働き方改革はなぜ進まないのか? — 本間浩輔「残業の9割はいらない」(光文社新書)

「働き方改革」が引き続き、声高に語られ、最近は「働き方改革=時間外縮減になってませんか?」ってなフレーズを、N◯Kの朝のニュース番組あたりでも言われるようになっている。
でも、そこで出てくるのが、例えばフリーアドレスや少人数チーム制といった「働き方」のハード面の話が多くて、「もっと本質的なところあるんでは」といったモヤモヤ感が拭い去れなかったのは当方だけではないはず。
そういったモヤモヤした雲を払っ、「青空」を見せてくれるとともに、最近発言が少なめになっている「人事セクション」への激を飛ばしているのが本書。

【構成は】

第一章 「週休三日制」楽じゃない
第二章 ヤフー流・「幸せな会社」のつくり方
第三章 部下の「努力」を評価してはいけない時代
第四章 現場の人事力を磨く
終章 三〇年後、私達はどう働くか

となっていて、著者が勤務する「1on1」とかの「ヤフー」の人事制度や働き方改革の紹介のほか、本当の「成果主義」や「日本の雇用現場の課題」について、幅広く言及してある。

【働き方改革がすすまないのは誰のせい?】

で、一体誰が「働き方改革」を邪魔してるの、と分析してみると、実はボスキャラ一人を探すような、そう単純な話ではなくて、

実際のところ、日本企業の労働生産性が低いのは、社員がムダな会議に出なくてはいけないとか、よけいな資料を作成しなくてはいけないとか、一度決定したはずにおことが度々修正されるとといったことにも起因しており、そうした状況をつくり出しているのは、主として経営者や幹部たちです。要するに、組織の内部にいろいろなムダがはびこっていることもあって生産性が低くなっているわけで、それらを早期に排除するのは、経営トップや幹部の責任です(P143)

であったり、

最近、「フラリーマン」という言葉を耳にしました。働き方改革が広がる中、仕事が速く終わってもまっすぐ家に帰らず、書店や家電量販店、ゲームセンターなどをフラフラと漂う人たち(主に男性)をそう呼ぶそうです。

もちろん、空いた時間をどのように使おうが本人の自由であり、フラリーマン人生は見方によってはなかなか楽しそうではあります。けれども、企業の働き方改革がフラリーマンの生みの親だとすると、果たしてそんなことでいいのだろうかという気もします。(P139)

といったように、経営者、マネージャー層、一般職員含めて、みんながその原因じゃないの、といった事情が出てくるわけで、総掛かりで取り組まないと、この問題が先行きしないな、と思い知るんである。

【働き方改革がうまくいかないのは?】

さらに、「人的側面」以外に働き方改革がうまくいかない原因は

その原因の一つは成果主義の不徹底にあるだろうと私は見ています。社員に自由な働き方を認める一方で、成果をきちんと測って評価するということを怠れば、必然的に企業の競争力は落ちてしまうからです(P112)

日本企業の成果主義では、本当に「成果」を評価しているのかという疑問も拭えません。どういうことかというと、企業側は、社員の「アウトカム(成果)」で評価すると言いつつ、実際には時間などの「インプット」で評価する傾向が強いのです(P117)

といったことらしく、こうなると、ひところ「グローバル主義」大合唱の中で成果主義が言われてはいたが、「かけた時間」や「熱心さ」ではなく「成果」そのものをきちんと、面倒なく評価する方法というのは確立できていない、ということで、あの十数年の人事改革フィーバーはなんだったんだろうね、と思ってしまうのである。

ひょっとすると、「評価」「評価」といっていたことは間違っていて、本書で紹介する「ノーレイティング」のほうが現実的かもしれんですね。

また、こうした「成果主義」の徹底は、そんなに心地よいものではなくて、実は「働く人」を無傷のままにしておかないもののようで、例えば

頑張れば必ず報われると思っている人は、見返りを得られているうちは頑張るけども、見返りが得られないとわかると頑張らなくなる。さんまさんが鋭く突いているのはそういう「見返り主義」の弊害ではないかと思います(P122)

といった「見返り主義」の排除や

働き方改革が私が考えているような形で進めば、人々は個人契約に近いかたちで企業に属するようになります。雇用条件はその人の労働市場における価値によって決まり、報酬は成果に応じて支払われます。そうすると所得に差が出てくるのは、ある程度仕方のないことで、私達は自由で多様な働き方を享受する代わりに、そういう厳しい現実も受け入れなくてはなりません。(P188)

といった風に、全ての働く人に「バラ色」というわけではないことが「働くひと」にわかっているというところが、問題の解決を遅らせたり、複雑にしているところもあるかもしれない、思いましたな。

【働き方改革を進める方策】

じゃあ、どうすればいいんだ、となると、そこは会社によって千差万別。先述の「成果」をきちんと評価する手法の確立か、評価ではなく、上司と部下の対話の頻度を上げて、目標設定とフィードバックをふだんから行い、個人と組織のパフォーマンスを最大化する仕組みを入れたりであるとか

企業を家族からチームに変えるためには、たとえば雇用を「メンバーシップ型」(職務や労働時間や「勤務地」が契約で限定されていない日本型の雇用システム)から「ジョブ型」(職務も労働時間も勤務地も限定され、社員は文字通り「職」に就く、日本以外の国々で一般的な雇用システム)に移行させることもか考えるべきでしょう(P146)

であったりするのだが、ここは

働き方改革を進めていくうえでは、人事は今こそ、人事制度のリストラクチャリング(再構築)を図らなくてはなりません。(P158)

といった人事セクションの頑張りとともに、ヒューレット・パッカードの創業者の一人・デイブ・パッカードの「我が社に人事部はいらない。人事というのはすべての人の責任であるべきだ」(P164)という言葉どおり、全ての「働かせる人」「働く人」が「自分ごと」として考えることが、マスター・キーであるような気がします。

【レビュアーから一言】

さて、「働き方」をテーマにして、ひさびざに「人事制度」について熱く語られている本書。今までの議論以外にも「ヤフーの1on1」であるとか、社員のコンディションをよい状態にキープすることを目的とした「社員食堂」であるとか、「働き方」だけではなく「働くこと」の周辺の最新の情報も示してくれるので、人事企画担当者ばかりでなく、多くの「働くひと」が目を通しておいて損はないですよ。

ついでに、本書にでてくるニューヨークのオルフェウス室内管弦楽団のような組織についての理論「フォロワーシップ理論=強力なリーダーシップを持つカリスマ的な人物がいなくても、フォロワーであるメンバー一人ひとりが当事者意識を強く持ち、自律的に動くようになれば、強いチームはつくれるし、自ら動ける、しぶとい組織になる、という考え方」は、ちょっと当方的には注目情報なんで、勉強したら、またレビューいたしますね。

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