王妃となったアントワネットとマリー・サンソンの対立は深まり、革命の波が忍び寄る=「イノサン Rouge」3・4

フランス国王からの委託を受けて、パリで死刑を宣告された囚人の処刑を執り行う一族「サンソン家」の一員で、ルイ16世やマリーアントワネット、ロベスピエールなどフランス革命期の多くの有名人の首を刎ねた伝説の「シャルル・アンリ・サンソン」と女性でありながらベルサイユの処刑人「プレヴォテ・ド・ロテル」となった妹「マリー・ジョセフ・サンソン」を中心に、フランス革命を裏面からとらえた歴史コミック・シリーズ「イノサン」の革命篇となる『坂本眞一「イノサン Rouge」(ヤングジャンプコミックス)』の第3弾と第4弾。

前巻では、ベルサイユの処刑人として正式に返り咲いたマリー=ジョゼフが、任務を果たしつつも、貴族殺しの野望を胸に秘め、後の「首飾り事件」の仕掛け人の一人となるところが描かれていたのですが、今回は、ルイ・オーギュストが即位し、王妃となったマリー・アントワネットとの対立が深まるとともに、かつて150年ぶりの八つ裂き刑を受けたダミアンの息子が革命の闘士として登場してきます。

あらすじと注目ポイント

第3巻 ルイ16世、即位。そして革命へのお膳立てが知らず知らずに整っていく

第3巻の構成は

n°14 国王戴冠
n°15 我こそ王妃アントワネット
n°16 舞踏会の権謀Vn°17 踊る死刑執行人
n°18 フィンテッド村のジャンヌ
n°19 王家の血を継ぐ女
n°20 アントワネットの懐妊

となっていて、冒頭ではルイ・オーギュストとマリー・アントワネットが、国王への戴冠式のため、ベルサイユからランスへと移動するシーンから始まります、この移動によって、パリ住民ならいざしらず、国王や王妃の姿を一生涯見ることがなかったであろう、地方の民衆の記憶にその姿を焼き付けることとなり、これが後のフランス革命時に、国王と王妃の運命を変えてしまうことになるのですが、それはまた別の巻で。

それはともかく、天然痘によってルイ15世が崩御した後、確実に宮廷内での権力構造が変化していっています。ルイ15世の公妾だったデュ・バリュー夫人は宮廷を出て、修道院入りしていますし、エチケット夫人というあだ名をつけられたノアイユ夫人が遠ざけられ、民間モード商のローズ・ベルタンがファッションリーダーとなっています。

しかし、こうなってもアントワネットに頭を下げないのが、ベルサイユの処刑人兼警備隊長のマリー=ジョゼフ・サンソンで、アントワネットは彼女に頭を下げさせるため、夫婦同伴で舞踏会に出るよう招待状を送ります。マリーの夫のジャン=ルイ・サンソンは肥満のために歩くことすら難しい状態なので、夫婦同伴での出席は不可能なのですが、マリーがとった奇策とは・・といった展開です。

アントワネットの意地悪を跳ね返した上に、アントワネットの宮廷にとんでもない皮肉をねじ込んできたマリーの奇策は、意外にもルイ16世に気に入られることとなるのですが、そおの詳細は原書のほうで。

中盤では、前章の最後に、パリの貧民窟で遭遇した前王朝の王族ヴァロア家の末裔・ジャンヌが再登場してきます。彼女はその後、貧民窟で勢力を伸ばし、窃盗・横領・強盗と、ここでのあらゆる悪事を取り仕切る「顔役」に成長しています。

で、彼女は、娼館で犯したSMプレイの末の殺人の罪で、パリの処刑人。シャルル=アンリ・サンソンによって捕縛され、処刑台に送られるのですが、ヴァロア家の血統をひいているということと、有力筋への賄賂によって無罪となります。この決定にはマリー・アントワネットの温情も入っているようなのですが、後に恩を仇でかえされるとは思ってもなかったでしょうね。

第4巻 死刑囚ダミアンの息子「ジャック」が革命の闘士としてマリーの前に出現する

第4巻の構成は

n°21
n°22 怒れる者達
n°23 呪われた邂逅
n°24 畏れよ我が「怒り」
n°25 「首謀者」の胸懐
n°26 国王暗殺計画
n°27 四人の真実

となっていて、冒頭では、美人の妻を有力大貴族に目をつけられ、軍の機密漏洩の無実の罪に問われたマシーユ伯爵を処刑する兄シャルルと、自領内の女性を凌辱し殺していたヴィラール将軍を処刑する妹マリーの対照的な姿が描かれます。ただ、二人とも、これかれの処刑の方向で、機械的に首を刎ねる方法であるギロチンを模索し始めるのは思考形態が同じであるからかもしれません。

中盤からは新たな章「蒼葬のベルサイユ」が開幕します。いよいよ王制が覆る革命へと進んでいく章ですね。

ここでは相次ぐ小麦粉の高騰でパンが手に入らなくなった民衆が商人を襲い、食料の強奪をするところから始まっています。

この強盗団に宮廷の情報を流していた医師が判明し、ベルサイユの警備も担当するマリー=ジョセフが一味の逮捕に向かいます。その現場で再会したのが、かつて三代目サンソンに壊疽した下肢を切除してもらって一命をとりとめた八つ裂きされた死刑囚ロベール・ダミアンの息子「ジャック・ダミアン」です。彼は失った足に義足をつけ、18世紀にパリの路上で使われ始めた足技主体の格闘術「サバット」のつかい手として強盗団のリーダーにのし上がっていたようです。父親が死刑になった時、処刑台にいたマリーを思い出し、彼女に復讐を誓うのですが・・という展開です。この処刑の時、マリーは八つ裂き刑を執行したシャルルに手足の腱を切るようアドバイスしているのですが、このシーンを覚えていたのかもしれません。

ここで物語は2年後の1784年のベルサイユ宮殿へと移ります。ちょうど、イースターの式典が開かれているのですが、マリー・アントワネットに恋情を抱き、さらに「宰相」の座も狙っている野心家「ローアン枢機卿」の姿もそこにあります。彼は貴族の女性の嫌悪の的なのですが、自惚れの強い性格のせいが全くそれに気づいていません。彼はアントワネットに高額なプレゼントを贈り続けているのですが、全て拒絶されていて、ここの付け込んできたのがあのヴァロア家の末裔の悪党「ジャンヌ・ド・ラモット」です。彼女はアントワネットの代理人と偽り、ローアン枢機卿から金品をだまし取ろうという魂胆なのですが、その詳細は次巻以降で明らかになります。

巻の後半では、死刑と拷問による報酬の支払いが滞っていて、家の財政が火の車となったシャルル・アンソンが国王ルイ16世に面会して、支払いを求めているのですが、国王は死刑執行人だけでなく役人に給与を支払う余裕がない、と拒否し、いずれ死刑や拷問を廃止すると宣告します。かなりの暴君ぶりではあるのですが、ルイ16世にはなにか別の思惑があるようですね。

さらにシャルルとルイ16世が面会している部屋の外では、国王暗殺にやってきたジャックとマリーのバトルが始まっているのですが、詳しくは原書のほうで。

レビュアーの一言

フランス革命が本格化していく兆しの一つが、1774年の小麦の取引自由化と不作が複合して、民衆に小麦が行き渡らなくなり、都市市民や農民が反乱をおこした775年の「小麦粉戦争」なのですが、その後、小麦とか穀物の供給が安定したかというと、1784年にアイスランドのラキ火山が大噴火を起こしまきあげられた噴煙による低温・多雨などの異常気象で、その被害はアイスランドのみならず、世界中にひろがり、フランスにおいても食料不足や農民の困窮を招き、社会不安を増大させています。

日本では、これにあわせて浅間山が大噴火して、天明の大飢饉が引き起こされています。

フランス革命の原因というとマリー・アントワネットに代表される宮廷の浪費や、イギリスとの七年戦争、アメリカの独立戦争の支援による戦費の増大といったことがあげられるのですが、これ以外にも、天災もおきるという「泣きっ面にハチ」の状態であったようですね。

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