女性連続失踪事件での暴発捜査が、東京湾炎上を引き起こす ー 吉川英梨「海底の道化師 ー新東京水上警察4」

東京オリンピックでの東京湾の海上で起こる犯罪を取り締まり、警備を万全にするため、5年間の期限付きで復活した「五港臨時署」の刑事防犯課強行犯係を主舞台に、羽田沖日航機墜落事故のトラウマを抱えた40歳過ぎの凄腕の中年刑事・碇拓真、碇の部下で上昇志向丸出しの若手刑事・日下部俊、美しすぎる海技職員として、モデルばりの美貌ながら熱血の「海の女」有馬礼子をメインキャストに、東京湾上でおきる大事件を爽快に解決していく警察小説「東京湾水上警察」シリーズの第4弾が『吉川英梨「海底の道化師」(講談社文庫)』。

前巻の最終章のところで、突然、海技職員をやめて警察官に転身することを明らかにした有馬礼子が、警察学校での研修を終了し、警視庁第二機動隊の水難救助隊へ配属になり捜査の第一線ではない配属に不満たらたらなのですが、このことが東京湾を火の海にしてしまう、大災厄の引き金を引くこととなってしまいます。

【構成と注目ポイント】

構成は

プロローグ
第一章 辞令
第二章 空間識失調
第三章 RRR(トップルアール)
第四章 霧の中
第五章 ピエロと人魚
第六章 海底の少年
エピローグ

となっていて、まずプロローグのところは、今巻で有馬礼子のライバルとなる水難救助隊の先輩巡査・高嶺東子の子供の頃のエピソード。彼女は北海道の奥尻町でおきた北海道南西沖地震の生き残りという設定です。これがどういう意味を持つかは今巻の最後のほうにでてきます。

事件のほうは、東京湾の海底から、三枚の女性の運転免許証が発見されるところからスタート。免許証の登録者はいずれも東京以外の出身者で過去に失踪した記録が残っている女性ばかりで、さらに免許証が見つかった現場で潜水調査を実施したところ、そこから水死体が発見されます。この調査の前に、売春組織の隠密捜査に駆り出されていた日下部の捜査エピソードがはさまるのですが、これは高嶺東子が効果的に登場する仕掛けみたいなものですね。高嶺東子は潜水調査で新しい運転免許を見つけたほか、死体が出てきたことで錯乱して溺れかける調査の相棒を救助するという荒業を見せます。

ところが、ここで捜査のアシストばかりをさせられていることに欲求不満を貯めていた有馬礼子が救助隊の警備艇を離脱し、単独捜査を始めてしまいます。彼女はその単独捜査で、この連続失踪事件の犯人に捕まってしまい、犯人が運航している貨物船の船底に監禁されてしまいます。裸の上にラップを巻かれ、先に殺されていた被害者の剥いだ顔の皮と髪を「お面」のように被せられ被害者に体液を頭からかけられるという屈辱をうけるのですが、18禁に配慮して、詳細は省きます。

犯人の貨物船は積み荷のバランスを崩して立ち往生の状態で、その場かた動けないのが幸いして、彼女の身を案じた「碇」などの水上警察のメンバーや、水難救助隊の高嶺、海上保安部の特殊救難隊によって、無事救出されることにはなりるのですが、これでおさまらないのが、このシリーズの良いところ。
霧の中、停泊したままの、礼子、碇たちが乗っている犯人の貨物船に、LPGタンカーが衝突してしまいます。さらに、そのタンカーに、バランスを崩した救援のヘリコプターが墜落し、タンカーのLPGタンクに延焼し火を噴くという事態に。このため、碇や高嶺たちは、その貨物船のなかに取り残されてしまうのですが、タンカーと貨物船の漂流先には、オリンピック会場があり、このままでは建設中のオリンピック会場を破壊してしまうという大事故が想定されます。事態を重く見た都庁は、政府に自衛隊による破壊攻撃を依頼しようとするのですが、それを阻止するため、日下部と礼子は都庁の鷲尾都知事のもとへ向かうのですが・・・、といった展開です。さて、貨物船に取り残された「碇」たちは無事脱出することができるかどうか、詳細は原書のほうで。

【レビュアーから一言】

「新・東京水上警察」こと「五港臨時署」が、湾岸署から独立して復活した理由は、署長の玉虫たち関係者の熱心な要望活動と、オリンピックの開催を控え、手薄になりがちな東京湾の警備を重点化するため、という理由であったとされているのですが、エピローグのところで、オリンピック警備という「美しい」理屈ではなくて、もっとギラついた国家的、国際政治的な理由が隠されていたことが明らかになります。その理由は、「碇」と「礼子」のこれからの運命に大きな影響をもってくるのですが、これから先は原書で読んでくださいな。シリーズ五作目があるとしたら、さらにスケールアップした展開になりそうな予感がいたします。

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