九州の名城「熊本城」をつくった天下一の城取りの物語=伊東潤「もっこすの城」

平成28年の熊本地震で被災し、現在でも復旧作業が続いている熊本城は、慶長12年、1607年に茶臼山と呼ばれた台地に加藤清正が建造して以来、加藤家の改易後は細川家の居城となり、明治となっても、西南戦争でも150日間に及ぶ、明治政府西郷軍との籠城戦が繰り広げられるなど、多くの歴史ドラマの舞台となった「名城」です。

その熊本城を、加藤清正の命で築いた尾張出身の築城家・木村藤九郎秀範と熊本城築城までを描いたのが本書『伊東潤「もっこすの城 熊本城築城始末」(角川文庫)』です。

あらすじと注目ポイント

構成は

第一章 蛇目紋の家
第二章 反骨の地
第三章 日之本一之城取
第四章 天下静謐

となっていて、物語は本能寺の変で、明智光秀によって織田信長が討たれた頃から始まります。

本巻の主人公となる木村秀範の父・木村忠範は安土城の普請奉行を務め、城の築城の選地から縄張り、建築工事までを指揮する「城取り」を家業としていたのですが、安土城に攻めかかる明智光秀軍と戦って戦死することとなります。

彼は「城取り」であるので、本来なら守備陣の中心になる役回りではないのですが、城を守るべき蒲生賢秀が信長の妻子の保護を名目に、居城の日野城へと立ち退いたため、守勢の中心に祭り上げられた、というシチュエーションですね。

父の戦死から6年後、遺された「城取り」の秘伝書を受け継いだ嫡男・藤九郎は、佐々成政の改易のあとをうけて熊本入りした加藤清正に新規召し抱えとなったところから物語が本格的に動き始めます。

ただ、新規召し抱えになったといっても、何の実績もない、20歳の若僧なので、大きな役目につけられるわけもないのですが、現地について数日後、氾濫をよく起こす「菊池川」の治水工事の責任者に突然抜擢されたことから、彼の運命が開けてきます。

この抜擢人事は、主君の加藤清正の面前で、父の秘伝書に基づいた治水の知識を披歴したことが後推ししているように藤九郎自体は考えたのですが、実は新規に抱えた家臣たちをうまく働かせ、さらに治水工事に失敗した時の責任追及についてもしっかり考えた清正の計略が隠されていることがあとでわかるのですが、ここは原書のほうでお確かめを。

で、菊池川の治水工事を、配下となった二人のベテランの信頼をかち得て、なんとか成功させた藤九郎はこれを契機に街道沿いの要害の建設や小西行長の治世の失敗で起きた天草の謀反の鎮圧のための天草志岐城攻めでの普請工事をこなし、朝鮮出兵に際し、垣添山に秀吉の御座所を建設するときには、諸藩との普請競争を繰り広げる中で、反りをいれた石垣で地震に強い構造にするなど、後の熊本城へ活かされる工夫が萌芽していっています。

熊本城づくりの最後の技を磨く場となったのは、この朝鮮出兵で、半島へ渡り、慶尚南道の西生洞城の築城や蔚山城の築城です。石や土の性質も違い、さらに木材も豊富ではない土地で、敵との戦いの中での築城戦となっていきます。

ちなみに、この朝鮮出兵で、朝鮮軍に降伏して「降倭」となって日本軍と戦った「サヤカ」は、加藤清正の元臣下で、藤九郎と仕官当事からの知り合いという設定になっています。

そして、秀吉の死によって撤兵し、日本に帰国後、清正の命によわ家康って熊本城の築城に取り掛かるわけなのですが、この築城の目的は領国統治の拠点をつくるというのではなく、徳川家康によって将来圧迫されるのであろう豊臣秀頼のためで、大阪城が落城したときの秀頼は落ち延びで、九州で捲土重来を期す拠点とするためですね。

大陸で亀裂が芽生え、拡大していった豊臣家中の内部対立がひどくなり、徳川家康の離間策もあって、加藤清正たち豊臣の武断派の武将たちが家康側となる中、熊本城の築城が進められていくのですが、詳細は原書のほうで。

残念ながら、この備えは活かされることなく、秀頼と淀君は大阪城で自害することになるのですが、これは大坂冬の陣の三年前の慶長十六年に清正がなくなったせいもあるかもしれません。さらに、加藤家も清正の死後、改易となり、熊本には細川家が入ってくることになるですが、主人公の藤九郎はすでに亡くなっていて、この光景を見ることがなかったのは幸いといえるのでしょう。

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レビュアーの一言

豊臣秀吉亡き後、徳川家康に対抗して豊臣家を守ろうとした石田三成と小西行長なのですが、本書では、豊臣恩顧の武将の中でいち早く家康方についた加藤清正に対抗して、あれこれといちゃもんをつけてくる嫌味な人物として描かれています。

清正と肥後国を二分した小西行長は、居城の宇土城築城がもとでおきた天草・志岐の反乱鎮圧で、援軍として自らやってきた清正と対立していますし、、石田三成は大阪城を訪れ、縄張りを藤九郎に見せようとする清正の邪魔をしています。

まあ、ここらは清正の強引なやり方にも原因はありそうですが、ウマが合わない同士といったことに間違いないようです。

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