姫武将・謙信は、幕府奉公衆と恋におちるー東村アキコ「雪花の虎 8・9」

戦国時代

「越後の虎」あるいは「越後の龍」と称され、「甲斐の虎」武田信玄とがっぷり四つで死闘を繰り広げ、「風雲児」織田信長を怖れさせ「軍神」でありつつも、生涯、妻を娶らず、子もなさなかった、「義」に厚い武将「上杉謙信」が実は女性であったという、驚きの設定で展開する戦国の物語である『東村アキコ「雪花の虎」』シリーズの第8弾と第9弾
前巻までで、兄から長尾家の家督を受け継いだ後、宿敵である武田信玄との第1次川中島の戦で睨み合った後の初の「上洛」が描かれます。上洛の目的は、官位の御礼言上なのですが、実は、将軍側にも思惑があって・・、という筋立てです。

【あらすじと注目ポイント】

まず第8巻は、三好勢に圧迫されて朽木へ逃れてきている、足利義藤(後の義輝)の家臣で、幕府奉公衆供後方の進士源十郎に出会うところからスタートします。供後方というのは将軍や家族の食事の世話をする役、つまり料理番なのですが将軍の近臣でもありますね。彼は将軍の命で、「長尾景虎」の出迎えにやってきたという設定です。

当時、朽木へ逃れてきていたのは将軍・足利義藤、右大臣・近衛晴嗣(後の近衛前久)、細川藤孝という面々で、戦国末期を動かした重要人物たちばかりですね。

この若者たちに囲まれて打ち解けた時間を過ごすのですが、それだけに終わるはずもなく、将軍・義藤を追放した三好長慶や、彼の茶の師範・千宗易(後の利休)が主宰する「茶会」に招かれて「人物」を試されたり、

武田信玄の命を受けた山本勘助と三好家の有力家臣の松永久秀によって命を狙われたり、といった危難が待っているのですが、詳細は本巻で。

この、三好長慶という人物は、将軍を追放したり殺害したり、管領家を圧迫したりして評判は良くないのですが、これは後に織田信長が将軍家にやったことと同じようなことなので、「敗者」となったがために悪く言われすぎているような気がします。

続く第9巻では、前巻に最後で勘助・久秀の放った刺客たちから受けた傷が悪化した源十郎を連れて、高野山へと逃れるところから始まります。この時、源十郎の看病をするうちに二人は恋仲になり、そして景虎は身ごもってしまい・・・という展開ですね。

ちなみに、この進士源十郎は、通説では後に15代将軍・足利義輝(義藤)が、三好勢に攻撃されて殺害されてときに一緒に討ち死にした、と言われているのですが、一説には、彼は逃れて明智光秀として信長に仕えた、という話もあります。どうやらこのシリーズではそっちの方を採用するようですね。

景虎は産むつもりなのですが、まず待ち受けるのは、関東出兵。関東管領の上杉憲政に頼まれた上に、将軍家から関東の地を平穏にしてくれと頼まれての派兵で、義理堅い景虎が断りきれなかった「義戦」ですね。そして、この戦準備の中で、流産してしまいます。

この後に続くのが、武田信玄との因縁の戦である「第二次川中島の戦です。
身籠った「景虎」と、愛妾・諏訪御前の望みを叶えようとする「信玄」が、「善光寺」を巡って争う様子は虚々実々の駆け引きが「戦国絵巻」という感じです。信長・秀吉時代の戦国の戦の殺し合いの血生臭さがないのも特徴です。

そして、この第二次川中島の戦の後、内紛が多発し、まとまらなくなった家臣団を抱え、嫌気がさしたのか景虎は恋する男のもとへ、といった展開です。

第8巻・第9巻は戦国ものらしくなく、姫武将・景虎の「恋物語」が中心となります。このへんは好みが分かれるところだと思いますが、恋模様の中にも、将軍家や三好勢の思惑、あるいは武田信玄の調略が忍び込んでくるんで、甘酸っぱいだけの話ではありませんね。

【レビュアーから一言】

身籠ったものの、第二次川中島の戦の中で、景虎は我が子を流産してしまうのですが、もし無事に産み落としていたら、謙信死後姉の子である上杉景勝と、北条家から迎えた養子の上杉景虎とで争われた内部抗争もなく、上杉家は天下を狙う位置を守れたのかもしれません。進士源十郎も幕府の奉公衆という身分ではあるのですが、大きな所領をもっているわけでもなく、奉公衆でありながら駿河へくだった伊勢新九郎を見習って、景虎の「婿」になっても良かったのにね、と思うのは当方だけでありましょうか。

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