国王夫妻からマリー・サンソンへ、処刑ドミノは続く=「イノサン Rouge」9~12

フランス国王からの委託を受けて、パリで死刑を宣告された囚人の処刑を執り行う一族「サンソン家」の一員で、ルイ16世やマリーアントワネット、ロベスピエールなどフランス革命期の多くの有名人の首を刎ねた伝説の「シャルル・アンリ・サンソン」と女性でありながらベルサイユの処刑人「プレヴォテ・ド・ロテル」となった妹「マリー・ジョセフ・サンソン」を中心に、フランス革命を裏面からとらえた歴史コミック・シリーズ「イノサン」の革命篇となる『坂本眞一「イノサン Rouge」(ヤングジャンプコミックス)』の第9弾から第12弾。

前巻までで、革命政府ができた後、新規開発された大量斬首機・ギロチンで有名人物たちの処刑を続ける兄シャルルと、革命政府の警備隊長となった妹マリー=ジョセフだったのですが、今回は革命が過激化し、ルイ16世やアントワネットといった王族や王党派だけでなく、革命派も巻き込んだ殺戮と処刑の嵐が吹き荒れていくフィナーレへと突き進んでいきます。

あらすじと注目ポイント

第9巻 ルイ16世、シャルル=アンリ・サンソンによって処刑される

第9巻の構成は

n°58 ルイ・カペー処刑の朝(1)
n°59 ルイ・カペー処刑の朝(2)
n°60 ルイ・カペー処刑の朝(3)
n°61 ルイ・カペー処刑の朝(4)
n°62 ルイ・カペー処刑の朝(5)
n°63 ルイ・カペー処刑の朝(6)
n°64 ルイ・カペーの葬送(1)

となっていて、長男ガブリエルの自殺に近い事故死によって精神を破壊された、兄シャルルのもとへルイ16世(この時は王位をはく奪されて「ルイ・カペー」となっているのですが)の死刑の執行命令が届きます。国王の処刑という、ほとんどのフランス国民が経験したことのない事態に、シャルル=アンリ・サンソンも畏れて執行は無理かと思われたのですが。ここで登場したのがまりー=ジョセフ。彼女は、祖母のアンヌ・マルトに扮してシャルルを鼓舞し、処刑執行へと向かわせます。

このあたり、作者特有の倒錯的なSMシーンが登場しますので、心しておいてくださいね。

そして、シャルル・アンリの従者を務めるのは、マリーの子供「ゼロ」で、彼はルイ16世のエスコートと処刑台への案内を務めます。これ以後、彼はシャルルの処刑に立ち会っていくこととなります。

後半では、ルイ16世の処刑が描かれているのですが、当時、国王の血を記念に持ち帰ろうとして取り巻いていた民衆が殺到して、持っていたハンカチを我先に血だまりに浸して持ち帰ってそうですが、2010年ごろに瓢箪の容器に保管された現物だというものが所有していたイタリア人家族によってDNA鑑定にかけられています。残念ながらこれはルイ16世のものではない、と結論付けられたのですが、血液鑑定の元試料となったアンリ4世との血縁関係がなかったことを示しているだけで、不倫の横行していた当時の宮廷のことを考えると、本人のものであると主張する人もいるようです。

第10巻 革命の闘士マラーの暗殺と、国王逃亡事件の真相は?

第10巻の構成は

n°65 ルイ・カペーの葬送(2)
n°66 ルイ・カペーの葬送(3)
n°67 暗殺の天使(1)
n°68 暗殺の天使(2)
n°69 暗殺の天使(3)
n°70 ロココの葬列~ヴァレンヌ逃亡事件~(1)
n°71 ロココの葬列~ヴァレンヌ逃亡事件~(2)

となっていて、前半では、ルイ16世の遺体を民衆の略奪から守って運び出し、秘密裡に埋葬を行うシャルル=アンリの姿が描かれます。実は彼は史実でも、「王党派」で知られていたので、このシーンはフィクションではあるものの、彼の本音を代弁したものといえるでしょうね。

中盤では、「人民の友」という煽動的な新聞を発行し、テュイルリー宮殿の襲撃や、九月虐殺を煽ったといわれる「マラー」の暗殺事件です、彼を暗殺したのはシャルロット・コルデーというジロンド派の女性なのですが、このシリーズでは単なる暗殺者ではなく、女権論者で、マラーの暗殺は、警備を担当していたマリー・ジョゼフのアシストの末の犯行になっています。

後半部分は、国王夫妻が拘束される原因となった「ヴァレンヌ逃亡事件」の始まりです。

バスティーユ監獄にはじまるフランス革命で、王族や貴族は次々と亡命しくなか、スウェーデン貴族・フェルゼンの手引きで、国王一家も亡命を企てます。アントワネットLOVEのフェルゼンだったのでしが、結果としてこれが「国民を捨てた」とい受け取られ、国王や国王妃処刑への道をつけてしまった感がありますね。

第11巻 国王夫妻の亡命は失敗し、アントワネットは囚われの身となる

第11巻の構成は

n°72 ロココの葬列~ヴァレンヌ逃亡事件~(3)
n°73 ロココの葬列~ヴァレンヌ逃亡事件~(4)
n°74 ロココの葬列~ヴァレンヌ逃亡事件~(5)
n°75 バラ ベルサイユ(1)
n°76 バラ ベルサイユ(2)
n°77 バラ ベルサイユ(3)
n°78 バラ ベルサイユ(4)
n°79 バラ ベルサイユ(5)

となっていて、前半では前巻で始まった「ヴァレンヌ逃亡事件」の結末が描かれます。途中まで成功するかと思われた亡命だったのですが、ルイ16世の突然の心変わりによって失敗してしまいます。まあ、心変わりというよりはフェルゼン伯爵とアントワネットの不倫が許せなかったというところでしょうね。

ここで不幸だったのが国境近くの町で、国王夫妻であることを道行く民衆に気づかれてしまうところで、以前、即位式のためにパリからランスへ向かった時に、多くの人々に面が割れてしまったことが命取りになっています。

後半部分では、ヴァレンヌ逃亡事件で決定的に国民の信頼を失い、家族と引き放されて収監されているマリー・アントワネットが描かれます。激しい凋落に打ちひしがれるアントワネットなのですが、ここで王妃としてのプライドをかきかて、闘争心に火をつけるのは、やはり宿敵マリー=ジョゼフ・サンソンですね。

彼女の挑発的な行為に、王妃としての自覚が蘇ったアントワネットが「栄光ある処刑」へと臨んでいく様子が凛々しいですな。

第12巻 王妃アントワネットの処刑後、マリー=ジョセフ・サンソンも処刑される?

第12巻の構成は

n°80 バラ ベルサイユ(6)
n°81 バラ ベルサイユ(7)
n°82 バラ ベルサイユ(8)
n°83 バラ ベルサイユ(9)
n°84 Lepilogue de lhistorie des la famille Sanson (1)
n°85 Lepilogue de lhistorie des la famille Sanson (2)
n°86 Lepilogue de lhistorie des la famille Sanson
(3)Finale Lepilogue de lhistorie des la famille Sanson~Meteor Rouge~

となっていて、前半部分は前巻に引き続き、マリー・アントワネットの最後の場面となります。彼女の処刑を務めるのはこのシリーズでは史実と違い、マリー=ジョセフ・サンソンとなっているのですが、ここで、二人が初めて会った時のエピソードが繰り返されますので、チェックしておきましょう。

そして、シリーズの締めくくりは、マリー=ジョゼフ・サンソンによる自身と、ロベスピエールなどの革命の急進派の処刑です。

まずマリーのほうは革命派でありながら、ロベスピエールの命令に従わないところを咎められ、反逆分子として捕縛、処刑されてしまいます。彼女もギロチンによる斬首刑となるのですが、ここで彼女が選択したのが「仰向け」による斬首です。このありえない処刑には、実は彼女のある企みが隠されているのですが・・ということで種明かしのところは原書でご確認を。

そして国王夫妻や政敵を次々とギロチン台に送り、革命の勝利者となったかに見えたロベスピエールだったのですが、このマリーの処刑のショックが彼を徐々に蝕み始めます。マリー=ジョセフが蘇り、自分の首をとりにくるという幻想にとちるかれたロベスピエールをある日、マリー=ジョセフそっくりの人物が襲撃し。と言う展開です。

レビュアーの一言

シリーズの最後は、鉄仮面を脱ぎ、シャルル=アンリ・サンソンに別れを告げて旅に出る「ゼロ」の姿で締めくくられているのですが、実際のサンソン一族は、シャルルの息子アンリが五代目となり、孫のアンリ=クレマンソ・サンソンが6代目となっているのですが、6代目がギャンブル狂であったため、サンソン家の財産を食いつぶし、ギロチンも売り飛ばした末に、死刑執行人を罷免されています。その後、サンソン宗家の血筋は絶えたと言われているのですが、死刑廃絶論者であったシャルルにとっては、死刑執行人の一族がいなくなることは彼の希望でもあったかもしれません。

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