お嬢様方の読書グループをめぐるブラックな味の謎解きはいかが=米澤穂信「儚い羊たちの祝宴」

良家の子女が通う大学の、夢想家の女性ばかりが集まる読書サークル「バベルの会」のメンバーである「お嬢様」方におきる「優雅」で「邪悪」な事件を描き、最後の数行で戦慄する真相が明らかになるブラックな味のミステリが、本書『米澤穂信「儚い羊たちの祝宴」(新潮文庫)』です。

あらすじと注目ポイント

収録は

「身内に不幸がありまして」
「北の館の罪人」
「山荘秘聞」
「玉野五十鈴の誉れ」
「儚い羊たちの晩餐」

の五篇。

第一話の「身内に不幸がありまして」は、上紅丹地方という架空の因習が強く残っている地域を支配する旧家「丹山家」の女中をしている「村里夕日」という少女が語り部になります。

彼女は幼い頃に孤児院からこの丹山家にひきとられ、丹山家の直系の娘・吹子付きの女中として、彼女の世話をし、吹子とともに武術や勉学も習いながら成長してきています。この丹山家には吹子の兄である宗太という男子がいたのですが、不行跡が続いて廃嫡され、吹子が家の跡を継ぐこととなっているのですが、その財産と大きな権益を狙って、親類たちが家督を奪うことを虎視眈々と狙っている、という設定です。

吹子は、そうした境遇にも動じず、強い女性として成長したのですが、大学に入り、良家の令嬢ばかりが入会している「バベルの会」という読書サークルに入会します。そのバベルの会では毎年8月1日に、避暑地「蓼沼」で別荘を借りて会員が一同に宿泊して読書会を開くのを恒例としているのですが、吹子が大学に入って1年目の時、その読書会の開催2日前に、廃嫡され行方のわからなくなっていた兄の宗太がライフルをもって、屋敷に乱入し、使用人たちを射殺していきます。

彼は自分を廃嫡した祖父や父を殺そうとして襲撃してきたのですが、武術に優れた吹子と夕日に逆襲され、手首を切り落とされ、逃亡してしまいます。宗太は死んだものとして扱われ、葬儀も行われていたので、吹子は楽しみにしていたバベルの会の読書会を欠席せざるをえなくなります。

悲劇はこれだけでは終わらず、その1年後、2年後と丹山家の親戚筋で、以前に吹子に意地悪をしていた老女が絞殺され、手首を切り落とされているが発見される事件が起きます。周囲の者たちは、逃亡した宗太が帰ってきて復讐をしているのでは、と噂するのですが、夕日は密かに自分が夢遊病にかかっていて、寝ているうちに二人を殺しているのかもしれないという疑いを強めます。

そして、二年続けて事件の起きた7月30日。夕日は自らを縛って就寝するのですが、そこに現れたのは・・という展開で、思ってもみなかった真犯人が登場してきます。

二話目の「北の館の罪人」は、製薬で財をなした「六綱」という財閥の邸宅が舞台になります。この家の前の当主の妾の子として生まれた「内名あまり」は、母親の病死後、この家へやってきて、別館に隔離されて住んでいる、六綱家の長男の世話をしながら暮らすことになります。

その家の長男・早太郎がなぜ六綱家を継がなかったかは訳ありな感じで、現当主・光次は速太郎が逃げ出さないよう、あかりに見張りを命じています。外出できない早太郎は、何かの材料にするらしい様々な品物の買い物を頼んでくるのですが、画鋲とか糸鋸といったもののほかに、鉛とか牛血とか、ラピスラズリなど奇妙なものも含まれていて・・という展開です。

少しネタバレしておくと、早太郎は軟禁生活のせいか体調を崩して早死するのですが、実意はそこにはある人物の「悪意」が隠れていることが最後のほうで明らかになります。

このほか、「八垣内」という高山の山荘でその管理人をしている女性が、山の斜面を滑落して大怪我をおっている山岳部員を山荘に救出しておきる事件を描いた「山荘秘聞」や、祖母が実権を握っている旧家の跡取りとして育てられてきた孫娘が、父の親戚の不行跡で廃嫡された後、復権を果たすのですが、その陰に幼い頃から小間使として仕えてくれていた少女の献身を感じる「玉野五十鈴の誉れ」などが収録されています。

そして最後の短編「儚い羊たちの晩餐」は、「バベルの会」を除名になった少女がこの会に向けた放った悪意と、バベルの会のその後の顛末が語られるのですが、詳細については原書のほうでどうぞ。

Bitly

レビュアーの一言

本書は、戦後まもなくの、まだ戦前の旧い権威や伝統的な力の残っていた時代の雰囲気をまとった、いわゆる上流階級の家の物語という体裁を見せながら、その取り澄ました外面の下に隠されていた「悪意」が最後半で噴出して、読者を驚かせる、というブラック・ミステリの秀作といっていいでしょう。

しかも、登場してくる語り手がいずれも「上品」な、あるいは主人に「忠実」な姿をみせているので、その悪意がわかったときの落差の大きさに驚くこと間違いないですね。

「古典部」シリーズや「小市民」シリーズで、著者のファンになった方も多いと思うのですが、それらのシリーズとはかなり異なる味わいの短編集です。

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