「働き方改革」=「時間外削減」ではないことを認識すべし — 沢渡あまね「働く人改革」(インプレス)

本書の題名は「働く人改革」であるが、原書では、「働く人」の後に二重の取り消し線の引かれた「働き方」の文字が記されている。
そう、今喧しい「働き方改革」への一種のアンチテーゼが本書である。

構成は

はじめに
働き方改革=残業なくせばそれでいいんだっけ
第1章 働く人改革の源泉は「主体性」
第2章 「減らす」仕事と「増やす」仕事
第3章 「らしさ」を育む四つの視点
第4章 世の中の企業の取り組み
株式会社ポッケ
ヤマハ発動機株式会社
株式会社カウネット
株式会社ラクーン
日本ビジネスシステムズ株式会社
株式会社メディアシーク
興津螺旋株式会社
ヤフー株式会社
株式会社ナフコ
ジヤトコ株式会社
第5章 改革にのってこない人をどうするか?
第6章 働く人改革は誰得?
第7章 働き人改革を定着させつコツ
おわりに
働く人のための改革を

となっていて、まず注目すべきは「残業が減ればよい」「無駄な仕事を減らそう」と、「減らすベクトル」ばかりが強調される昨今の議論に対して

真の働き方改革とは、いかにネガティブな仕事を減らして、ポジティブな仕事を増やすかです。働くひとのモチベーションと主体性を高めつつ、生産性を上げる基本原則。しつこいですが、単に労働時間を減らせばいいというものではありません。(P43)

と異議をとなえているところ。思うに、「改革」「変革」が頓挫するのは、「止める」、「減らす」が本社から現場へという流れで進むだけで、現場んpメリットが見えない場合が多い。これは、今議論されている「働き方改革」でもある種そういう臭いがしていて、「働かせる側」のメリットは見えるのだが、「働く側」のメリットが、時間外縮減というごく一部のものを除いて見えてこない。このあたり、本書の提案する「ポジティブな仕事」、たとえば感謝される仕事や自分「らしさ」が発揮できる仕事を加える仕組みをつくっていくことが、「働き方改革」にもつながると思うのだが、どうであろうか。

そして、もうひとつ丁寧に読んでおきたいのは「改革にのってこない人」いわゆる「抵抗勢力」の扱い方のところ(第5章のところだね)。

抵抗勢力が変化をいやがる原因である「余計な仕事が増える」や「私たちは特殊です病」といったところについては、他の著者のものや、この著者のほかの著作でもでてくるので、特段目新しい部分は少ないのだが、「ほう」と思うのは、その対処作で、「広報部門」との協働を提案しているところ。
働き方改革に限らず、意識改革や職場改革がはじめは景気よく始まるのだが、いつの間にかしぼんでしまうのは、人事部門を中心とする管理部門主体で進むことが多く、トップが関心が強い時はよいのだが、トップの興味が他へ移ると下火になっていくことがよくある。その点、本書では、広報部門を巻き込み、組織内外に向けた「広報戦略」として位置づけているところが特筆すべきところで、

外から「働き方改革が進んでいる企業」と見られるようになるにつれて、抵抗勢力はどんどんマイノリティー(少数派)になります。外堀を埋めれば、中の抵抗勢力は黙る(P206)

といったところは、幾多の挫折を味わった、多くの「人事部門」の方々へのエールでもあるのだろう。

このほか、国内企業10社のインタビューも交えた実践例も掲載されているので、「時間外縮減」に限定されない「働き方改革」をやってみたい、企業や公務組織の担当の方々は目を通しておいて損はないと思いますね。

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