父親の借金のかたに、品川宿の料理が自慢の旅籠・紅屋に女中奉公にでた「おやす」が紅屋の料理人頭「政さん」や、同じ品川の脇本陣「百足屋」の一人娘で日本橋の薬種問屋にお嫁にいった「お小夜」たちに囲まれ、自ら「鼻が効く」という特技を活かしながら江戸時代には珍しい女性料理人として成長していく「お勝手のあん」の第五弾が本書『柴田よしき「あんの夢 お勝手のあん5」(時代小説文庫)』です。
前巻で安政の大地震から一年後、大風による高波に呑み込まれ、「お安」の奉公する紅屋もおおきな被害をうけてしまいます。建て替えのため二ヶ月間休業することとなり、その間、お安は「政さん」の親戚の「おくまさん」の紹介され、江戸・深川の煮売屋での料理人修行励みます。
あらすじと注目ポイント
構成は
一 かちんこちん
二 浅蜊の恩
三 鉄鍋とももんじ
四 煮売屋の仕事
五 屋根を歩く人
六 上方の味
七 おゆきちゃん
八 甲州街道
九 夢の力
十 寝たきりの若奥さまと、再び屋根を歩く人
十一 新しい年を待ちながら
となっていて、まずは前巻で颶風に襲われ、大水に浸かって壊滅状態になった品川から始まります。
「颶風」というのは温帯低気圧の激しいやつのことらしいのですが、近年、日本各地を襲っている暴風雨よ集中豪雨の合体したような災害が品川を襲い、宿場中の宿屋や人々の住む長屋も洪水で破壊された状態となっています。
紅屋は、洪水を予見した辰三の言葉を信じて、貴重品や米、醤油や保存食品などは蔵や高台に運んでいて、当座の食料は確保できていたのですが、多くの人々はその日の食料にも困る状態で、この人々の危難を見て、炊き出しの材料に拠出するのが紅屋らしいところです。
そして、さらに紅屋の大旦那は、被災生活で落ち込んでいく人々を励ますために、洪水から逃れた宿屋の部屋を利用して、ある「商売」を始めるのですが、それは単なる災害支援ではなく・・といった展開ですが、ここは原書でお確かめを。
しかし、洪水の被害が少なかったとはいえ、紅屋も多くの部屋を被災していて、今までのような商売はできないため、休業して全面改修をすることが来まします。この間、「お安」は自宅待機状態になるところだったのですが、政吉の知り合いの団子屋の「おくまさん」から深川の煮売屋「さいや」を紹介され、そこで二ヶ月間働くこととなります。
煮売屋は、長屋住まいの独身者の男性が多い「江戸」でよく見られた商売で、煮魚や煮豆、煮染といったおかずを振売や店舗・屋台で売った商売で、酒や飯をそこで出す居酒屋や一膳飯屋を兼ねた店もありました。江戸では火事を警戒して屋台や行商で火を扱うことを禁止されていたことが多かったので、煮売屋は江戸っ子になくてはならない存在といえますね。
今回、お安の働くところは、移動販売でおかずを販売する店の調理場ですね。お安は、十数年前に火事で亭主と死に別れ、その後煮売屋を営んでいる「おいと」さんの店で調理場の手伝いをすることになるのですが、宿屋の調理場とは料理の味付けも客筋も異なるジャンルでの料理人修行を始めるのですが・・といった筋立てです。
ここでは、あっという間に煮売屋に馴染んで、今までの商品を一工夫して評判を上げていく姿や、「さつま揚げ」という薩摩藩士から教えてもらった料理を思い出して、新たな「人気商品」を作り出していきます。いつもの「お安」のサクセスストーリーが展開されていくので、心ゆくまで安定した魅力をお楽しみください。
レビュアーの一言
本巻では、盗賊の手先となっていた男に騙されて妊娠してしまったため、紅屋を出て八王子の尼寺に預けられた「おちよ」に会いに行っているのですが、この帰り道に、あの新撰組の副長の若かりし時に出会っています。京都やその後の会津、箱館では鬼神のように怖れられた彼も、まだ修行時代で、まだ夢多き若い剣士なのが初々しいですね。
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