大島楼の女主人の謀みを打ち砕け ー 中島久枝「ひかる風 日本橋牡丹堂菓子ばなし 4」

中島久枝

宿屋の娘でありながら、美味しい「菓子」をつくる職人になりたい、と思いたって、鎌倉のはずれの村から江戸へやってきた、つきたてのお餅みたいなふっくらとした頬に黒い瞳、小さな丸い鼻。美人ではないが愛らしい顔立ちの娘・小萩が、日本橋の菓子舗・二十一屋で修行に励む毎日を描く「日本橋牡丹堂」」シリーズの第4弾。

小萩の菓子職人修行もだんだん軌道に乗ってきていたのですが、ここで、二巻で菓子勝負を繰り広げた吉原の大島楼の女主人・勝代が二十一屋の前に再び立ちはだかります。二十一屋を仇のようにつけねらう彼女の魔手を打ち砕くことができるか、小萩たちの腕前と覚悟が試されるのが今巻です。

【構成と注目ポイント】

構成は

仲冬 お武家好みの腰高饅頭
晩冬 女占い師と豆大福
初春 小萩の想い、銀の朝
仲春 勝負をかけた揚げ饅頭

となっていて、第一話目の「仲冬 お武家好みの腰高饅頭」は、西国の十万石の大名家・山野辺藩から菓子の注文の話が入ってくるところからスタート。もともと、この藩は老舗の大店・伊勢松坂が御用達だったのだが、なにかの拍子に二十一屋に声がかかった、という次第。もし大名家の御用達となれば、これまで以上に客足も増え、店の格も上がることは間違いないのですが、世の中はそううまくはいかず、20個の試作品を納入したきりで、その後の注文はありません。どうやら、もともとの取引先・伊勢松坂が取引を再開するための大攻勢をかけているようで・・・、という展開です。ここで、山野辺藩に関係していると思われる剣道場へ通っているらしい「若さま」や、魚の「鯊(はぜ)」に風貌の似た、色あせた藍色木綿の着物を着た「はぜのお侍」が出てきます。今巻の二十一屋の商いに大きく影響する人物ですので覚えておいてくださいね。

第二話目の「晩冬 女占い師と豆大福」では山野辺藩の御用達を巡って争っていた老舗・伊勢松坂が、主人・松兵衛が相場で大損をしたため、第二巻の菓子勝負で、二十一屋の宿敵となった、吉原の大島楼の「勝代」に乗っ取られます。「勝代」のあくどい商売で、伊勢松坂の「のれん」がどうなるか懸念されるところなのですが、山野辺藩の取引は以前として、二十一屋へ声がかかりません。そんな折、風邪をひいた孫の幹太のことを心配した、大女将の「お福」が市中で知り合った占い師の「泉幽」の言葉を信じて、山野辺藩との取引や、大店で組織する同業組合への参加を断ろうとします。ところが、この占い師の正体は実は・・・。といった展開で、再び大島楼の勝代との騒動が勃発します。

第三話の「初春 小萩の想い、銀の朝」では、元吉原の花魁で、今は有名な茶人の愛妾となっている「春霞」から茶会の菓子をつくってほしい、という注文が入ります。その茶会には、諸藩の江戸家老の息子たちが出席する席である上に、注文主の春霞は、小萩らしい菓子を、と合格基準も相当厳しいものになってます。しかし、伊勢松坂が大島楼の勝代のものになって以来、伊勢松坂が今までのお高くとまった商売から、贅沢なものから大福やどら焼きといった庶民的なものまで幅広く売る店に変身したため、二十一屋の客も減っていて、なんとかこの茶席の菓子で評判をとって挽回したいところです。そんなプレッシャーを感じながら、小萩の考案した菓子は、なんと大根の千六本を使った・・・、という展開です。

第四話の「仲春 勝負をかけた揚げ饅頭」では、話の最初のほうで、伊勢松坂に圧迫されている状況をなんとかしたい、と幹太と小萩が「揚げ饅頭」をこしらえて路上販売をして評判をとります。その販売をしている時に、「はぜのお侍」と再会するのですが、実は、山野辺藩のエライ人であった彼の口利きで、今まで停滞していた山野辺藩との取引が動き始めます。しかし、そのためには伊勢松坂との菓子勝負に勝たないといけない、ということで、第二巻での「菓子勝負」に第二幕が開幕することになります。伊勢松坂は、店の当主だけに一子相伝で伝えられてきた「桐壺」という菓子を出してくるのは間違いないのですが、それに対抗する二十一屋の菓子は・・という展開です。

【レビュアーからひと言】

店の中の職人たちの人間関係もよく、順調に商売も拡大してきた「二十一屋」ですが、ここにきて最大の「敵」ともいえる商売敵が出現し、かなりの苦戦を強いられる展開になってます。この巻ではなんとか小萩の新商品のアイデアなどでしのぎ切るのですが、相手の商売が、二十一屋の売れ筋の商品にがっぷり四つで対抗商品をぶつけてきたり、高級品から廉価品まで品ぞろえを拡大したり、といった感じで、悪辣な妨害だけでなく商売の上手さも兼ね備えているので、これからもかなり苦戦するであろうことが想定されます。次巻以降の小萩の一皮むけた行動が試されてくるのではないでしょうか。

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