リモートワークは「一時の流行」や「福利厚生対策」じゃないー沢渡あまね「職場の科学」

新型コロナウィルスの感染が拡大していた第一波の頃は、どこの企業も「リモートワーク」「オンラインワーク」にこぞって取り組み始め、あっという間に高騰し、品薄状態になったWebカメラなどPC周辺機器を必死に確保したのも過去の話。感染のひとまずの収束とともに、いつのまにか今までと同じ満員電車での通勤とオフィスワークの毎日に戻っているビジネスパーソンも多いのではないでしょうか。
しかし、今回の動きを一過性のものとしてとらえるのではなく、「働き方の変化」「仕事のやり方の変革」としてとらえるべきとして、様々なデータのもとに分析したのが、本書『沢渡あまね「職場の科学」(文芸春秋)』です。

構成と注目ポイント

構成は

序章 職場データが導く「理想の働き方」
本章 データから読み解く「職場の科学」
01 成果を上げる営業ほど「限られた相手」と「密なコミュニケーション」をしている
02 「紙」は職場の生産性を下げる
03 部下の数が「5人以下」と「6人以上」で上司の負担は大きく変わる
04 部下からの信頼が厚い上司はメールの返信が3時間早い
05 結果を残すのは「個人で力を発揮でいる人」ではなく「コラボできる人」
06 メールを中心としたコミュニケーションはもう古い
07 優秀な人ほど「上司と一緒の会議」に出ている時間が短い
08 帰属意識が高いのは「働きすぎの人」でも「あまり働いていない人」でもない
09 「社内人脈の広がり」は社員の「成長」に等しい
10 「リモート会議」が増えれば、それだけ「人材ネットワーク」も広がる
11 「個人の業績」だけの評価をやめる
12 優秀な人ほど「誰にも邪魔されない集中タイム」を多く持っている
13 人数の多い会議は「生産性」も「やる気」も低下させる
14 会議は別に集まってやらなくてもいい
15 ハイパフォーマーほど「自分仕切り」の会議が多い
16 部門別の「コラボ度」を「見える化」するとわかること
17 「外部の人が入らない会議」はモチベーションが下がる
18 「定例会議」を減らす
19 「負荷の高い会議」を「見える化」する
20 上司の人脈は広いと部下の満足度も上がりやすい
21 優秀なマネジャーほど「部下の仕事のばらつき」が少ない
22 上司と部下の「1対1の面談」はやはり重要
23 フリーアドレスでも、結局「同じ場所」で仕事をしてしまう
24 「働き方改革」は人事部だけの仕事ではない
25 「部下のキャリア・マネジメント」は上司の仕事の一部
26 現場のリーダーが変わらない限り、社内の価値観は変わらない
27 リモートワークは福利厚生ではなく、「生産性向上の選択肢」
28 制度を整えるより「罪悪感なく子どもを迎えに行ける空気」をつくる

となっていて、本書の特徴は、「職場の問題地図」をはじめとした「問題地図」シリーズの筆者が、IT企業で今はビジネス全般のコンサルタントもしている「日本マイクロソフト」の取り組みや収集したデータをもとに、会社の「仕事のやり方」を分析し、改善・改革案を考える、というところで、精神訓話や一方的な情報に基づいて書かれることのある「働き方」系のビジネス本と一線を画しています。

構成としては、前半部分が「個人としてのワーク」、中盤が「会議」、後半部分が「チームとしての働き方」といった形に分けられるのですが、まず前半部分の「個人としてのワーク」で注目しておかないといけないのは。やはり「紙」と「メール」のところ。

紙の文化はコラボレーションの大敵

今回のコロナ感染拡大時の日本社会・企業の「欠陥」とまでいわれたことに「ハンコ文化」ということがあって、最近は政府自らが「ハンコ」を目の敵にしているようなところがあるのですが、当方が思うに、本丸は「ハンコ」ではなくて「紙」。本書でも「紙を伴う業務は、世の中の空気を読まずに人を場所に縛り付ける働き方を強要します」と「紙とハンコ」をセットで考えていますね。そして、この「紙文化」の本当のデメリットは「紙の情報では古すぎる」ということと

紙文化は「限られた人だけ」の情報共有をしやすくする、クローズドな情報共有スタイルです。クローズドな情報共有はコラボレーションを阻害します。(略)ペーパーレス化だけの問題ではありませんが、情報がクローズドになりやすい制度や文化は、それだけで働く人のエンゲージメントを下げ、ひいては企業のブランド価値を下げていってしまうのです

というところにあるようなので、「紙」をベースにした仕事の進め方になんの疑問も持っていない企業は危機感をもったほうがいいでしょうね。この延長で。「メール」優先の企業文化ももはや古びてきていること言及されているのですが、ここは本書のほうで確認してください。

会議をオンラインで改革する

そして、オフィスワークの改善でいつも矢面になる「会議」についても、

就業日数が25%も減っているにもかかわらず、リモート会議の比率を高めることで、むしろ人材ネットワークは10%も活性化しています。もちろん、活性化の要因を秘湯に求めるのは乱暴ですが、リモート会議の割合が増えれば、よりコラボレーションしやすくなるのは間違いありません。

であったり、

リモート会議のもっともインパクトが大きい側面は「リードタイムの少なさ」かもしれません。日本マイクロソフトで話を聞くと、会議やミーティングをセットする場合、対面でやろうとすると概ね5日から1週間先になりますが、リモートであれば、場合によってじゃ「今すぐ」もあり得ます。

ということで、リモート化・オンライン化によって対面で会う機会が減ることがデメリットのように言われることがよくあるのですが、むしろ対面でやることの準備の手間や移動や設定時間のロスを省いて、そこをどう使うか、という視点からの議論に切り替えたほうがいいですね。特に、オンラインかリアルか、の二者択一論はやめたほうがよさそうです。

さらに

私は常々「役員会議こそ会議の面積を減らした方がいい」「リモートに切り替えた方がいい」と主張しています。それは、その場にいない部下たちの時間をm子消費するからです。役員会議を開催する場合、部長クラスが同席する場合も多いく、どうしても人数が増えがちです。会議のコストもさることながら、役員や部長クラスが会議室に閉じこもり、難時間も音信不通になると、部下たちの「待ち時間」が発生します

といったあたりには、思い当たることの多い、企業や行政関係のエライ人も多いのではないでしょうか。

このほか、withコロナのもとでの「新しい働き方」論であったり、チーム管理の話など、参考になるアドバイスも多いので、人事管理や経営管理セクションの人以外にもおススメな一冊です。

レビュアーからひと言

本書の中心は「働き方」「ワークモデル」の改善なのですが、後半のところで、地方に居住する私にとって少し気になる記述があります。それは、

新型コロナウィルスの問題で、都市部の企業、特に大企業はリモートワークを否応なく体験しました。その経験により、「仕事はどこでもできるよね」「場所に囚われない方がコラボレーションしやすいよね」「時間効率は高いよね」などさまざまな気づきを得ました。こうした気づきを得た都市部の企業や大企業(かつオープンな企業)は、働き方を進化させていくことでしょう。一方、地方の企業や中小企業で、こうした体験をしなかった企業は、従来の働き方を悪気なく続けてしまいます。その結果、都市部や大企業との働き方の格差が広がります。・・・都市部や大企業との人材格差が間違いなく広がるでしょう。

というところなのですが、地方の企業がこうした変化への対応に遅れ、地方の行政が「リゾートワーク」などと浮かれているうちに、地方部の人材の空洞化はどんどん進んでいってしまうのでは、と思ってしまったのですが・・。

Bitly

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