小萩の菓子修行は順調か? ー 中島久枝「ふたたびの虹 日本橋牡丹堂菓子ばなし 3」

中島久枝

宿屋の娘でありながら、美味しい「菓子」をつくる職人になりたい、と思いたって、鎌倉のはずれの村から江戸へやってきた、つきたてのお餅みたいなふっくらとした頬に黒い瞳、小さな丸い鼻。美人ではないが愛らしい顔立ちの娘・小萩が、日本橋の菓子舗・二十一屋で修行に励む毎日を描く「日本橋牡丹堂」」シリーズの第3弾。

前巻までで江戸へ初めて修行に出た後、一旦鎌倉へ里帰りしたのだが、菓子作りへの思いが捨てきれず、再び江戸へでて本格的な修行を開始した「小萩」だったのだが、二十一屋での修行も二年になり、店の大事な一員となり始めた小萩が、店の馴染み客の大旦那の鬱や、店の職人の恋バナなどに彼女なりの活躍を見せていくのが本巻。

【構成と注目ポイント】

構成は

初秋 うさぎが跳ねるか、月見団子
晩秋 留助の恋と栗蒸し羊羹
初冬 若妻が夢見る五色生菓子
仲冬 秘めた想いの門前菓子

となっていて、まず最初の「初秋 うさぎが跳ねるか、月見団子」では、二十一屋の馴染客で、女将・お福の話し相手である日本橋の袋物問屋の女将・お栄の父親・喜四郎の気塞ぎを小萩が晴らしていく話。喜四郎は、愛妻が病を隠して無理したために死んだと思い、鬱々とした毎日が続いている。そこのところを不器用な小萩が解きほぐしていくところがなんとも味があります。

二話目の「晩秋 留助の恋と栗蒸し羊羹」は、二十一屋の職人の一人「留助」が主人公。彼はおおらかでしっかりとした腕をもちながら、ここ一番に押しがきかないことで世帯を持てずにいる。特に、数年前に仲良くなった居酒屋の娘が突然他のなじみ客と一緒になったことで女性に臆病になっている状況である。それが今回、馴染みの居酒屋・沖屋で働いている「お滝」という女性とどうなるか、が今話の焦点である。本当は惚れているのに、菓子の老舗・伊勢松坂の職人頭がお滝に気があるとおもいこんで、身を引こうとする留助に対するお滝の行動は?、というところで、江戸の女性の気の強さがいかんなく発揮されてます。

三話目の「初冬 若妻が夢見る五色生菓子」では、大店の両替商・白田屋から、若夫婦の子供のお祝いの菓子の注文がやってきます。若夫婦からは、若妻の出身地である加賀の祝い菓子の「五色生菓子」をつくってくれという注文が入り、二十一屋では今まで作ったこともない菓子であるため、いろいろの工夫を凝らします。
ところが、その見本を届けると、若夫婦の母親は、江戸の菓子である「菊の菓子」をつくってくれ、と若夫婦の注文を反故にします。突然の注文変更に苛立つ二十一屋の主人・徹次たちなのですが、さらに白田屋の大女将から、加賀の菓子や菊の菓子など贅沢がすぎるので、普通の祝菓子である「鶴の子餅」をつくってくれとの再々度の中注文変更が入ります。
さて、ぞれぞれに異なる注文をどう始末するのか、二十一屋の女将・お福の手腕がいかんなく発揮されますね。

四話目の「仲冬 秘めた想いの門前菓子」では、第一話で登場した、お福の昔なじみで、昔の深川芸者の三味線の名手・千代吉が重病にかかり余命幾ばくもない、という状態になります。彼女には実の娘が一人いて、その娘は、芸者になる道を諦めて、大名家の江戸家老のところに嫁いでから縁がきれたような状態になっている。なんとか、亡くなるまでに母親と娘との対面ができないか、お福たちが采配する話。実は、その娘は、小萩の母親・お時の才能に負けたと思って、芸者の道を断念したこともわかり・・・、という筋立てです。親娘の再会は叶わないまでも、娘が母親との思いでのお菓子という「白っぽいお餅のような四角い小さなお貸し」が何なのかつきとめるのに小萩が大事な役割を果たすことになります。

【レビュアーから一言】

江戸は、徳川幕府のお侍たちが多数居住し、参勤交代などえ国元を離れて江戸で暮らす諸藩の勤番武士もたくさんいる上に、仕事を求めて近隣の農村地帯から多くの男性も流入してきていて、一説には江戸の男女比は2:1と、女性が少ない人口構成となっていました。
さらに、この時代に人気のあった男性は、優男や、力士、火消し、与力といったのが通り相場だったようですので、小さな菓子製造会社の従業員で、風貌もさえない「留助」が、居酒屋の売れっ子である女性の方から押しかけ女房というのは、ほとんどない幸運であったと思います。もっとも、女性が少ないことを反映して、カカア天下は多かったようですので、留助もこれから尻に敷かれてしまうのでしょうが・・。

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