新九郎は所領を守るが、父は失脚するーゆうきまさみ「新九郎、奔る5」

戦国時代の「下剋上」の典型として、堀越公方足利政知の息子・茶々丸を攻め滅ぼして「伊豆」を我が物にしたのを皮切りに、関東管領の上杉氏の家臣から小田原城を奪い取り、その後、相模国を領土とし、戦国大名の魁といわれる「北条早雲」の若き頃の姿を描く「新九郎奔る!」シリーズの第5弾。

前巻で父の名代として領地の東荏原庄にきたものの、今まで京都の滞在が長く領地経営をいい加減にしていたことが災いして、領地の境界も曖昧になり年貢も横領されていたり、領民も西荏原庄の伊勢盛景・盛頼のほうを領主として慕っていたり、とアゲインストでの領国経営を強いられる新九郎。今巻では、領国経営で新しい展開が起きるほか、京都のほうでも大きな動きが起きるのが本巻です。

構成と注目ポイント

構成は

第24話 落馬 その1
第25話 落馬 その2
第26話 落馬 その3
第27話 負債 その1
第28話 負債 その2
第29話 負債 その3
第30話 負債 その4

新九郎、盛頼と組んで政所を成敗

まず前半部分の「落馬」では、荏原庄の支配を巡って、一族の伊勢盛景の長男・伊勢盛頼との静かな対立の場面です。もともと東荏原は新九郎の家の、西荏原は盛頼の家の所領のはずで、新九郎の言い分もあるのですが、新九郎の父・盛定が京都に滞在したまま留守が長く、領民たちも領主としての認識が薄れているのが弱みですね。

で、この状況につけ込んで、荏原庄の年貢の采配をしている政所の朱厳の企みが動き始めます。新九郎を宴会に呼んだところで、西荏原を治める伊勢盛頼とつるんで、新九郎を始末して、所領を奪ってしまおうとします。新九郎が宴席の連れてきているのは「彦次郎」たち数人。彼らの剣の腕は相当なものではあるのですが、大勢に取り囲まれている状態では二人の生命は風前の灯火ですね。
なんとか、朱厳のひきいる政所の手勢は防いでいるのですが、それも時間の問題。さらに、遅れてやってきた盛頼は多くの配下を連れてきていて・・という筋立てです。

少々ネタバレすると、盛頼が向かう相手が新九郎とは限らない、ということと、朱厳が東荏原の年貢を横領しているのは事実なのですが、それは「東」だけなのか、というところですね。欲をかいて失敗するのは、今も昔も同じなようで。

伊勢貞親、失脚。新九郎も「とばっちり」を受ける

後半部分の「負債」は、京都で、新九郎の伯父・伊勢貞親と、父・伊勢盛定の権力構造に大きな変化が訪れます。今まで幼少の頃から信頼をかちえていた足利義政から伊勢貞親が突如「隠居」を命じられてしまいます。

原因は、義政を隠棲させて長男の春王丸を将軍位につけるとともに、義政の正室の日野富子の兄・日野勝光を排除しようという企みが漏れたことにあるのですが、貞親の隠居については、息子の貞宗が幕府を割っての乱にならないうちに、義政に頼んだのが背景にあります。今まで、数々の政変を生き抜いて権勢を維持してきた貞親だったのですが、このへんでヤキが回ったのかもしれません。
この政変によって貞親と行動を共にしていた新九郎の父・盛貞は、自ら隠居してさらに頭も丸めて出家して、義政の怒りをかわそうとするのですが、これが藪蛇。義政は、自らの盛親への引退勧告を内密にしておきたかったのですが、盛定の出家によって明らかになり、たいへん立腹します。このとばっちりがいったのが新九郎で、彼の家督相続は認められたものの、官位は以後、義政が将軍である間は授与しないと言い渡されてしまいます。

官位がもらえないということは、新九郎が幕府に出仕する道を閉ざされてしまったことでもあり、伊勢盛定一族にとっては大痛手ですね。ここらに、後に、新九郎が駿府へ行き、さらには伊豆へと進出していった原因が隠れているのかもしれません。応仁の乱と、新九郎こと北条早雲の登場が下剋上の始まりとわれているのですから、足利義政がまさに「戦国時代」の生みの親といえるのかもしれませんね。

レビュアーから一言

今巻で、父親の伊勢貞親を、足利義政と示し合わせて隠居させて実権を奪った伊勢貞宗は、静かな陰謀家のような感じで描かれているのですが、人によると応仁の乱で滅亡寸前だった足利幕府を持ちこたえさせた人物でもあったようです。義政の次の将軍・義尚のときには幕府の全権を握った人物でもあるのですが、新九郎の今後にどんな影響をもたらすのか見ものでありますね。

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