病気や老衰による孤独死や自ら命を絶った人の出た部屋や、ごみ屋敷などのいわゆる「事故物件」の部屋をクリーニングして、再び貸し出せる状態にセットアップする会社「エンドクリーニング」社を舞台に、そこにもちこまれてくる「特殊清掃」案件に絡む様々な事件とヒューマンドラマを描いたのが本書『中山七里「特殊清掃人」（朝日新聞出版）』です。
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あらすじと注目ポイント
収録は
一 祈りと呪い
二 腐食と還元
三 絶望と希望
四 正の遺産と負の遺産
の四話。
第一話の「祈りと呪い」は、事務機器メーカーが倒産して無職となり、特殊清掃業務がどんなものか知らずに再就職してきた「秋廣香澄」という女性が主人公です。彼女が入社早々、社長の五百旗頭亘とともに出向いたのが、大田区の池上あたりの築二十年経過しているRC造りの二階建てアパート。ここの一階の部屋で脳梗塞を発症して死亡し、一か月後に発見さにゅされた女性の部屋をクリーニングする、というのが今回のお仕事です。彼女の部屋はゴミ屋敷と化していて、クリーニング費用も相当嵩みそうで、アパートの大家はなんとか安くあげさそようという魂胆が:見え見えだったのですが、実家の母親は費用を全額負担すると聞くと、遺品整理もついでに頼んできます。このため、社長の五百旗頭が遺品の引き取りを母親に打診すると、お骨以外は不要だから処分してくれ、という回答です。
そして、部屋の隅々までクリーニングしていると、クローゼットに中から、男物の派手な色合いのジャケットやラメ入りのパンツが見つかるのですが、死者に男友達がいたという情報はありません。さらに、フローリングの床に「みんな、滅びろ」と書かれているのを見つけ、死んだ女性が突然死した理由をつきとめるため、香澄は女性の元勤め先の自動車ディーラーの会社を訪問します。そこで、香澄は彼女の意外な姿を発見し・・という展開です。
第二話の「腐植と還元」は社長の五百旗頭が探偵役。依頼者は夫が残した西新宿にある投資用マンションをベンチャー企業の若い独身の経営者・伊根に貸していたのですが、その伊根がマンションの浴室で突然死し、浴室の風呂に追い焚き機能があったために、グツグツと煮込まれて、シチュー状態になって発見された部屋の「特殊清掃」です。
死者の伊根は、浮気者らしく、自ら経営していた会社の従業員の女性に何股もかけていて、今回の死亡事故はひょっとすると殺人かも、と五百旗頭は現場の様子に違和感を抱きます。そこで、関係していた女性を集めて、形見分けの会を開くのですが、といった筋立てですね。
しかし、何も決め手がなく終わろうとするのですが、五百旗頭が抱いた違和感は、スマホの請求書と、普通ならどこの家でも部屋に無造作においてあるスマホの充電器が見当たらないことで、彼はあることに気づくのですが・・という展開です。
このほか、「エンドクリーニング」のもう一人の従業員・白井が、若い頃一緒にバンドを組んでいた仲間のギタリストの孤独死の後の「特殊清掃」をし、そこで、亡くなった旧友の遺作をかつてのバンド仲間が盗作したのでは、という疑惑を見つけ、その解明に乗り出す「絶望と希望」、「平成最後の相場師」と呼ばれた男が自宅で心臓発作で死亡し、一週間後に家政婦によって発見されるのですが、彼が遺していた姉妹三人で等分に財産を分けるという遺書とは違う内容のものが、長女と次女に次々に届きます。そこには、宗教にのめり込んで、自分の財産を食いつぶすであろう長女と次女への相続権をなんとかしようとする、死んだ相場師の遺志が隠れていて、という「正の遺産と負の遺産」が収録されています。
レビュアーの一言
「特殊清掃」というネタ的にグロテスクなシーンの多い怪奇ミステリーかな、と思ったのですが、意外や意外、突然死した死者たちがなぜそんな死に方をすることになったのかを描く、ヒューマン・ミステリーでした。しかもLGBTQなど、書かれた当時、社会的に話題であったろうことが仕込まれているところが、現代の社会事象をさりげなく扱う筆者らしいところです。さらに、筆者お得意のドンデン返しを仕込まれていて、シリーズ化が望まれる作品ですね。
ちなみに、おなじ特殊清掃を扱ったミステリーには、加藤実秋さんの「モップガール」シリーズがあるのですが、主人公が、被害者の遺した想いに感応した超常現象に襲われ、それが事件解決のキーとなる、そちらのシリーズもおすすめです。
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