700人超のビジネスマンに聞いた「定年後」の秘訣ー河合薫「定年後からの孤独入門」(SB新書)

企業勤めをしているビジネスマンの人生最後の転機というと、なんといっても、その組織を否応なしに去る「定年」なのではないでしょうか。最近では、若いうちの転職・転進とか、フリーランス化によって一つの組織でビジネスマン人生のほとんどを過ごすことは減っいるとはいえ、今頃、定年退職をするビジネスマンのほとんどは一つの組織内、という人が多いはず。
そうした長年過した組織を離れた「退職後」にが、家族や周囲からの疎外感を感じたり、喪失感を味わったり、と悩んでしまう人に向けて、定年前後の働き方や、機嫌よく生きていく秘訣についてアドバイスされているのが本書『河合薫「定年後からの孤独入門」(SB新書)』です。

構成と注目ポイント

構成は

プロローグー人生とは会社、会社とは不条理
第1章 古戦場巡りに気付く”ぼっち”の世界
ールーティンの喪失
第2章 塩漬けおじさんが定年で失敗する理由
ー定年ぼっちになる人・ならない人
第3章 ぼっちは定年前から始まっている
ー有意味感
第4章 死ぬより怖い「ぼっち」の世界
ーアイデンティティーの喪失
第5章 人生に意味をつくる
終わりと目的

となっていて、本書の特徴は、筆者がインタビューした700人超のビジネスマンからの聞き取りをもとに、その成功談や失敗談、なんとかうまく過ごしている話とかから、実態に基づいた「コツ」を抽出しているところでしょう。
なので、

定年後、孤軍奮問した「古戦場」を訪れたり、その界限をさまよう人は実に多い。行きつけの飲み屋でママさんが振る舞う手料理や、それを肴に飲んだくれた常連たちへの懐かしさに加え、かつての人間関係の中に自分の居揚所を確認しようと心が無意識に動く。

であったり

再就職先では私はシニア社員の一人でしかない。飲み屋ひとつとっても扱いが変わります。そんなのは分かっていたことだし、大したことじゃないって思っていました。なのに、実際に経験すると結構、プライドが傷つくわけです。私みたいなのを、″塩が抜けないクって言い方をするらしいです(苦笑)。私は社外とも人間関係があるし、趣味だってある。タコつぼ人間になっているなんて自覚は皆無でした。でも、実際は40年過ごした組織で、しっかり塩漬けになっていたんです。

といった本書によると「古戦場巡り」現象や、「塩抜けしていない」」現象のリアルが描かれている、あっと自分の経験に似たようなことがあるのに気づく人も大出のはないでしょうか。このへんは、現代の企業社会が

定年のあり方が多様化し、ヨつの会社で勤め上げて、はい、おしまい!」の時代が終馬を迎えた今、定年翌日から切れ日なく雇用延長や再犀用が始まるのが新しい定番であ一る。その結果、「生前葬」のような仰々しいイベントは消滅し、こぢんまりとお疲れさま会やら還暦祝いが開かれるくらい。・・・・人生後半戦への節日が曖味になり、自分の立場の変化を受け人れるのが難しくなった。生前葬が消え、成仏できなくなってしまったのだ。

といった環境変化も影響しているのですが、そればかりでなく

会社というのは実によくできたシステムで、あたかも自己決定したような感覚を味わわせてくれるイベントがいくつもある。例えば、新規事業のプロジェクトに関わったり、会社の代表として海外赴任したり、新卒や中途人材の採用を担当することも、自分で決めた感覚を堪能できる。つまるところ、会社に忠実な「組織人」ほど自律性が脆弱で、会社員でいること」を目的にする働き方になる。

という「組織がもつ魔力」によるせいもあるようで、この「魔力」からいかにして逃れていくか、というのが、定年後の人生を機嫌よく生きていくコツになるようですね。

本書によれば、そのコツは

①ルーティンを作る
②おばちゃんトークをまねる
③目の前の仕事に完全燃焼する
④次世代に役立つことをする
⑤「家庭」のボールを大切にする
⑥人生が自分に何を期待しているかを考える
⑦緩いつながりをつくる
⑧自分に期待する

ということのようなのですが、詳しくは原書のほうで確認してくださいね。少しだけネタバレすると

こういった当たり前の繰り返しが行動習慣となっている家族は、ストレスに強い。特に「朝ご飯は、必ず一緒に取る」というルーティンを大切にしている家庭の妻は夫への満足感が高く、子供のストレス対処力が高く、家族のメンバー全員の人生満足度が高いことがいくつもの研究で確かめられている。

ということのようなので、定年退職してから、何か気分が鬱々とするし、家族の仲も隙間風が吹く、という方は、「朝ごはん」対策から始めてみるといいかもしれません。

さらに途中にはイラスト付きで「残念なおじさん図鑑」が載っているので反面教師として
使ってみてください。

レビュアーからひと言

本書は、「定年後」を直接のターゲットとして書かれているのですが、人生百年時代と言われて、ダブルキャリア、トリプルキャリアがフツーのことになったり、企業の寿命が、人間のビジネスマン人生の長さより短くなっている現在では、一つの職場を離れた、あるいは離れざるをえなかった時の、心の持ちようや、喪失感・焦燥感からのリカバリーの仕方は、すべてのビジネスマンが心しておかないといけないことであるように思えます。定年なんて先の事だから・・・と思っている、若いビジネスマンにもおすすめの一冊ですよ。

Bitly

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