新九郎は鬼姫に失恋し、病蔓延の都へ向かうーゆうきまさみ「新九郎奔る!」7

戦国時代の「下剋上」の典型として、堀越公方足利政知の息子・茶々丸を攻め滅ぼして「伊豆」を我が物にしたのを皮切りに、関東管領の上杉氏の家臣から小田原城を奪い取り、その後、相模国を領土とし、戦国大名の魁といわれる「北条早雲」の若き頃の姿を描く「新九郎奔る!」シリーズの第7弾。

前巻で、新九郎の所領に接する西荏原の領主の跡取り・伊勢盛頼と、地元の鎌倉以来の旧家・那須家の当主・修理亮との諍いをなんとかまとめ、さらには那須の鬼姫・つると結ばれて、将来の夢を抱き始めた新九郎に、手ひどい失恋と都で家族に伝染病禍がふりかかるのが本巻です。

構成と注目ポイント

構成は

第三十八話 凶の都 その1
第三十九話 凶の都 その2
第四十話  凶の都 その3
第四十一話 凶の都 その4
第四十二話 往来  その1
第四十三話 往来  その2
第四十四話 往来  その3

となっていて、東荏原の伊勢家と那須家との手打ちの宴のどさくさに、那須家の鬼姫こと「つる姫」と結ばれて少し浮かれていたのですが、ライバル視している西荏原の跡継ぎとなる伊勢盛頼へ彼女が輿入れすることが決まった大ショックを受けることとなるわけですね。

このあたりには、西荏原の伊勢家と那須家の和解を万全にし、その上に双方の勢力UPを目指す「大人の事情」が絡んでいるようで、それを盛頼もつる姫も受け入れるのですが、新九郎にはちょっと刺激が大きすぎたようです。

この失恋ショックで「ヘロヘロ」になっている新九郎なのですが、そんなことには関係なく、伝染病のほうが京都を襲います。最初は「疱瘡」が流行したのですが、これに継い付いて、当時、抗体をもっていない人にとっては致死率の高かった「麻疹」も京の都で蔓延し、新九郎の義理の弟・弥次郎、そして義母・須磨がその病にかかってしまいます。

この結果、須磨があっけなく病死してしまい、新九郎の父・盛貞が「腑抜け」状態になってしまうわけなのですが、ここで父にかわって幕府の「取次」の仕事をやりはじめたことが、これからの彼の運命を大きく変えていくきっかけになります。

父に代わって、京の屋敷に滞在していた新九郎は、足掛義政の長男「春王丸」(後の九代将軍・足利義尚)に気に入られ、頻繁に参上するようになるとともに、細川勝元の嫡子「聡明丸」(後の管領・細川政元)とも知り合いになります。ただ、次代の将軍家や管領家の中心となる人物と仲良くなれたのですから、この縁を使ってグイグイいかないのが、新九郎の持ち味といえば持ち味なのですが、少々じれったい感じもします。
ただ、このじれったさが「センゴク権兵衛」で「義の国」と表現された関東の後北条家を創り出した源泉なのかもしれません。

後半部分では、山名宗全と細川勝元との和解を図るため、西軍側についている叔父・伊勢貞藤の縁をたどって、西軍の総大将・山名宗全のもとを潜入します。ヘタをすれば首をはねられてもおかしくないところなのですが、新九郎は

という話を宗全側に伝え、宗全と碁を打つことによって、彼の本音をつかみとろうとします。まあ、これは宗全が孫の「聡明丸」に家督がいくかどうかを心配しているところまでは把握するのですが、それ以上の進展はなく、生煮えの状態にとどまるのですが、八代将軍・足利義政に嫌われて失っている、幕府内での足がかりを回復しつつある兆しのように思うのですが・・。

レビュアーから一言

上洛して、足利義政の嫡男・春王丸のところへ頻繁に出仕するようになったとはいえ、収入の源は東荏原にあり、隣の西荏原の伊勢盛頼が虎視眈々と併合を狙っているので、頻繁にそちらへも帰らないといけない状況です。
ここまで丹精込めて統治している東荏原領なのですが、この後、駿河へ派遣されてからはほぼ放棄した状況になっています。後世になってこのあたりは毛利氏の勢力下におかれているので、案外、新九郎がこの地を出て、京都、駿河、伊豆へと活動拠点を遷していったのは正解だったと思います。

新九郎、奔る!(7) (ビッグコミックス)
京での疱瘡の流行…受難が続く新九郎だが? 那須の姫、つるとの淡い初恋は儚くも...

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