下剋上の申し子・北条早雲の青春物語が始まる ー ゆうきまさみ「新九郎奔る! 1」

戦国時代というと、たいていの人の感覚では、織田信長が桶狭間の戦いで今川義元を討ち取ったあたりからくっきりとしていて、それ以前の歴史についてはもう「霧の中」といった状態の方が多いだろう。加えて、地理的にも尾張や三河、京都あたりからはずれた場所の「戦国時代」になると、霧の中どころか闇の中、といった人が大多数なのではなかろうか。

その「戦国時代」を代表する理念である「下克上」の典型といわれる「北条早雲」こと「伊勢新九郎」の一代を描いたのが本シリーズ「新九郎奔る!」である。昔の通説では、彼は「素浪人」からのし上がったとされていたのだが、最近の歴史研究を踏まえ、北条早雲の実像を描き出そうとしているのが特徴ですね。

【構成と注目ポイント】

構成は

第一話 伊勢守の戦さ
第二話 文正の政変 その1
第三話 文正の政変 その2
第四話 応仁前後 その1
第五話 応仁前夜 その2
第六話 応仁元年

となっていて、シリーズの最初とあって、まずは舞台設定のあたりから始まり、北条早雲こと伊勢新九郎が、素浪人のような立場ではなく、最近の研究を踏まえ、室町幕府の政所執事を務めた「伊勢氏」の宗家・伊勢貞親の甥なのだが、父である伊勢盛定の側室の生まれということになってます。もともと伊勢家は、室町幕府の財政を取り仕切っていた家なのだが、伯父・貞親の代になって「軍事」の権力も握るようになっているので、管領などを務める家ではないのだが、幕府の実権を握っている、陰の宰相みたい立ち位置になっています。

庶子とはいっても、この貞親の娘婿で幕府申次衆を務める父・盛定の息子ですから、まあ当時の「セレブ」の一人といっていいと思います。

で、話のほうは、所領のある田舎から京都へ出てきた新九郎が、腹違いの兄、姉とともに伊勢家の屋敷に住んで、武家修行を始める、といった筋立て。
ところが、伯父の伊勢貞親が、のちの10代将軍の実父である「足利義視」を追放しようとして逆襲にあって幕府から追放されたり、

実母に会いにいった先で、伯父を追放した首謀者である山名宗全や細川勝元と知り合ったり、

と主役ではないが間近で「応仁の乱」の様子を目撃できるポジションに立つことができるようになるのですが・・・といった展開で、室町時代から戦国時代へと移っていく様子が新九郎の目で語られていくことになります。

裏をかく陰謀を仕掛けたら返り討ちされたり、今まで味方と思っていたのが実は敵と通じていたり、といった感じで、複雑な駆け引きの応酬があったり、人間関係がやたらと面倒くさかったり、と室町時代特有のわかりにくさはつきまとうのですが、丁寧に読み解いていくと、味のある戦国絵巻が展開されていきます。

【レビュアーからひと言】

戦国時代末期の武将・仙石久秀を描いた「センゴク権兵衛」の「秀吉の小田原攻め」のところで、後北条氏の初代。北条早雲の半生を描いた章があるのですが、それでは、有能ではあるが、かなりの「ブサメン」として描かれているのですが、本シリーズでは、支流とはいっても名門・伊勢家の若君なので、そこそこ上品に描かれています。そのどちらが実像に近いかは、各自、早雲を描いた他の作品とかを読んで想像してみてくださいな。

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