オンラインとオフラインが溶け合う世界とは?ー藤井保文・尾腹和啓「アフターデジタル」

「まだまだ将来の話でしょ」とか「やはり対面でないと勘所は伝わらないよ」といって掛け声は昔からあったのですがIT企業以外はほとんど普及していなかったリモートワークやテレビ会議が常識のようになり、対面での販売が制限されて動き始めた無人店舗が見直され、ネット販売やテイクアウトは爆発的拡大、と新型コロナ流行のビフォーとアフターでは、生活のあれこれが変化したのですが、その兆しを流行前から半ば予言していたような形になったのが本書『藤井保文・尾腹和啓「アフターデジタルーオフラインのない時代に生きる」(日経BP社)』です。

筆者たちの長期にわたる海外での滞在やビジネス経験を活かし、今ネットビジネスの世界では最先端ともいえる中国企業や中国社会の状況を詳細に紹介・分析しながら、これからの生き方やビジネスについてのサジェッションを与えてくれています。

【構成と注目ポイント】

構成は

第1章 知らずには生き残れない、デジタル化する世界の本質
第2章 アフターデジタル時代のOMOビジネスー必要な視点転換ー
第3章 アフターデジタル事例による思考訓練
第4章 アフターデジタルを見据えた日本式ビジネス変革

となっていて、本書では、中国社会の最新事情も数多く紹介され、そこの最前線でビジネス展開をするアリババやテンセントなどに代表される中国デジタル企業がどこへ向かおうとしているといったことも含めて、情報やサジェッションの多い本なのですが、今回は、アフターデジタルとは何か?、というところから私たちの暮らしy亜仕事がどうなるの、といったところを中心に、当方が注目するところをピックアップしました。

◇「日本のデジタル」の現状◇

まず、踏まえておかないといけないのが、日本がすでに「デジタル先進国」ではなくなっているという現状でしょう。本書によれば

現在、多くの日本企業は「デジタルテクノロジー」を積極的に取り込んでいますが、そのアプローチは「オフラインを軸にしてオンラインを活用する」ではないでしょうか。 例えば、「オンラインでも実店舗のような接客を」とか、「無人レジを一部導入してみる」といった取り組みです。

といったのが現状でそれは「オンラインとオフラインの主従逆転が起きている」中国都市部、アメリカの一部地域、エストニアなどの状況とはかけ離れた状況で、

アフターデジタルの世界観は、あたかも「デジタルに住んでいる」ともいうべきもので、まだ日本ではあまり認識されていません

といったことは肝に銘じておかないといけないようです。どうやら、リモートがどうの、行政の電子申請がどうのというレベルでは、「アフターデジタル」の世界を語ってはいけないようですね。まあ、このへんは定額給付金の申請業務で手作業の確認事務を発生させた政府関係者はよく現状を認識したほうがいい、ということで、「テレワークしろ」とだけ言っている場合じゃない、ということですね。

◇アフターデジタルの世界のビジネスの特徴◇

そして、こうしたオンラインとオフラインの境界があいまいになる社会のイメージはどうしても「監視型」のイメージを持ってしまうのですが、筆者に言わせるとその社会でのビジネスは「デジタル時代のビジネスは寄り添い型になります。」ということで、

オンラインがオフラインを侵食して溶け込み、ユーザーのあらゆる行動データが一つひとつ取得できる時代

になると

【ビフォアデジタル】リアル(店や人)でいつも会えるお客様が、たまにデジタルにも来てくれる。
【アフターデジタル】デジタルで絶えず接点があり、たまにデジタルを活用したリアル(店や人)にも来てくれる

という状況になるようで筆者はこの時代をリードする思考法を「OMO(Online Mergeswith Omne、またはOnHne―Merge-Omine)」、つまり

これは、オンラインとオフラインを融合し、一体のものとした上で、これをオンラインにおける戦い方や競争原理とし考えるデジタル企業の思考法

と表現し、中国のアリババのネットスーパー「フーマー」やスターバックスを苦戦させている中小コーヒーショップとかの例を紹介しています。

詳細は本書のほうで確認してほしいのですが、これを理解するには、中国企業に行った日本企業を様子を見て、筆者が思う「「ああ、『デジタルを取り入れる』という考え方が間違っているので、全部デジタル化してから来てくださいと言われているんだな」と感じました」といったあたりから推測すると、相当「固定観念」を崩したほうがよさそうですね。本書の

現金支払いと大きく違う点は、会計が一瞬で終わるので、ほとんど支払いを意識しなくなってきている点です。支払いを意識しなくなると、コーヒースタンドは「コーヒーを買いに行く店」というより、「気のいいお兄ちゃんがコーヒーをふるまってくれる場所」ヘと変わっていきます

と言ったところを見ると製造現場やオフィスだけでなく、対面販売をするリアル店舗もかなりの変革に見舞われそうな予感がします。

◇アフターデジタルにおける「仕事」「働くこと」◇

では、アフターデジタル時代における「働き方」についてはどう変化するのかという点については、

ここには、2つの観点があります。まずは「自動化・最適化」です。これができるようになると、人間がわざわざやっていた「余計な作業」がなくなります。これによって人の仕事がなくなると考えるのではなく、「余計な処理や情報収集の時間が消え、空き時間が生まれる」と捉えます。空き時間は「人」という貴重なリソースを使えるので、感動体験や密なコミュニケーションに充てることが可能になります

もう1つは「個別化」です。デジタルトで常時接続してユーザーの行動データが取れているからこそ、「ユーザーが困っている瞬間とその困りごと」が、前後関係やその人の特性を含めて理解可能になります。正しいタイミングで、正しい形で適切なサポートを提供できる。それが、ユーザーとのさらなるエンゲージメントを生み出し、付加価値となるのです

といったところにヒントがあるようです。どうやら、より顧客の個別の好みや事情に、いかにシームレスに応えるかということが重要になるようで、ここらは「製造業」中心の発想が揺さぶられてくる兆しともいえそうです。

◇アフターデジタルの評価◇

こうしたアフターデジタルの潮流は、「個人」に関する膨大なデータの収集と分析に基礎をおくことになるので、「データを集める」ことについての議論が紛糾する可能性があるのですが、筆者は

「データは公共財なのか私有財なのか」という議論の結論は簡単には出ませんが、社会の方向性は、技術の進化に併せてデータを活用するほうに流れ始めており、一定の許諾をどこでどのように取るかということに焦点があるように思います

といった感じで肯定的なスタンスをとってます。このあたりは、土地が公共財とされている中国でビジネスをしているということもあると思うのですが、日本ではちょっと議論を呼ぶ話題かもしれません。

全体を通して言えることは、筆者は

AI技術の進歩における懸念が流布されている昨今ですが、必ずしも未米は「冷たいもの」ではありません。これまでの「IT技術を取り人れる」という考え方ではなく、アフターデジタルに視点を移行して考えることで「リアルの強みを活用する」という考え方が可能になり、より人間味あるサービスが提供できる時代になったと捉えるべきでしょう

と「アフターデジタル」の社会におおむね肯定的で、かつ日本人がその世界で持ち味を発揮する可能性を示唆しているところがうれしいのですが、これ以上の詳細は本書のほうでご確認ください。

【レビュアーからひと言】

本書によると、電車には人が降りる前に乗り込む、順番の守らないのは当たり前という中国で、

これは私の主観ですが、信用スコアが浸透してから中国人のマナーは格段に上がったように感じられます。
(略)
中国では文化大革命の後、そうした儒教的な文化や考え方が一度リセットされたのです。そうした状況で信用スコアという評価体系が登場したことで、「善行を積むと評価してもらえる」と考えるようになりました

といった中国企業の導入した「信用スコア」の意外な効果ですね。もともと中国の人は今までの歴史からえた教訓から「性悪説」だと言われるのですが、こうした「信用」がきちんと評価されることになれば行動も変わるのだ、というのは興味深い現象です。

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