「お客様のために」ではなく、「お客様の立場で」の意味とは — 鈴木敏文「売る力ー心をつかむ仕事術」(文春新書)

その時代をリードする企業の経営トップの経営書というものは、どうしてもその時代のトレンドその企業の栄枯盛衰の影響を受けるものである。本の内容とは別に、様々な評価がくだされるので、手放しで褒めておけばよいというものではないらしく、さて今回はどうするか、ということであるのだが、なんにせよ、今は勢いの衰えぬセブンイレブンの創業者の書籍ゆえ、その経営理念をあれこれとレビューしておくとする。

構成は、

第1章 「新しいもの」は、どう生み出すのか?

第2章 「答え」は「お客様」と「自分」なかにある

第3章 「ものを売る」とは「理解する」こと

第4章 「本気」の人にチャンスはやってくる

であるのだが、冒頭のあたりで、

「売る力」とは売り手側から見れば、文字通りモノを売る力です。しかし、裏返すと、お客様に「買ってよかった」「食べてよかった」「来てよかった」と思ってもらえる力ではないでしょうか(P7)

といったように「お客様」へ対する立ち位置が本書を通じるキーワードとなる。で、その「立ち位置」というものは、

売り手は「お客様のために」ではなくて「お客様の立場で」考えなければならない(P94)

「お客様の立場で」考えるときは、ときには、売り手としての立場や過去の経験を否定しなければなりません(P96)

というもので、世間の通念をどぅと揺さぶるところが、「コンビニ」という業態の発明者らしいところである。

さらに、レビューしておきたいのは、その新しさへの継続した訴求で、

人間にはみんなと同類でありたいという心理とともに、そこからまた抜け出して「自己差別化したいという自意識」もあります。そのため、流行が一定量になると飽きて、新しいものへと移行していきます。結果、流行は長続きしない。つまり流行に乗って商売をするということは、お客様に飽きられるものを売っている、ないしは、お客さまがその商品が飽きるような状況をつくり出しているわけです。その意識をもって、どこまで流行に乗るか、どこで新しい流行に切り替えるかを見極めることで、常に「飽きられない商品」を提供できるのです(P26)

と、「新しいもの」が古びていく、コモディティ化していくことを踏まえながら、

ポイントは「上質さ」と「手軽さ」という。タテとヨコ、二つの座標軸で市場をとらえたとき、競合他者も進出していなければ、誰も手をつけていない「空白地帯」を見つけ、自己差別化することです(P55)

参入が容易で誰もが狙う六割のお客様に目を奪われず、空白地帯にいる四割のお客様のニーズに確実に応えることで大きな成果を得る。市場の大小に目を奪われるか、自己差別化で勝ち残る道を見出すか、違いがここにあるのです(P60)

と、絶え間ない「ブラッシュアップ」を提案し、実践するところが、トップランナーとしてある所以であろうか。

こうした創業リーダの経営書というものは、その人の今までの実践録や、経営経験をこれでもかと披瀝されることは多いのだが、本書で、「おう」と思うのは、秋元康氏や佐藤可士和氏など、鈴木氏が対談したり、一緒に仕事をした時の、様々な「知恵」がおしげもなく紹介されているところであろう。一つの道を究める人は、他の道を究める人のこともよく理解できるということの現れであろうか。

さてさて、こうした目線というか、仕事のスタイルというのは、「小売業」「流通業」だけでなく、多くの仕事に共通するものと思えて、それぞれの仕事や立場に応じて、翻案していくっていくのが、それぞれの「読み方」であろう。

水温が上昇して百度を超えると沸騰するように、人間社会でもある仕掛けや働きかけが一定段階まで積み上がると突然、ブレークする爆発点があります。これは、お客様の心理にもあてはまります。何らかの働きかけにより認知度が一定レベルまで高まると、ブレークし、行動に表れるようになるのです(P160)

という言葉を胸において、精進いたしましょうかね、

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