おばあさん探偵は少年連れ去り犯の疑いをかけられ、京都から紅雲町まで逃走中=吉永南央「薔薇色に染まる頃 紅雲町珈琲屋こよみ」

大観音像のそびえる地方の中核都市で、「小蔵屋」という和食器とコーヒー豆の小売を商う小さな店を営んでいる、70歳近くの初老の女性、「お草さん」こと「杉本草」を主人公としたミステリーの第10弾が本書『吉永南央「薔薇色に染まる頃 紅雲町珈琲屋こよみ」(文芸春秋)』です。

いつもなら、主人公・お草さんのコーヒー豆と和食器の店「小倉屋」を中心とした地元「紅雲町」周辺で起きる事件が物語の中心なのですが、今回は、以前、店の経営資金に充てるため手放した想い出のこもる「帯留」を買い戻そうとしたことがきっかけで、思いもよらないサスペンス・アクションに巻き込まれていきます。

あらすじと注目ポイント

構成は

第一章 長い約束
第二章 メジャーと竹尺
第三章 湖に降る
第四章 神様の羅針盤、くまの寝息
第五章 薔薇色に染まる頃

となっていて、物語は東京駅近くにあるアンティークショップ「海図」から「お草さん」に電話がかかってくるところから始まります。
その店は、以前、「お草さん」が友人の男性が元愛人の結婚祝いで贈りながら、いくつかの行き違いでお草さんが譲り受けた「首留」を小倉屋の経営が苦しい時に買ってもらった店なのですが、その後、買い戻したいと伝えていたところ、十数年ぶりに店へその品が戻ってきた、という連絡がはいった、というところですね。

ようやく戻ってきたその品を買い戻すために、その店に出かけた「お草さん」なのですが、帯留が店に帰っていないか何度も店を訪れたことから知り合いになった、近くの経営者の子供である男の子・ユージン(現在はすでに成長して、そのバーをまかされているようですが)のバーの外階段の入口に警察の立入禁止テープが張られているのを見かけます。

「海図」の主人に聞いたところでは、その店の若い経営者・ユージンが行方不明になっているらしく、事情をさぐるため、その店に無断で入った彼女は、店内にユージンが残したと思われるメモを見つけ、2千万の札束の入った袋を「アールスイング」という名前の古い洋服店へ届ける、という依頼をj^引き受けることとなります。

ユージンの父親・ムロハシは相当ヤバい仕事をしている裏社会の人間なのですが、ユージンは実の息子でありながら、食事も満足に与えられず、お草さんが「海図」を尾と訪れた時はなにかしら食べ物をもってきてやっていた、という間柄です。実はユージン自体も成長してから、父親のヤバい仕事の片棒を勝がされたようで、彼の失踪も、店に血だまりも残されていたところから、犯罪がわみの事件では、と想像されるところです。

犯罪がらみのお金ではと疑いながら、その店へ札束を届けた後、お草さんは無事その店を出、帰途につくのですが、帰りの新幹線の中で、キョウカとジュンと名乗る若い女性と小学生低学年ぐらいと男の子になつかれてしまいます。

キョウコは、ジュンを「京都のホテルに匿ってほしい。すぐに迎えをやりますから」という謎の依頼を「お草さん」にした後、品川駅で新幹線を降りてしまうのですが、降りたところの駅ホームで、二人づれの男に襲われ、刃物で刺されてしまって大怪我を負い、という筋立てです。ここのところで、ジュン少年が、行方不明になっているユージンとその父親の関係者であることがほのめかされていて、この事件がユージンとその父親の絡む犯罪がらみであることをほのめかしています。

さらに、ここから「お草さん」とジュン少年の逃亡逃走劇が始まるのですが、ユージンの父親・ムロハシの通報によって、お草さんが小学生連れ去り事件の容疑者にでっち上げられてしまい、全国的にマスコミ報道もされた上に、ムロハシが差し向ける追手も迫ってきます。

お草さんはキョウコのいう「迎え」とは誰なのか、ほとんどヒントもない中で、ジュン少年を無事保護することができるのか?、京都、近江八幡へとお草さんの逃走活動は続いていくのですが、ここで、小倉屋に残った「久実」の推理のおかげで危ういところを逃れて、お草さんとジュン少年は紅雲町へ脱出することに成功します。そして二人が還った小倉屋に現れた人物は・・と最期の結末が待っているのですが、今回は苦みの少ないプチハッピーエンドです。

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レビュアーのひとこと

すでに久実との同棲生活を始めながら、なかなか正式の結婚まで踏み切れない久実の恋人の一ノ瀬なのですが、その原因には、彼の実家の「一ノ瀬食品」の経営難ということもあるのですが、このほかに彼の過去の性癖も関係しているようです。今回、それをにおわす、元警官で探偵事務所をしている「辺見」と、交番勤めになった「遠藤」という警察官が登場します。
このシリーズは、巻ごとに執筆時のトピックなことを盛り込んであることが多いのですが、今回はLGBTQっぽい感じを当方は受け取りました。これが、これからの小倉屋と久実の運命にどう影響してくるかは、次巻以降のお楽しみですね。

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