人事部よ、もっと「熱心」に「我が事」として経営を語れ ー 八木洋介・金井壽宏「戦略人事のビジョン」

「人事部」といえば、事業セクションの人間からいえば、要求しても人員は措置してくれないし、なにやら隠れて「査定」とかしている「闇の組織」、人事セクションからすると真面目に組織全体を配慮しながら人の配置やら、人の採用とかをやっているのに、「世間知らず」で高慢と思われる損な役割、というのが相場ではないか、と人事と事業どちらも経験した当方は思うのである。
どちらが正しいか、ってなとこは最後の【まとめ】で述べるとして、本書『八木洋介・金井壽宏「戦略人事のビジョン〜制度で縛るな、ストーリーを語れ」(光文社新書)』は、日本鋼管、GEで人事部の中心として活躍されていた八木大介氏と、気鋭の経営学者・金井壽宏により、人事についての”熱い”提案の書である。

【構成は】

まえがきー金井壽宏
第一章 人事は何のためにあるか
第二章 組織の力を最大限に高める
第三章 改革の旗を振る
第四章 リーダーを育てる
第五章 「強くて、よい会社」を人事がつくる
あとがきー八木大介

となっていて、金井教授が新書を著す時によく見る、双方の掛け合いで展開していくつくりである。筆者の一人の八木氏はGEを含めて人事担当の経験が長く、さらのその分野で数々の実績もある方らしく、GEやNKKの実例も豊富で、具体的な記述も多く、人事屋の「読みもの」としても面白い。

【注目ポイント】

「人事部」の聖域性とか権威性の回復を考えて、この本を読もうとするのなら、止めておいたほうがいい。
なぜなら、一種の「人事部」を生まれ変わらせようとする本だからで、それは

私は、こういうことこそが人事の一番大切な仕事だと考えています。社員の頭の中に霧がかかっていれば、霧を晴らす手伝いをする。社員の心の中で火が消えかけているのであれば、熱く語って火つけ役になる。場合によっては、社員の心の中に手を突っ込んでグルグル引っかき回す。そうやって、社員のやる気を高めるために人事の仕事はあるのだと確信しています。

といったところでも明らかで、今までの採用あるいは配置転換で、「絶大な」権限をもっている(はずの)人事部のスタイルを正面から変えようとするもので、ここは結構、刺激的である。

その前提で、”あるべき”人事部は

(会社の)戦略をベースに、ふつうの人である社員とのコミュニケーションを図り、そのやる気を最大化し、企業の生産性を向上させること、これが私の考える戦略人事のあり方であり、人事部門が担うべき役割

であり

戦略人事における最大の課題はマネジャーやリーダーの育成であり、その仕事には会社の命運がかかっています。

ということなので、旧来のような、いわば経営部門、事業部門から超然とした人事部ではなく、事業にコミットすることが求められる、というのが本書の主張。

では、今まで、総務とか人事とか、会社の「管理部門」として「管理」に純化していればよかった部門がこうした役割を担わなければならないのかというところは、

日本企業も変わるべきときを迎えています。熾烈なグローバル競争においては、使命感をもった「よい会社」も、利益優先の「強い会社」との競争を余儀なくされます。そして、「よい会社」が競争に打ち勝っていくためには、自社のよさを戦略的に使いつつ、「強い会社」がもっている優位性を積極的に取り込んでいく必要があります

という現実認識に基づいていて、要は、管理も営業も製造も、総力戦で「会社」の行く末にコミットしなければいけない、生き残れない時代になった、ということでもある。

そして、本書では

人事には、会社が曖昧な状況に置かれているときに、進むべき方向性を示すアンバサダー(大使) の役割、トップが言うことを社員にわかるように伝え、社員が抱いている思いをトップに正しく伝えるトランスレーター(通訳) の役割、それから、社員のやる気を引き出して集団のパワーを最大化するために、会社の戦略をストーリーとして語るストーリーテラー(語り手) の役割、社員の悩みやフラストレーションを、言葉によって前向きの考えに変えていくエンライター(啓蒙者) の役割があります。まとめて言うと、人や組織を最大限に活用し、その会社の「勝ち」を実現するのが人事の役割

と、人事を担当する人へかなりの「激」が飛ばされているので、今まで、テクニカルな部分に安住して、「権威性」を保っていた「人事部」の面々は肝を冷やすところも多いだろうが、ここは時代が変化しているのだな、と認識して、自らも「変革」することを始めたほうがよいと思う。

【まとめ】

「人事」についての本というと、経営やマネジメントに携わる人間にとっては、ちょっと他人事の部分があって、要は「うまいことしとけよ」といったところがあるもの。
本書は「人事部」が必要かどうかは別にして、「人事」がマネジメントの根幹になるうる可能性があること、また「人事」によって「マネジメント」が変わる可能性を示唆してくれる本である。
「人事部」勤務の人たちではなく、むしろ、マネジメントに携わっている人に勧めたい一冊ですな。

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