中国の春秋戦国時代の末期、戦国七雄と呼ばれる七カ国同士の攻防が続く中、中華統一を目指す秦王「嬴政」と、戦争孤児の下僕から、天下一の大将軍を目指す「信」が、ともにその夢の実現を目指していく歴史大スペクタクル原泰久「キングダム」(ヤンギジャンプコミックス)シリーズ第66弾を総解説します。
前巻で趙の北方の拠点であった「閼与」を攻略したものの想定の三倍の犠牲を出した秦の王翦・桓騎連合軍は、王翦が閼与の守備に残り、桓騎軍が途中の太原からの20万の秦北東部軍と合流して宜安を目指すことにします。しかし、秦北東部軍は途中で狼孟軍によって5万まで減り、桓騎軍はこれとあわせた14万の軍勢で宜安攻略に向かうのですが、これを待ち受けていた李牧の罠が炸裂するのが本巻です。
あらすじと注目ポイント
単行本「キングダム」第66巻の構成は
第714話 思いを力に
第715話 描き切られた戦い
第716話 打開策の有無
第717話 優勢な場所
第718話 共闘の力
第719話 錐型の陣
第720話 指示旗
第721話 真骨頂
第722話 前後の呼吸
第723話 飛信隊の道
第724話 四つの大戦
となっていて、宜安攻略を目指す、桓騎軍・飛信隊・楽華隊・壁軍の秦の連合軍と李牧の指揮する趙の北方軍との対決が始まります。
飛信隊は李牧のしかけた包囲網を突破できるか?
しかし、秦軍が当初10万程度と予測していた趙の北方軍は、超北部全域からの兵を総動員していて総勢31万の軍勢まで膨れ上がっています。李牧は、秦軍に趙の兵数を見誤らせ、まんまと後戻りのきかない趙北部深くまでおびき寄せたということですね。
ここで秦軍14万の兵の2倍以上の兵力差を使って、李牧のとった作戦は秦軍を取り囲んでの総攻撃です。
まず、右翼の飛信隊、左翼の楽華軍、そして中央の壁軍が最初の標的になります。趙の大軍に対し桓騎の本体は動こうとしないため、総攻撃の圧力はまずこの3つの軍にかかり、どんどん兵を削られていきます。この圧倒的な兵力差を打開するため、信がとった捨て身の作戦は、左転し、さらに中央の壁軍の前を通り過ぎて楽華軍へ向かう、という李牧も驚く奇想天外なものです。
そして、右翼・左翼の兵をあわせた信と蒙恬は「大錐型の陣」をとって、目趙の分厚い軍を突き破ろうとします。ここに立ちはだかったのが、李牧の鍛えた北方の精兵である楽彰と上和龍の率いる青歌軍で、彼らが敷く陣も「信」たちと同じく「大錐型の陣」。両軍の力と力が激突します。
この激突の中で、飛信隊の「岳雷」が上和龍に、楽彰の槍をうけた蒙恬をかばって副将の愛閃が倒されます。この二人の戦いの様子は原書のほうで。
飛信隊の副長・羌瘣、青歌軍を突破
で、この乱闘の中で異彩を放つのが、飛信隊の中央にいた羌瘣で、青歌軍が信と蒙恬へ群がる隙をついて、陣を抜けることに成功します。
しかし、抜いたとはいっても羌瘣を中心とする一隊のみで、信や蒙恬には依然として青歌兵たちが群がってきます。
信の馬の足が止まり、上和龍軍の副将・豪座公が信を倒そうとするのですが、そこで現れたのは敵陣を抜けたはずの・・・ということで羌瘣がさすがの大活躍です。
圧倒的な大軍の攻撃をくらいながら、信が奇想天外の発想をし、羌瘣はじめ飛信隊のメンバーが趙軍を打ち破る大バトルが中盤までの注目点です。
桓騎の弱点とは何
ただ、李牧が狙う本命は、あくまでも桓騎の本隊。趙軍は、正面を守る壁軍を突き崩し、桓騎軍へと迫っていきます。
ここで、まだ動きをみせようとしない桓騎なのですが、李牧は桓騎は動きたくても動けないのだ、と看破します。李牧は桓騎がいままで正攻法での勝利が一つもないことから、桓騎の弱点を見抜いたということなのですが・・・というのが後半部の注目点ですね。
レビュアーの一言
史記の廉頗藺相如列伝によると、この戦は「宜安の戦」ではなく、「肥下の戦」となっていて、激しい戦いの末、桓騎は李牧に破れて行方不明になったとされているのですが、Youtubeでも歴史解説をされている「ゆっくり歴史解説者のブログ」では「宜安の戦いは趙側と秦側で記録が正反対になっていた」として、始皇本紀では「桓騎が平陽を攻撃し宜安を取り」という記述があり、桓騎が勝利したともみられるという話を紹介されていて、「キングダム」シリーズではどう扱うか興味深いところです。
ただ、どちらにしても、李牧はこの後、番吾の戦でも秦に勝利して、領土を奪還していて、秦王政の中華統一を阻止する大きな壁となった立ちはだかっていきます。このシリーズでも、李牧の活躍はまだまだ続くようですね。
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