信長・秀吉・家康以外にも戦国の「英雄」はいるー安倍龍太郎「信長になれなかった男たち」

戦国時代

戦国時代を扱った小説やコミックというと、メインキャストは織田信長、豊臣秀吉、徳川家康といったところで、ちょっとマイナーなところで伊達政宗、明智光秀といったところなのですが、それ以外にも綺羅星のような英雄豪傑が、それぞれの故郷で、領土の拡大や都を目指して競い合っていたのが戦国時代。
今では語られることの少なくなった武将たちを掘り起こし、その魅力を教えてくれるのが本書『安倍龍太郎「信長になれなかった男たち」(幻冬舎新書)』です。

【構成と注目ポイント】

構成は

 はじめに 「信長とコペルニクス」
 第一章 規格外の変革者・信長
  桶狭間の戦いは奇襲ではなかった
  家康を大きくした桶はざかの敗戦
  金ケ崎城攻めは海運の拠点争奪戦だった
  天才的な駆け引きで勝利した長篠の戦い
  仕組まれた安土宗論
  富士山麓にある信長の首塚
  浅井長政と運命の三姉妹
  すさまじき男の青春
  信長以前の信長。三好長慶
 第二章 天下泰平は夢のまた夢
  日吉丸から豊臣秀吉へ
  秀吉さえ怖れた黒田官兵衛の才覚
  信長の後継者とも言われた木造具康
  豊臣政権の要、豊臣秀長
  天下統一の翌年に起きた九戸政実の乱
  秀吉の非を鳴らした藤堂高虎
  利休切腹の真相と石田三成
  追い込まれた利休の本音
  秀吉の怒りを買った利休像
 第三章 敗れ去った英雄たち
  非業の将軍、足利義輝
  剣豪の将軍、足利義輝の最期
  川中島の戦いの真相
  追放された守護大名、畠山義統
  毛利元就と石見銀山
  強国のはざまに行きた蒲池鎮並
  標的となった黒木家永
  秀吉も絶賛した立花宗茂
  伊達政宗と蒲生氏郷の鍔迫り合い
  奥州仕置と九戸一揆
  九戸一揆の隠された狙いとは
  蒲生氏郷、二つの謎
  末世の道者、大内義隆の最後
  宇久盛定と王直
  巨大な海賊となった王直
 おわりに「旅と歴史と物語」

となっていて、第一章や第二章のはじめのほうでは、織田信長や豊臣秀吉といったメインな武将たちについての話もあるのですが、本書の読みどころは、大河ドラマであれば、ワンシーンか多くて一話だけ。場合によっては、メインキャストのセリフでしか登場しない九戸政実や蒲生氏郷、立花宗茂といったあたりから、おそらくは登場の場面が郷土史が中心になるであろう蒲池鎮並、黒木家永、木造具康といった武将たちの人物像です。

多くが中央からの圧迫や攻勢へ対抗した人物たちであるので、中央の、いわゆる通説的な歴史からは抹殺されたり、忘れられたりしてしまった、地方の悲哀や反逆の記録を見ることができます。

それは九戸政実が

家臣や一門衆とも協議を重ね、慎重に状況を見守ることにしたが、その間にも秀吉政権からの津力は強まるばかりだった。秀吉がめざしているのは、検地や刀狩を断行し、中央集権体制を作り上げることである。
その政策の徹底を迫られた南部信直は、九戸政実らに妻子を人質に出すこと、城を破却して臣従することを求めた。これまでは領内に割拠kする南部一門はほぼ平等で、合議によって統治を進めてきたが、そうした独立領主としての立場を一切否定し、有無を言わさず命令に従わせようとした。

といった事情から反乱へと追い込まれ、最後は蒲生軍を中心とする秀吉勢いに攻め落とされたことや歴史上名君とされ、仙台市民から敬愛されている東北の雄・伊達正宗が蒲生氏郷を毒殺しようとしたり、葛西・大崎一揆を陰に操っていたのかも、といったことなど、歴史の檜舞台にいる人物たちの「隠された部分」を引っ張り出してくれています。

この政宗による氏郷毒殺も前述の九戸一揆との関連で考えれば、中央(畿内の秀吉政権)から派遣された勢力(蒲生氏郷)への反逆の一環として考えることもできて、畿内勢力の視点から見られがちな戦国末期の違う姿を感じ取ることができます。このあたりは、東北の出身で、この地の勢力の中央政権への対抗の姿を描く高橋克彦さんの「陸奥三部作」の最後の「天を衝く 秀吉に喧嘩を売った男九戸政実」でも描かれていることですね。

さらに、この視点でみると、室町幕府の15代将軍・義輝を攻め滅ぼして評判の悪い「三好一族」も

信長が上洛する七十年近く前から、畿内は戦乱の巷と化していた。原因は管領として幕府を牛耳っていた細川家の内紛である。
(略)
徐々に力をたくわえたのが三好家である。すでに長慶の曽祖父之長の頃には、あわや淡路の軍勢をひきいて上洛し、細川家の内紛を取り仕切るほどの実力を示した。
ところが管領家の被官人だという身分の壁にはばまれ、内紛の泥沼の中で之長、長秀、元長の三代にわたって自害に追い込まれる悲劇にみまわれた。
この状況を脱し、戦国初の天下人として名乗りをあげたのが、元長の嫡男長慶だった。
(略)
長慶は、将軍や管領に頼らぬ独自の政権を打ち立てのだった。

ということのようで、信長・秀吉・家康の三人の視点でとらえる戦国史がかなり一面的なものであることを痛感します。

【レビュアーからひと言】

本書はもともといろいろな媒体へ発表されたエッセイをまとめたものなのですが、その根底に流れる思いは

信長、そして同時代の武将たちは、日本がはじめて西洋と出会い、学問、文化、技術、信仰、政治、経済など、あらゆる面で影響を受けた時代を生きた。
その期間はおよそ九十年。明治維新から昭和三十年までの長さに匹敵する。
彼らはそうした激動の中で、生きる道を必死に模索しながら戦い続けた
(略)
現代を生きる我々が生きぬむための知恵も、そこから得られるだろう。

ということのようです。昭和から平成を経て令和2年の今までの期間もおおよそ九十年、COVID-19という病禍の中で、新しい社会の在り方を模索している現在でも言えることのように思います。

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