長次郎ゆかりの熟柿泥棒の陰に悪人組織が巣食う — 和田はつ子「かぼちゃ小町」(時代小説文庫)

第一シリーズの第25弾となる本巻では、前巻まで、未解決となっていた不審死の真相が明らかになる。
 
構成は
 
第一話 あま干し柿
第二話 秋すっぽん
第三話 かぼちゃ小町
第四話 もみじ大根
 
となっていて、まず第一話では長次郎ゆかりの熟柿が盗まれる所からスタート。犯人は大金を積んでも口に入らない食通・豪商あたりの差し金かとみえて、熟柿つくりの肝の座布団が捨てられていたり、といったことで、もっと深い陰謀がありそうな風情である。この盗難事件での不幸中の幸いは、北町の隠密同心・伊沢蔵之進ゆかりの「干し柿」の製法が手に入りそうなあたりか。
 
第二話はちょっと舞台が変わって、瑠璃の滋養のために飲ませている「すっぽんの血」を提供してくれている、すっぽん屋の娘・楓の奉公先の料理屋・四季屋の主人殺し。四季屋の主人には、仕入れ・やりくりといった経営から、客の差配まで仕切っている、三十過ぎの美女・理彩がいるのだが、まあ、こういうキャラに対する作者の態度は、このシリーズの読者であれば、もうお分かりですよね。
 
第二話の四季屋の殺人事件の真相も明らかにならないまま、話は十年前の「かぼちゃ小町」といわれた八百屋の娘が、婚約者から折檻されて殺された疑いのある事件の再捜査へ横展開。
 
最終話の「もみじ大根」で、消化不良のまま展開してきた今巻の事件を含め、前巻、前々巻での米沢屋の事件やお連の変死といった”指掛け”になったままの事件をはじめ、10年前のかぼちゃ小町の事件以降の不審死の犯人が明らかになる。その相手は、なんと甲賀者まで引っ張り込んだ、結構大掛かりな設定の悪党なのだが、「天下の大乱」とならないのが、このシリーズが市井の捕物帳であるせい。上田秀人の「加賀百万石」などとはここが違うところであるな。
 
さて、今までの悪党退治は、出張というか、悪党の根拠地に出張っての立ち回りで、塩梅屋や元許嫁の瑠璃が養生させてもらっている、お涼さんの家は、安全な居場所であったのだが、今巻から、ここまで戦線が広がってきた展開である。次巻以降、どんな悪役キャラが登場してくるでありましょうか。
 

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