小蔵屋にライバル出現、しかし、本当の事件は・・・ ー 吉永奈央「その日まで 紅雲町珈琲屋こよみ」(文春文庫)

大観音像のそびえる地方の中核都市で、「小蔵屋」という和食器とコーヒー豆の小売を商う小さな店を営んでいる、70歳がらみの初老の女性、「お草さん」こと「杉本草」を主人公としたミステリーの第二弾である。

ここで「初老の女性」としたのは、このシリーズの帯には「気丈なおばあちゃん」とあるが、この主人公、「じゃじゃ馬」であった女性が年を経て、それなりに丸くはなっているのだが、時によってはトゲを出し、犯人探しの捜査にも乗り出す、といった風情であるためで、クリスティの「ミス・マープル」のような老女性をイメージしては間違ってしまうのでご注意を。

【収録と注目ポイント】

収録は

第一話 如月の人形 第二話 卯月に飛んで 第三話 水無月、揺れる緑の 第四話 葉月の雪の中 第五話 神無月の声 第六話、師走、その日まで

となっていて、それぞれの話の最初の、和暦の「月名」でわかるように、ほぼ1年間の「小蔵屋」の出来事を綴った物語となっている。

まず最初の「如月の人形」は、この巻を通じて重要な役回りを演じる「田沼」が登場。「お草さん」が、住宅街で、汚れた裸の人形を見つけ、それが縁となって、田沼の姉の子ども・タケルと出会う所から始まる。タケルが着ているパーカー、ジーンズ、スニーカーは薄汚れている上に、無表情な瞳が、何か事情があることを表している。実は、彼の両親、再婚後、蕎麦屋を営んでいるのだが、タケルに蕎麦アレルギーがでたため、離婚を考えている、という設定。タケルの居場所を突き止めるあたりが、謎解き仕立てなのだが、全編を通じてのこの話の意味は、小蔵屋を訪れた、近くの潰れた温泉リゾートホテルの倒産した理由のあたりにあるので、注意しておいてくださいな。

第二話の「卯月に飛んで」では、「つづら屋」という和雑貨屋が登場。この店は、近くの経営の悪化した和菓子屋を、不動産業者が買い取り、その業者の娘が店を開いた、ということなのだが、小蔵屋の前で販促のチラシを配ったり、と「やり手」であることはわかるが、「商人道」としてはどうかね、という設定である。この話では、「つづら屋」、「小蔵屋」の「人間性」の違いを、福祉作業所「たんぽぽ」の製品をめぐって際立たせている。

第三話の「水無月、揺れる緑の」は、「つづら屋」の話しとはがらっと変わって、「お草さん」がまだ若い(といっても40歳ぐらいなのだが)頃に出会い、今は売れっ子彫刻家をしている「須之内ナオミ」という女性の、高校生時代に彼女が大事にしていた油絵の道具が焼かれる、という事件の犯人探しを依頼される話。この話の謎自体は、時代の先端をいくような女性と平凡な家族との軋轢のような話なのだが、その捜査の過程で知り合う、ナオミの同級生・能理子が、後の話で大事な役回りを演じるという凝った設定でもある。

第四話の「葉月の雪の中」も「つづら屋」の話とは変わり、「お草さん」が墓参りの際に知り合いになった「妹尾」と彼の後輩の妻が営む「香菜」というカレー屋にまつわる話。その後輩は、店を持つのが夢だったのだが病にかかり、その遺志を継ぐ形で、妻の「香菜」がカレーショップを出した、ということなのだが、その店をに入れるににあたって、「ひどい方法」で手に入れた、と香菜は気に病んでいる。さらには、その店の元の持ち主の息子から再々小遣いと称して強請りにあっているようで・・・、という展開。話のほうは、香菜に好意を寄せている「妹尾」の想いを届ける筋立てなんであるが、この話でも、重要なのは、香菜のいう「ひどい」方法のほうなので、これまた話の本筋とは別に注意しておいてくださいな。

第五話の「神無月の声」で、ようやく話が「つづら屋」にかえってくる。この「つづら屋」という店は、経営の悪化した和菓子屋を買い取っての開店したのだが、それを手に入れるために第四話の「ひどい方法」が使われた気配がある。それを恨んだ、和菓子屋の店主は、毎日、つづら屋の真向かいにあるベンチに座って、つづら屋をにらみつけている。そのうち、つづら屋で放火事件もおきて・・・、という展開。この話で、第四話でお草さんと知り合いになるナオミの同級生・能理子が夫婦で営む「鮨屋」も「ひどい方法」で潰されたことがわかる。果たして放火の犯人は、能理子の夫なのか・・、というのが伏線である。さらには、小蔵屋に無言電話が連続したり、店の前に土砂が撒かれたりといった嫌がらせも起き、ということで、最終話に続いていく。

最終話の「師走、その日まで」で、第一話から第五話まで周到に準備されてきた、この巻の数々の謎のつながりが明らかになる。それは、「お草さん」が若い頃、再婚話のあった「藤原一京」という男が関連する話で、彼は、老舗呉服店を弱台紙、和服専門リサイクルショップ、不動産業、金融業まで事業を拡大させた。いわゆる「やり手」実業家で、その分、胡散臭い話は数々ある、という人物。そして、第一話で登場した「田沼」とその「藤原」が、実は親子であるらしく・・といった展開である。最終話は、謎解き以外にもアクションシーンもあるので、両方楽しんでくださいな。

【レビュアーから一言】

最初は、小蔵屋と「ライバル店」つづら屋との商売戦争の話かなと、思わせつつも、実は「つづら屋」の背後にいる人物の因縁の親子関係につなげていく筆者の手腕は見事なもので、筆者の導く展開に乗っかっていって、山あり谷ありの物語展開を楽しむのが、当方としてはオススメである。 もっとも、それぞれの話も、単話として、それぞれに特徴があってよい仕上がりなので、安心して読んでくださいな。

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