勝蔵は「伊勢」でモーニングスターを使い、初陣を飾るー「戦国小町苦労譚 8」

現役女子農業高校生が、戦国時代にタイムスリップして、持ち込んだ種子や後世の農業技術な器具を駆使して、尾張の信長のもとで大活躍する、時代改変もの「戦国小町苦労譚」のコミカライズ版の第8弾が『夾竹桃・平沢下戸・沢田一「戦国小町苦労譚 伊勢平定」(アース・スター・コミックス)』。

前巻までで第十五代将軍・義昭を旗印に上洛し、彼を将軍位に正式に就任させて幕府内の権力者の地位を確保し、さらには近衛前久を味方につけて宮廷にも影響力を持つことに成功した信長なのですが、史実的にはそろそろ彼の台頭を快く思わない勢力が集まっての「信長包囲網」の予兆がするころですね。

構成と注目ポイント

第8巻の構成は

第三十六幕 望遠
第三十七幕 婚姻
第三十八幕 歓待
第三十九幕 初陣
第四十幕  凶作

となっていて、自分のつくった技術街を中心に、静子はさらなる技術開発をすすめていきます。

物語では、水車を動力にした洗濯機、旋盤といった機械をつくっていくにですが、難物となったのは「望遠鏡」。当時の技術では「レンズ」製作はかなり難しい技術で、さすがの静子も職人たちの指揮にかなり苦労しています。さらに、望遠鏡製作が軌道に乗り始めたところで、織田家中で、密かに「静子失脚」を画策する勢力の存在が明らかになってきますね。このあたりを少しネタバレしておくと、「信長協奏曲」「信長を殺した男」といった最近の「信長もの」の流れをくんで、「秀吉悪玉説」に寄ってます。

ここで静子と同じくタイムスリップしてきていていた現代人「みつお」が帰還します。彼は豚肉を求めて日本中を旅していたのですが、九州の地で「アグー豚」を手に入れることができた、という設定になっているのですが、なんと種豚と一緒に、島津貴久の娘を嫁にもらっての凱旋です。
島津貴久は、後に九州全土をほぼ統一するまでになった島津四兄弟のお父さんですね。彼は若い頃に一族内の内訌で分裂した薩摩を統一し、西大隅まで支配下において「島津家の英主」と呼ばれた殿さまですが、この第8巻の頃は隠居して、息子の義久に家督を譲った後でしょうか。島津貴久は若い頃に失った島津宗家の地位と旧領の回復のために戦乱に明け暮れた毎日だったので、娘はせめて、薩摩から遠く離れた「尾張」へと旅立たせたのかもしれません。

そして、美濃攻略と同時に始めた伊勢への侵攻がいよいよクライマックスを迎えます。物語では、静子のもとにいた前田慶次と森勝蔵(後の森長可)も参戦し、勝蔵は静子から授かったのであろう西洋の武器「モーニングスター」を使って、武将の甲冑を打ち砕く活躍を見せます。本シリーズでは、足満こと13代将軍・足利義輝が考案した伊勢の農地をボロボロにして飢饉を起こす戦術によって、戦う前に飢餓状態にあった北畠軍はまともに戦える状態ではなかったこととなっているのですが、実は、最初、城を包囲して優勢だった信長軍も戦が長期化して、将軍・義昭の調停でやっと和睦に持ち込んだ、という説もありますね。

レビュアーから一言

際8巻の途中で、ルイス・フロイスから信長に献上され、静子に飼育が任された「扇鷲」は、翼長が2mあまりとなる大きな鷲ですが、ここで

と言われている「さらに大きな鷲」は、かつてニュージーランドに生息し、飛べない鳥「モア」を餌としていた、翼長3m、体長1.4mの「ハルパゴルニスワシ」ではないかと思われます。ただ、ニュージーランドにヨーロッパ人が上陸したのは18世紀中頃なので、フロイスたちがどこでそれを手に入れたかは謎ではありますね。

Bitly

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