中洲に現れる不思議な屋台が心の凝りを溶きほぐす ー 篠宮あすか「あやかし屋台なごみ亭 1 金曜日の夜は不思議な宴」

「屋台」っていうのは場所を問わず、売りものがラーメンであろうとおでんであろうと、はたまたフレンチであろうと、妙な吸引力をもっている存在であることは日本国中の共通理解に間違いない。客の吸引力の強い「屋台」の中でも、九州・博多の中洲の屋台は最強で、博多っ子だけでなく、出張者や「トラベラーも夜な夜な引き込んでいる存在である。

そんな数ある博多の屋台の中でも、
①屋台にメニューがない
②誰もが行けるわけではない
③いつもあるわけではない
④店主の女性はモデル並みの美人
という、ひときわ変わった存在の屋台・なごみ亭を舞台にくりひろげられるファンタジーが、本書「あやかし屋台なごみ亭」シリーズである。

【収録と注目ポイント】

シリーズ最初となる本巻の収録は

はじまりの一夜
二夜・あの子のシチュー
三夜・金曜日の醤油風味
四夜・お節介な餃子奉行
五夜・卵焼きとやさしい番人
番外夜・ある日、彼女の憂鬱

となっていて、このシリーズの主人公の一人、木戸浩平が「なごみ亭」のアルバイトとして引き込まれるところからスタート。この浩平という人物、甘味・辛味・酸味は感じるが塩味だけは感じない、というやっかいな味覚の持ち主である。

そんな彼が、博多の上川端にある注連懸稲荷神社で、丸っこい小さな石を拾ったことから、その神社の使い魔・コンと「なごみ亭」の女主人・なごみに出会い、さらには「なごみ亭」でなごみに出してくれた「明太子入り卵焼き」に、幼い頃失った「塩味」を感じたことから始まる。

物語は、屋台に訪れる客たちが注文する「メニュー」を通じて、彼らが抱えている「心の中のわだかまり」を溶かしたり、その客の「障り」を解決していくという展開で、そのお客は、注連懸稲荷神社のお使い狐の「コン」が引き寄せる「あやかし」連れてくる、といった筋立てである。

この店でメニューがないのは、本巻で連れてこられるお客がそれぞれに好きな料理を注文するからで、その料理は

・猫又の飼い猫に連れこられた若い女性・聡美の母親が昔つくってくれた「水炊きシチュー」
・天の邪鬼が、クラブのホステス・瑞希に食べさせたいといった、隠し味入の「カルボナーラ」
・「なごみ」の祖父で「なごみ亭」の創始者・史朗が、稲荷のお使い狐「コン」と彼の母親の和解のための「鉄なべ餃子」
・浩平に憑いていた「白蛇」が注文した彼の作った、不味そうな「卵焼き」

といったもので、いずれも何か秘密を隠していそうなものばかりである。
そして、この料理の数々で解決されていくものは様々なのだが、例えば二話目の「あの子のシチュー」では、飼い主の聡美に近いうちに訪れる「命の終い」を予見した飼い猫の猫又が、彼女の思い出に残るように懐かしいシチューを食べされるのだが、その「命の終い」が訪れた時に、終わるのは、聡美の生命ではなくて・・・、といった展開で、多くの話で物悲しい後味が残るのは「屋台の味」ゆえであろうか。

主人公たちの会話には、かなりの濃度で「博多弁」が混じっている。博多っ子ではない当方には、その博多弁が正しいのかどうかはさだかではないが、博多を訪れている気分が合わせて味わえるのは請け合いますので、そこらも楽しんでくださいな。

【レビュアーからひと言】

このシリーズのよいアクセントになっているのが出てくる料理で、例えば、三話めの「鉄なべ餃子」は

パリッと香ばしく、しかしもっちりとした感触も残している餃子の皮を噛めば、瞬間にあふれてくるのは閉じ込められていた肉汁。それはただの脂ではなく、細かく刻まれたニンニク、しょうが、ニラ、白菜からにじみ出た旨味が混ざりあった、深い味わいがあるものだ。
そこに、ごま脂、塩コショウ、八角、隠し味のオイスターソースの細かな味まで、しっかりと舌で感じ取ることができて・・

といったもので、このほかにも思わず唾を飲み込んでしまう品々が登場する。ほっこりとする話の合間に、こうした料理も味わえるオトクなつくりになってます

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