫屋に頼まないの、という疑問は物語のネタバレになるので伏せておきます。そして、浦上先輩の祖父の家の金庫のある書斎に連れていかれるのですが、その書棚のある段に並べてある本に違和感を抱きます。実はそれが金庫の鍵のナンバーに関連しているのですが、二人はそれよりももっと恐ろしい先輩家族の企みに気づき・・という展開です。

第二話の「ロックオンロッカー」は、夏休みに美容室の割引券をもらった堀川くんは、その券が友達同伴でないと仕えないことから、松倉くんを誘ってその店に来店します。予約は夜の7時と遅い時間になったため、お客は彼ら二人しかいないのですが、接客にでてきた店長は、「貴重品は、必ず、お手元にお持ちください」とやけに強調してきます。カットに時間がかかって、洗髪する前に料金を払うこととなったので、財布を手元においておくためだったのか、と理解した堀川くんだったのですが、どういうわけか、彼らの後に三人組の女性が予約客だといって来店してきます。そして、彼女たちには貴重品の注意はまったくしないで・・という展開です。

第三話の「金曜に彼は何をしたのか」は、図書委員の後輩に頼まれて、期末テストの問題の盗難疑惑をかけられた、学校内で不良として有名な実兄の疑惑を晴らそうと一肌脱ぐ話です。自分の無実を証明するものが自宅の自室にある、と兄が主張しているという言葉を頼りに、その部屋の捜索を始めるのですが、兄のアリバイととともに、後輩が隠したがっていた家族の秘密も明らかになって・・という筋立てです。

第四話の「ない本」は、受験苦から自殺した、という三年生の男子生徒の友人から持ち込まれた探し物です。その自殺した生徒の遺書はメモ書き程度のものしか残されておらず、清書したものは見つかっていないのですが、その友人の生徒は、男子生徒が自殺する数日前、図書室で彼が読書しているのを見かけ、彼が図書室に入ると微笑みながら本を閉じたそうさのですが、その時に何かが書かれた便箋のような紙をはさんで閉じた、というのです。

ひょっとするとその紙が正式な遺書かもしれないので、その本を探し出してくれ、という依頼です。

しかし、本の特徴もおぼろげで題名も皆目見当が付かない本を、どうやって探したらいいのか。堀川くんと松倉くんは男子生徒のおぼろげな記憶を頼りに探し出そうとするのですが、実はその本は・・という謎解きです。

このほか、第五話「昔話を聞かせておくれよ」と第六話「友よ知るなかれ」では、ここまで霧の中にあった松倉の家族関係が明らかになってきます。そして、それはある犯罪に関連したもので、という筋立てで、それから先の二人がこのまま図書委員を続けていけるかどうかにも関係してくる展開です。

レビュアーの一言

本巻は、舞台設定は学校の図書室で、登場人物のほとんどは高校生、という学園ミステリー仕立てにはなっているのですが、謎解きがされてみると、青春ミステリーとはちょっとテイストの異なる「苦い」ミステリーになっています。

「氷果」シリーズや「小市民」シリーズよりも、もっと苦みが強い感じがするので、そこは承知しておいてくださいね。

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