総解説>キングダム20・21「魏・山陽攻略戦」その2=廉頗四天王を撃破せよ=

中国の春秋戦国時代の末期、戦国七雄と呼ばれる七カ国同士の攻防が続く中、中華統一を目指す秦王「嬴政」と、戦争孤児の下僕から、天下一の大将軍を目指す「信」が、ともにその夢の実現を目指していく歴史大スペクタクル「キングダム」シリーズの第20弾から第21弾までを総解説します。

趙との同盟を締結し、中原へ侵入する道を確保するため、魏の山陽地方に攻め込んだ蒙驁率いる秦軍だったのですが、魏の亡命していた趙の三大天の一人・廉頗が立ちふさがります。戦国時代後期を代表する猛将の出現に苦闘する信たち秦軍の姿が描かれます。

あらすじと注目ポイント>廉頗四天王を撃破せよ

第20巻 廉頗四天王の一翼・玄峰を斃し、次の標的は「輪虎」

第20巻の構成は

第207話 玄峰、参戦
第208話 敵本陣の場所
第209話 玄峰、嘲弄
第210話 手玉
第211話 副将、動く
第212話 曲者
第213話 蒙恬の提案
第214話 共闘
第215話 輪虎兵
第216話 肉薄
第217話 信、一気呵成

となっていて、冒頭では、魏の廉頗四天王の一人・玄峰将軍がしかける「煙幕」攻撃に秦軍は苦戦しています。

この攻撃は敵・味方とも濃い煙幕で包んで視界を遮ったところで、秦軍へ弓矢をしかけてくる攻撃で、最初はそのからくりがわからないのですが、羌瘣の推理で「音」により秦軍の位置を知らせていることが判明します。

飛信隊は、音をたよりに動いている玄峰軍を「音」で攪乱し、さらに本陣から各部隊へ指示を出している「音」を辿って、玄峰の本陣をつくのですが、そこは彼の術策の範疇であったらしく、杭の罠などで行く手を阻まれ、なかなか玄峰まで迫れません。

しかし、ここで風向きが変わり、煙幕が流れるという偶然がおき、王賁の玉鳳隊が飛信隊に合流してきます。王賁は指示を出している「音隊」を始末しながら本陣へ迫ってきたもので、両隊で玄峰に迫り、玄峰を捉えることができるか、とおもわれたところで、あっさりと玄峰は退却。信は単騎で追い、槍を飛ばすが仕留めることができません。どうも、こういう「智謀」に特化した軍勢が「信」とは相性が悪いようですね。

ここで戦争は二日目に突入します。弓の名手の廉頗四天王・姜燕vs秦・王翦の戦い、と秦将・桓騎vs廉頗四天王・玄峰の戦いが始まります。ここで、桓騎は斃した魏の千人将の張付け死体や、兵士の目玉を魏軍の陣中に送ってきたり、死んだ魏兵を晒すなど、残虐な心理戦を魏軍のしかけます。この敵兵や住民の死体を辱めることによって、敵の闘志を削いだり、恐怖心をあおったり、という戦法はこれからも桓騎は多用しますので覚えておきましょう。

桓騎の陽動に幻惑される魏将・介子房にかわり玄峰が魏左軍の指揮をとることになり、彼は神出鬼没の桓騎の軍の位置を正確に把握して、的確な作戦を立てるのですが、その実行にかかったところで、自ら魏兵に変装して、玄峰本陣に潜入してくるという桓騎の奇策によって、玄峰は斃されてしまいます。軍師の精密さが、野盗の乱暴さに蹴散らされた瞬間ですね。

その後、戦争も五日目となり、蒙恬は、蒙恬の楽華隊、王賁の玉鳳隊、信の飛信隊が共同して輪虎軍を攻撃する案を上司たちには内緒で二人に提案します。これは、まず楽華隊が要所に配置されている輪虎の親衛隊の「輪虎兵」に挑み、これを斃し、精鋭部隊である「輪虎兵」の数を減らしたところで、玊鳳隊、飛信隊が中央を突撃、本陣にいる輪虎を目指す、というもの。発案者の蒙恬の「楽華隊」が輪虎兵をすり潰して道をつくり、そこから中央にいる輪虎に信と王賁が挑みかかっていきます。

Bitly

第21巻 「輪虎」追撃はとん挫。左翼戦では王騎の「囲地」の策を廉頗が粉砕

第21巻の構成は

第218話 壁隊
第219話 越える
第220話 壁、惑う
第221話 裏の裏
第222話 将器
第223話 欠落
第224話 最後の朝
第225話 輪動
第226話 おちょくり
第227話 長年の考え
第228話 練る時間

となっていて、前半部分では、前巻に引き続き、信と輪虎との一騎打ちが続きます。しかし、蒙恬が突撃路を開いてから時間も経過しつつあり敵の援軍も集まりつあるため、そう時間に余裕はありません。

ただこの激闘の中で、信は今までの彼の剣技の限界を突破する何かをつかみ、輪虎の左指を斬り落とすことに成功します。ただ、輪虎を追い詰めたのもここまで、魏の援軍の到着で、撤退を余儀なくさせられます。

一方、秦の中央軍の左に位置している王翦軍には姜燕軍一万が攻めかかります。王翦は壁の部隊に激励に訪れ、彼を現場で五千人将に抜擢して姜燕を迎撃させます。一見、壁の才能を見出したように見えるのですが、実は王翦は壁隊を囮にするつもりです。ここらには後巻で明らかになっていく、王翦の「冷徹さ」が垣間見えていますね。

王翦の作戦は、魏将・姜燕を「囲地(入り口と出口が狭く、中は断崖に囲まれた場所)に誘い込もうとする「壁」の部隊を、逆に伏兵によって取り囲んで「囲地」に追い込む魏軍に、自らの大軍でさらに取り囲むという「囲地」に「囲地」を重ねていく戦法です。

王翦本軍に包囲され、姜燕軍はすりつぶされるのを待つばかりか、と思われたのですが、ここで出現したのが廉頗の軍勢。王翦軍よりさらに上の崖上に布陣し、王翦軍を脅かします。

さあ。王翦の反撃の手は・・と期待されるところなのですが、王翦が選んだは「退却」です。

しかし、単なる「退却」ではなく、その先にさらに仰天する策をあらかじめ講じてあるのが、王翦の凄さですね。

巻の後半部分では、いよいよ山陽攻略戦の決着をつける最終戦が始まります。
秦・魏双方の主力軍が対峙する中、まず動いたのは魏軍の輪虎。回転する兵の渦をつくり、秦の横陣に左右の隙間をつくったところに突入させる、かつて王騎の守備を抜いたといわれる「輪動」の陣で、秦軍を切り裂いていきます。
切り裂かれていく秦軍の背後に控えていたのが飛信隊で、再び、輪虎との激闘が始まります。

一方、秦の総大将・蒙驁の本陣には、王翦軍を退却させた廉頗軍が対峙します。蒙驁は小高い丘に築いた砦に兵をおき、廉頗を迎え撃つという布陣で、まるで砦に籠城する「蒙驁軍」を包囲して、廉頗軍が攻城戦をしかける形になっていて、今回の戦は、魏の領土に秦が攻め込んでいるのですが、攻守の立場を交換したような戦いが展開されます。

ここで発揮されるのは、蒙驁の「守り」の巧みさで、砦全体に、行き止まりの道や迷路となる「断道の計」をしかけ、砦に登ってくる魏軍を罠をしかけてきます。四十年間、戦では廉頗に豆続けた蒙驁の逆転が今起きるのか・・といった展開です。

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レビュアーの一言>稀代の戦術家・王翦の正体は?

今回のタームで本格的に登場する武将で注目すべきは秦の「王翦」将軍でしょう。彼は歴史上実在の人物で、趙や楚を滅ぼして秦の中華統一に功績をあげた武将で、彼の子孫が漢の時代から魏晋南北朝の時代に至るまで有名政治家を輩出した「琅邪王氏」と言われています。

本シリーズでは抜群の「将才」をもちながら、独立して「王」となる野心をもっているため、昭王の時から警戒されて重用されてこなかったのを、秦王・政が見出した設定になっています。

実は、史実では猜疑心の強かった始皇帝(政)に反乱の疑惑を持たれないため、領地をねだったり、早期の引退を願ったりして、この時代、君主の不興をかって誅殺されることが多かった中で天寿を全うしています。独立の野心とか、本書のエピソードも、彼独特の「命を守る」方策だったのかもしれません。

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