ひよっこ病理医・宮崎は「病理」の新しい道の模索を始める=「フラジャイル 病理医岸京一郎の所見」27【ネタバレあり】

臨床にでることなく、生体検査や病理解剖などを通じて、病気の原因過程を診断する専門医が病理医。都会の大病院・壮望会第一総合病院の病理部診断科長・岸京一郎と女性見習い病理医・宮崎、病理部たった一人の敏腕臨床検査技師・森井を中心に、臨床をもたずに患者を治療する病理医たちが、臨床医たちの誤診と傲慢や医療業界の理不尽に立ち向かっていく姿を描く医療コミック・シリーズ「フラジャイル 病理医岸京一郎の所見」の第27弾。

前巻で神経膠芽腫を再発し、緩和ケア科に転科してきた元噺家の岩城の頑なな心を開き始めた新米緩和医・朝加だったのですが、今回は彼のたっての希望を叶えることに力を注ぐ前編と大病院を辞め病理専門のラボを立ち上げた小田川医師の物語が収録されています。

あらすじと注目ポイント

第27巻の収録は

第108話 大当たりだろ
第109話 未来の病理医
第110話 最強のチーム
第111話 病理の学校

となっていて、前半では、前巻に引き続いて癌の末期となっている元噺家の岩城の夢をかなえるべく、彼の独演会の開催に力を注ぐ朝加医師の姿が描かれます。

すでに体に力がなくなっている上に声も出しにくくなっている中、今まで一緒に人生を送ってきた妻と芸の道を教えてくれた師匠の前で人生最高の高座を務める岩城こと「風来亭ぽん吉」の姿が描かれます。

演目は、長屋に住む棒手振りの魚屋夫婦の情愛を描いた「芝浜」のようですが、そこに至るまでに死を見つめる場面での、「死神」の演題が散りばめてあるのが印象的です。

中程では、病理医の月定例の勉強会で、壮望会の病理医を退任し、現在は個人で病理診断とセカンドオピニオンを受け付ける病理診療クリニックを開いていて小田川医師の若き頃の話がでてきます。

数十年前の、診断ではなく「検査」扱いをされていて、医療法上では専門医資格どころか医師免許がなくても病理診断ができた時代から、現在の病理の専門医制度ができあがるまでにもってきた彼の熱意と努力が報われるまでが描かれているのですが、ここで、主人公の一人の宮崎医師が小田川の考えに惹かれ、クリニックに定期的に手伝いにいくことになるのですが、どうやら宮崎の目指す病理医の目標が、岸の目指す病理医の方向性と少しずれ始めているよhな印象をうけます、

これは後半部分で、若い医師見習いをあつめて病理医のスカウトをするために始めた「病理の学校」でだんだんと明らかになっていくのですが、ここに、岸が恩師の中熊の大学の病理学教室を受け継がないか、と提案されている話と関係して、これからの壮望会病院の病理の行く末にも関わっていきそうです。

レビュアーの一言

今巻では「病理」の冬の時代から、病理診断が「専門」の診療科として認められてくる時代への変遷が興味深いですね。ただ、現在でも外科などのアシスト役と考えている臨床医との軋轢もあわせて描かれていて、道半ばである様子がわかります。

こういう様相は医学の分野だけでなく、古くからの体制が残っている中で新分野が勃興している多くの分野に共通しているような感じがしていて、この古い殻が固く残ってしまったのが、現在の日本経済の苦境の原因なのかもしれませんな・と思った次第です。

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