日本は明治政府と東北政府に分断するー赤名修「賊軍 土方歳三」3

新選組の副長として、近藤勇を支えるとともに、その冷徹さと智謀で知られ、倒幕の志士や薩長を恐れさせた「土方歳三」の、明治維新以後を描いたシリーズ「賊軍 土方歳三」の第3弾。
前巻まででは、新政府軍に斬首された新選組隊長・近藤勇の首を晒されている三条河原から奪還し、会津まで持ち帰り供養した土方歳三と沖田総司。その後の新政府軍との戦で、近藤を密告した元御陵衛士・武原直枝を討って仇をとり、さらに新たに導入した新規銃の使い方を教わるため、会津へと向かった後の展開が描かれます。

「賊軍 土方歳三3」 構成と注目ポイント

構成は

第15話 狼から侍へ
第16話 薩摩の巨魁
第17話 東叡山、動く
第18話 左之と歳
第19話 誠の背中
第20話 沖田の命日
第21話 改元の日
第22話 ニューヨーク・タイムズ

となっていて、前半部分は、歳三から、前巻の最後で会津で出会った会津の銃姫・川崎(新島)八重へ彼女の兄・山本覚馬と池田屋事件について語られてます。

山本覚馬は蘭学や砲術を修め、会津藩主・松平容保に仕えた優秀な政治家で、混乱していた幕末の京都を鎮護した会津藩の中心となった人物で、池田屋事件をきっかけに土方歳三と「深い信頼関係に結ばれた」となっています。ちなみに、本書では、「池田屋事件」は長州藩の志士たちの計画した「反乱事件」で、長州への遷都を目標としたと位置づけられています。

池田事件では、吉田稔麿などの長州の中心的な志士が殺害されていて、このために維新が数年遅れたともいわれているので、「志士派」の人には本書の扱いはちょっと不満が残るかもしれません。

歳三は、彼女に覚馬が薩摩に匿われて生きていることを知らせ、八重からスペンサー銃の操作方法を学ぶことに成功します。覚馬の優秀さと人物が薩摩藩では有名だったようで、捕虜ではあるものの、丁重に扱われていたようですね。この、覚馬の保護については、薩摩藩以外の人物が絡んでいるようで、一番怪しいのは、「勝海舟」あたりかもしれませんが、後半部分の海舟の様子をみると、案外、新選組関係者かもしれないな、と推察させるところです。

物語のほうは、東北から一旦離れて、江戸へと移ります。幕府に対抗するために東北諸藩が連合して成立した「奥羽越列藩同盟」に呼応するように、江戸の寛永寺では、徳川家康の名参謀として知られる「天海」が、西国大名が京都の帝を擁して反乱を起こしたときの対抗策である「天海僧正秘中の秘」が発動し始めます。

これは、寛永寺の貫主である「輪王寺宮」を擁立して「東の天皇」とし、幕府軍を「朝敵」という汚名から免れさせようというもので、新選組の生き残り・原田左之助と彰義隊がその主力となっている、というのが本書の見立てです。

幕府の残党を一掃するために仕掛けられたといわれる「上野戦争」に、幕府軍の起死回生の一手が隠されていたとわかるあたりは、かなりワクワクする展開です。上野戦争での原田左之助の奮戦については、原書のほうで。

上野から東北に逃れ、土方歳三たちと合流した「輪王寺宮」は「東武皇帝」として即位し、「大政」と改元します。つまりは、新政府側は日本の一つの政権に過ぎない、と宣言したわけで、時代の変化を読みとれない、頑迷固陋の幕府軍の残党を掃討戦として描かれることの多い「戊辰戦争~函館戦争」なのですが、本シリーズでは、二つの政権がぶつかった「内線」として位置付けられています。

ここで、東の政府の「シャッポ」となる輪王寺宮は、鳥羽伏見の戦いで幕府軍として闘う部下将兵を置いて江戸へ帰った徳川慶喜がボロクソに貶されているに対し、

とかなり凛々しい姿で描かれているほか、西の帝に対して反逆する意思のない「名君」として描かれていますね。

レビュアーの一言 【東北政権は立派な独立政権だった】

本シリーズの戊辰戦争の「上野戦争」や「白坂口の戦い」の様子を読むと、たしかに幕府軍側は装備や兵力数の面で劣勢ではあるのですが、敗残する勢力がずるずると後退していく「消化試合」ではなかったことがわかります。
これは本巻の最後のほうにみられる「勝海舟」の苛立ちに良く現れていて、彼らにしてみれば、土方歳三たちは憎っくき反対勢力であったのかもしれませんが、一方で、見方を変えれば、勝利に奢る傲慢な新勢力に抵抗する「正義の味方」ともいえるかもしれません。

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