家康と茶々。天下をかけて睨み合った「父」と「母」の物語=伊東潤「一睡の夢 家康と淀殿」

豊臣秀吉没後の「天下分け目の大戦」といわれた「関ケ原の戦」から6年後、徳川家が家康から秀忠へと征夷大将軍の位が引き継がれ、天下の采配が徳川へ移りつつあるのでは、という意識に世間が傾きつつも、秀吉の築城した大坂城には、豊臣秀頼、その母・茶々がいて、秀吉恩顧の大名たちもまだまだ健在という慶長年間の後半。
徳川秀忠をゆるぎない天下人とし、徳川政権を盤石のものにしたい「家康」と、権勢の凋落を感じ取り、我が子・秀頼に再び豊臣の隆盛をもたらしたい「茶々」という、「父」と「母」が天下の帰趨を巡って争う物語が本書『伊東潤「一睡の夢 家康と淀殿」(幻冬舎)』です。

【スポンサードリンク】

あらすじと注目ポイント

構成は

第一章 春の嵐
第二章 宿怨の系譜
第三章 盛者必滅
第四章 乱世偃武

となっていて、冒頭の第一章は、慶長十一年、江戸城普請の前段階である日比谷入江の埋め立てが終わったところから始まります。
江戸城普請は、西国を中心とする豊臣家ゆかりの大名たちを中心に賦役が課されたのですが、埋め立ての様子やこれからの計画をとくとくと、詳細に父親・家康に語る二代将軍・秀忠に小言をいう家康が描かれていて、秀忠の才に不安と不満を抱きながら、彼に託さざるを得ない家康の「苦労」が見て取れます。

ここで、場面は大坂に転じて、大阪城内での淀君と片桐且元とのやりとりに移ります。淀君の浅井家の小谷城落城の際や本能寺の変の際のエピソードをまじえながら、家康の豊臣家への圧迫の強化に苛立ちと怖れを感じている様子が描かれ、当方が思うに、この時点ですでに大坂方はプライドの面は別として、心理面ではすでに劣勢に立たされているように感じます。

第二章では慶長十二年から慶長十七年までが舞台となっていて、ここでは、豊臣家から拝領した所領を返上してはっきりと徳川方に付くことを鮮明にした浅野家に対する大野治長の「米留」といった嫌がらせをして徳川へ秘められた反旗を翻す豊臣家の様子や、それを歯牙にもかけず、豊臣秀頼に二条城への上洛を促し、自らが上位であることを世間に見せる家康など、その対立と権力闘争が表に出始めた状況が描かれます。

ただ、徳川勢も「万全の体制」というわけではなく、家康のいる駿府と秀忠のいる「江戸」との権力争いが始まっています。
この時点では家康が健在なため、駿府側優位なのですが、ここでうまく手を組んでいいなかったのが、秀忠の代になっての本多正純の失脚など本多一族の凋落を招いたんでしょうね。
ちなみに上田秀人さんの「百万石の留守居役」で主人公・瀬野数馬の妻の実家は加賀・前田家に仕えた本多正純の弟・政重を祖とする家ですね。

第三章は慶長十七年から慶長十九年までが描かれていて、ここでは「方広寺の鐘銘」をめぐって、家康が豊臣にいちゃもんをつけた上に、片桐且元と豊臣家との溝を深くし、豊臣家の孤立を深くし、ついには大坂の陣開戦前夜に至るまでが描かれます。
この時期。岡本大八事件や大久保長安事件などがあって、徳川幕府内でも大久保忠隣が権勢を失うなど、大きな勢力交代がおきているのですが、家康が豊臣家への強引ともいえる圧迫をし始めたのも、こうした徳川家内の内紛が影響しているようです。

第四章では、慶長十九年十一月の家康と秀忠の茶臼山着陣に始まり、大坂夏の陣での豊臣家滅亡までが描かれます。歴史小説家による小説なので、真田幸村の超人的な活躍や忍びの暗躍、あるいは大阪城内での色っぽい秘め事といった雑多な要素はなくオーソドクスに茶々・秀頼の自害に至るまでの戦況が描かれるのですが、注目すべきは二代将軍・秀忠が急に将軍家らしく「冷徹」になっているところですね。
この変化の様子はぜひ原書のほうで。

レビュアーの一言

本書は、秀忠を将軍としてひと化けさせたい家康と、秀頼に夫・秀吉の権勢を再び復活させてやりたい茶々こと淀君の二人を軸に話が進んでいき、ワンランク成長した秀忠を見て少し安堵する家康で物語はしまっているのですが、エピソードの多さや粛々とした最期の迎え方などをみると、意外に物語の中心は「茶々」だったのかも、と思う次第です。
高慢で、時勢を読み違えたという評価もある女性なのですが、息子にお家再興の夢を託し、様々な手を打ちながらも時代の流れは勝てず息子と夫に殉じた「母親」の物語ともいえるでしょうね。

【スポンサードリンク】

【電子書籍比較】「まんが王国」のおすすめポイントを調べてみた
新型コロナウイルスの感染拡大がおきてから、一番利用者が伸びたのは、漫画の電子書籍サイトではないでしょうか。それ以来、電子書籍アプリは、書店系から出版社系まで数多くリリースされているのですが、今回は各種の比較サイトでベスト5にはいる「まんが王

コメント

タイトルとURLをコピーしました