エディージャパンのメンタル強化の秘訣 ー 荒木香織「ラグビー日本代表を変えた「心の鍛え方」 」

ラグビーワールドカップでの日本ナショナルチームの活躍は記憶に新しいとは思うが、2019年の大会をさかのぼること4年前、今回の活躍の基礎を築いた絵dぃ・ジョーンズ・ヘッドコーチのもとで、メンタルコーチを務め、選手のメンタル面での強化を担当した筆者による、「メンタルを鍛える」ための「スキル」をアドバイスしてくれるのが、本書『荒木香織「ラグビー日本代表を変えた「心の鍛え方」 」(講談社+α新書)』である。

筆者は2019年のワールドカップの時には、すでに日本チームのメンタルコーチを退いて、大学で教鞭をとっているのだが、かつては有望アスリートであった筆者が選手としての挫折を経験し後、メンタル・コーチとしてのトレーニングを積み、「勝つ文化」のなかった日本チームの「心」を変えた実践記録でもある。

【構成と注目ポイント】

構成は

はじめにーメンタルコーチという仕事
第一章 最高のパフォーマンスを発揮するためのメンタルスキル
第二章 自分の自身をつけるためのメンタルスキル
第三章 目標を達成するためのメンタルスキル
第四章 困ったときのメンタルスキル
第五章 受け止め方を変えるメンタルスキル
おわりにーラグビー日本代表がもたらしたもの

となっていて、こういう経歴をもつ人のアドバイスであると、何か特別なスキルの伝授を思い浮かべてしまうのだが、

「平常心で試合に臨む」そういう言い方をするアスリートもいます。その人が言う平常心とはどのような状態なのかわかりませんが、理論的には平常心という状態は、「興奮の度合いが低く、不安をあまり感じていない状態」のことを指します。
しかし、そういう状態で行われたパフォーマンスは、じつはもっとも完成度が低いのです。これは、科学的に証明されていることです。平常心で臨んでも、決していい結果は出ます。}むしろ、適度に興奮し、不安もある程度抱えている状態のほうがいいパフォーマンスができると言われています。不安があればより集中しようとするし、準備も入念に行わざるをえないからです。

や、よくいわれる「ゾーン」や「フロー」といった状態についても

そういう現象が起きるのは私も信じているのですが、どうしてそうなったのかはわかりません。たしかに「今日はいつもと違うな」という感覚はあったのですが、じゃあもう一回できるかといったら、不可能です。
メンタルコーチングに関する本のなかには、「こうしたらフローになれる」と、その方法が書いてあるものもありますが、私は絶対にウソだと思っています。
研究で、「ある程度のスキルを持ったアスリートはフローに入りやすい」ことがわかっているのは事実です。でも、「フローはどうやって起こるのか、どうすればなれるか」というような因果関係については、まったく解明されていません
意識的にそういう状態にもっていくのは不可能といっていい。

といったあたりには現場で選手とともに行動してきた人ならではの「直言」である上に、スポーツに限らず、ビジネス現場でも、例えばプレゼンなどの場面では貴重なアドバイスであるような気がします。さらには、

日本人は、じっは目標を立てること自体は好きで、得意です。とくに自分に対する理想が高い人は、あれこれ目標を立てる傾向があります。スケジュール帳を真っ黒にしないと不安になるというのも、そのひとつでしょう。
ところが、実際に達成しているかといえば、どうでしょう。立てるだけ立てて、意外と達成していないのではないですか?
よくあるのが、「PDCA」の罠。生産管理を円滑に進める手法として、PDCAサイクルというものがあります。PⅡ四目(計画)、DIpo(実行)、CⅡ○胃鼻(確認)、AⅡシg(改善)の頭文字をとったもので、この四段階を繰り返すことで、業務をスムーズに行えるというわけです。
それは間違っていないのですが、性々にしてそのサイクルをくるくる回っているだけになってしまい、「はて、目標は何だったつけな?」となりかねない。いったい何のためにやっているのかわからなくなってしまい、単に失敗しないための対策になってしまうわけです。
そうしたことを避けるためにも、期限を決めることが必要です。

といったあたりには耳の痛いビジネスパーソンも多いんではないでしょうか。そして、本書によれば

「少しがんばれば達成できる」スポーツ心理学では、そういう目標を設定するのが、いちばん適切だとされています。
いまの自分にはちょっと高いかもしれないけれど、その実現に向けて前向きに取り組む。
その結果、達成したことが自信となり、そこからはじめて次のステップに進むことができるということが研究で明らかになっているのです。

ということであるらしいので、当期の営業目標や経営計画を立てるにあたっては、気合だけが先行するものや、確実に達成できそうなものはNGのようなので、気を付けておきましょう。
このほか、頭の仲が真っ白になる状態を防止したり、ミスを防ぐための方法として「注意や集中を自分の内から外へ変える」ことが有効で

たとえば、ラグビーでポールを落としやすい選手は、「落とさないように、落とさないように」と考えてばかりいます。でも、以前にも述べましたが、人間は、自分の考えていることが行動に出ます。「落としたらダメだ」と考えるから落としてしまうのです。

であったり、

プレッシャーというものは、見ることはできないし、触ることもできません。本人の受け止め方の問題なのです。
自分が受容していることが行動に出る。前にそう言ったと思います。自分がその状況をいかに受け止め、認知するか。それによって行動は変わってきます。本人がどうとらえるかで、マイナスにも作用すれば、プラスにも作用するのです。

といったところは、スポーツに限らず、いろんな場面で使えるアドバイスであるように思います。

このほか、ネガティブな考え方の断ち切り方とか、漠然とした不安に襲われた時の対処法など、メンタルのトラブルに陥った時に使えるスキルが数多く紹介されているので、企業などでメンタル対策や新人研修とか、人材の育成に携わっている人は目を通しておいた方がよい一冊ですね。

【レビュアーからひと言】

本書によれば、「自信がある人」になる方法
①自信があるようにふるまう
②セルフトーク(ひとり言や自分自身との対話)
③繰り返し練習する
とのことだが、そう言われてもなかなかできるものではないですよ、アスリートは特別でしょ、とつい思ってしまうのだが、

「アスリートはメンタルがもともと強い」という思い込み。でも、すでに述べたように、現実はアスリートも一般の人もメンタルの強さは変わりません。アスリートだからといって、心理的にダフだとは言えないのです。

ということであるようなので、ここは騙されたつもりで、本書のアドバイスを実践してみることが「強いメンタル」をつくるコツなのかもしれません。

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