「メンタルトレーニング」を「ビジネス」に取り入れる ー 大儀身浩介「勝つ人のメンタル」

スポーツの世界で「勝つ」ためのメンタルが強くなければ、とよく言われるのだが、これはビジネスの世界でも共通で、才能にあふれ、弁論も爽やかな優秀な人が、プレッシャーに負けてプロジェクトを破綻させたり、結果が出せなかったりといった実例は、ビジネスパーソンであればいくつも目撃したことがあるはずだ。

こうしたメンタル面での「強さ」が求められる世界といえば、「スポーツ」の世界であるのだが、スポーツ経験を活かしながら、スポーツ心理学に基づく「メンタル・トレーニング理論」をベースにしたコミュニケーションやチーム・ビルディングのアドバイスで実績を上げている筆者による、メンタルトレーニングのビジネス版が本書『大儀身浩介「勝つ人のメンタル」(日経プレミアシリーズ)』である。

【構成と注目ポイント】

構成は

序章 心は鍛えられる
第1章 目標設定がやる気を生み出す
第2章 最高の心理状態をつくる
第3章 集中力のカギは楽しさにあり
第4章 イメージトレーニングで人生に勝つ
第5章 なぜプラス思考が重要なのか
第6章 セルフトークで感情を制御する
第7章 本番に強くなる心の整え方
第8章 共感力がメンタルを高める
終章 リーダーのためのメンタルトレーニング

となっていて、まず最初に

多くの人が、「自分はプレッシャーに弱いから」とか「本番に弱いから」「あがり症だから」と、本番でうまくいかないことを諦めていますが、それは大きな誤解です。
心は自分自身でコントロールすることができます。トップアスリートたちが身体のトレーニングと同時に「心のトレーニング」をしているように、一般の人もトレーニングによって心を鍛えることができるのです。

ということで、「プレッシャーに負けない心」は、選ばれた人だけが体得できるものではなく、一般人にもその資格があるらしいので、まずは安心していい。

そのためには、

トップアスリートは、誰もがはっきりとした目標を設定しています。
ただし、単に目標を立てるだけでは不十分です。旧ソ連のある研究によると、一流のアスリートは明確な《夢Ⅱ目標》を持っていました。二流・三流のアスリートは、《夢=目標》を持っていませんでした。つまり、一流と二流の差は、きちんとした目標設定をしているかどうかに表れていました。
しかし、一流のアスリートの中でも「超一流」と呼ばれる人たちは、ただ目標を設定しているだけではありませんでした。目標とともに、それを実現するためのプランを持っていました。何年後に目標達成するかを定め、その一年前にはどこまで達成する、二年前には何をやっておく、三年前までにここまでできるようにするというように、目標に至るプロセスまできっちりとプランニングしていたのです。たとえれば、迷路を進む時の「道しるべ」です。

ということで、やみくもに進むのではなく、明確な目標設定と「作戦」が必要らしく、このへんはビジネスでも成功と失敗の分かれ目になりそうですね。そして、そのための手法として、「ゴールセッティング(目標設定)シート」の紹介があるのだが、これは筆者がセミナーとかで使用されているモノなので、原書のほうで確認を。

ただ、一つ注意事項をネタバレしておくと

トップアスリートや目標達成できる人は、プロセスや課題、自分の成長を重視するのに対して、なかなか目標を達成できない人は、結果重視の思考をしているのです。
結果を強く求められるトップアスリートが結果重視の考え方ではない、ということに不思議さを感じるかもしれませんが、実はスポーツ心理学の研究で、あまりにも結果を追い求めすぎると、かえって結果がついてこないということがわかっています。

ということなので、すぐ「成果は」とか「実績は上がったか」などとプレッシャーをかけるのは逆効果のようなので、上司の方々は注意しておきましょう。

上司の影響と言えば、本書でも

スポーツの世界では、イライラしたら負ける確率がグンと高まります。感情をコントロールできず、実力を発揮することができなくなってしまうからです。そのため、わざと相手チームの主力選手を挑発したり、自由にプレーさせないようにしてイライラさせる作戦をとることもあるほどです。
ビジネスの世界でも、イライラがプラスになる場面はそうそうないでしょう。チーム内のコミュニケーションの悪化はそのまま業績の低下につながることが多いですし、いつもイライラして部下を怒鳴りつけるリーダーが率いる組織はまとまりに欠けます。
スポーツにおいてもビジネスにおいても、リーダーやメンバーの心理状態が成績に密接にかかわっているものなのです。

ということであるので、感情の起伏の激しい人や、気分屋の人、悲観主義の人は、あなたの心理状態がチームの足を引っ張っているかもしれないので、感情のコントロールはとても大事なものだと認識しておこう。とりわけ「怒りっぽい」人は、このメンタルトレーニングのほかに「アンガーマネジメント」の手法を勉強しておいた方がいいかもしれない。

そして、こうしたスポーツを根っこにした「メンタルトレーニング」の場合は、その手法が具体的で、例えば

こうすればリラックスできるものを条件付けしてしまいましょう。
(略)
もっとも簡単で手軽なのが、音楽を聴くことです。

といったように、レースの前に好きなアーティストの曲を聴いているアスリートの姿はおなじみになっているし、

リラックスから連想するものは何かと考えると、海、浜辺、あるいは森林浴葱どといったものが浮かんできます。それらは、水色、緑、黄緑といった色をしています。
したがって、緑系統の色を身の回りに配しておくと、心が落ち着きやすいと言われています。

といった「色を使ったリラックス法」とか、野球のイチロー選手がバッターボックスに入るときのバットをぐるんと回す仕草や、ラグビーの五郎丸選手が以前のワールドカップで見せたキックをするときの仕草を使った「集中法」などが紹介されている。

このほか、最近定番の手法となってきた、イメージトレーニングや、ポジティブ思考の維持の仕方といったことにも、きっちり言及されているので、メンタルトレーニングに興味のでてきた人は、「入門書」として手に取ってみるとよいねと思うところである。

【レビュアーからひと言】

ビジネスとスポーツの共通点は多々あって、その成功理論もさることながら、以前のスポーツ界の指導理念であった「根性重視」、「精神論重視」といった負の理論部分をこれまた、ビジネスの世界でそのまま引き継がれているように思う。
本書のような「科学的手法」「心理学的手法」をチョイスして、自らのビジネス理論を塗り替えていくことが大事なような気がします。

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