街中の「書店」のふんわりミステリーをどうぞ ー 大崎梢 「配達赤ずきん」

ミステリーの舞台設定の一つとして、一般人では経験できないような場面を提供する、というやり方があるが、本書は、これとは違い、ひどくお馴染みの場所でありながら、経験できない場を提供する、という簡単なようでかなり高度な技が提供されている。

舞台は、首都圏(?)近郊の駅ビルの6Fにある成風堂という中規模の書店。まあ、よくある、通学や通勤帰りの学生や勤め人が寄っていく書店といったところ。役者は、当然、この書店に勤める書店員さんなのだが、24歳のまだうら若い杏子(きょうこ)さんと大学の法学部在学中の多絵ちゃんがメインで進められる「書店ミステリー」が『大崎 梢 「配達赤ずきん」(創元推理文庫)』。

探偵役は、この多絵ちゃんなのだが、ワトソン役の杏子さんは、かなりのお喋りと見受けられるのと、探偵役はアルバイトのせいか、フルタイムでの登場(勤務)はできないので、まあ、二人で一役といったところです。

【収録と注目ポイント】

収録は

「パンダはささやく」
「標野にて、君が袖振る」
「六番目のメッセージ」
「ディスプレイ・リプレイ」

となっていて、第一話の「パンダはささやく」は、寝たきりの老人から知り合いを通じて託させる暗号のメッセージ。ここで、この物語の語り部の杏子さんと、探偵役の多絵ちゃんが登場。
痴呆症気味の老人のしゃべる暗号まがいの注文の謎解き、という風で始まるのだが、どうしてどうして、深いわけが潜んでいたとは恐れ入るといった次第。

第二話の「標野にて、君が袖振る」は、昔、交通事故で死んだ息子の隠された秘密にいきあたり、どこか行方不明になった母親の行方をさらに推理するというお話。年月を超えた恋物語ではあるのだが、ちょっと最後の落ちは、強引すぎるような気がしてタテツケがわるいかな。

第三話の「配達あかずきん」は成風堂のお客さんの美容院の届けた本がトラブルの元になって、その美容院が存亡の危機に陥る。その苦境を多絵ちゃんがすっぱり解決、という次第。美容院への配達を担当する店員の女の子の天然さがなんとも可愛い。

第四話の「六番目のメッセージ」は、成風堂の男店員が入院した患者にお勧めの本を提案していて、そのご本人から感謝の言葉をもらうのだが、その当の店員が見つからない、さて、その店員は誰、といった感じのお話。書店にそんなに雑多な種類の人がいるなんて書店関係者でないとわからないよね、というオチ。恥ずかしながら、患者さんに提案された本、実は私は一つしか読んだことがなかったですわ・・。

最終話の「ディスプレイ・リプレイ」は出版社が主催するコミックのディスプレイ・コンテストに参加した成風邪堂の店内ディスプレイで発生したトラブルの解決編。コミック・ファンの女子大生のファン魂が解決を導いた、というところかな。

【レビュアーから一言】

本シリーズのような、人が死なない「ミステリー」は、子供のいじめを含め、若い人たちが将来を悲観させるような出来事が多い時は、読む方の気持ちを「ふんわり」とした感じで包んでくれて、精神衛生上、非常のよろしい。
とりわけ、登場人物に悪人がでてこないせいか、「人」に対する信頼を再認識させてくれるようで、心が荒みそうなときはお勧めの作品であります。

コメント

タイトルとURLをコピーしました