現代の謎解きはチーム作業でないと解決しない=未須本有生「絶対解答可能な理不尽すぎる謎」

ミステリーの謎解き役は、ホームズや金田一耕助の時代のように万能の私立探偵の登場は少なくなっているものの、たいていはプロの警察官か、あるいは偶然、事件に遭遇して推理の才能が突然開花する探偵もどき、といったことが多いのですが、本書『未須本有生「絶対解答可能な理不尽すぎる謎」(文芸春秋単行本)』は、その説明文にあるように

七人の素人探偵が、ともに日常の謎を解く!
現代における「謎」は複雑すぎて、天才探偵がたった一人で解決できる時代ではない!
理系作家が新たに提案するのは、「特殊な専門性」を持つ七人の素人探偵が「理不尽すぎる謎」を解き明かす「新感覚ミステリー」

ということで、ミステリー作家の「高沢のりお」を筆頭に、映像作家やワイン評論家、雑誌編集者といった面々が互いに力を合わせたり、分担しながら、降りかかってくる「日常の謎」を解き明かしていく連作集です。

あらすじと注目ポイント

構成は

「小説家 高沢のりおの災難」
「映像作家 深川隆哉の誘引」
「公務員 園部芳明氏の困惑」
「評論家 鷺宮聡氏の選択」
「編集者 小野寺司郎氏の失策」
「デザイナー 倉崎修一氏の疑惑」

となっていて、それぞれの話で、登場人物にふりかかる暴行事件や、自宅のワインセラーの暗号解読といった謎の数々を互いに知識やアイデアを共有しながら解き明かしていく、という最近のビジネスでも流行の「チーム作業」による謎解きです。

まず第一話の「小説家 高沢のりおの災難」で被害者となるのはミステリー作家の高沢です。フリーデザイナーの倉崎が流行作家の高沢に呼び出されて、彼の自宅に出向いたところで、高沢の秘書・森谷と一緒に、部屋一面に広がった赤ワインの中で何者かに殴られ手倒れているのが発見されます。助け起こした倉崎に彼は「ハンニンハ、オノデ・・」と言って気を失ってしまって・・という展開です。まあ、こういう状況なので、高沢の担当編集者をしている「小野寺」が犯人と疑われて・・という筋立てですね。ネタバレ的には、ストーカー+LGBTです。

第二話の「映像作家 深川隆哉の誘引」は、フリーでCMとかの映像編集を請け負っている映像クリエイター・深川隆哉が、大学時代からの友人で現在は警察のキャリア官僚の園部芳明にだした「自分が取材旅行で留守にしている間に、ワインセラーが追いてある部屋のドアロックの解錠ナンバーを見つけて、ドアを開けられたら、セラー内のワインをどれでも好きなだけ飲んでいい」という賭けを提案してきます。ワイン収集家の所蔵するワインの魅力とキャリア官僚のプライドから賭けを受けた園部は、ワイン評論家やミステリー作家など古くからの友人を動員して、置いてあったワインの空き瓶の種類や産地、あるいは深川の映像コレクションに中に隠された画像など、さまざまなものを調べていくのですが・・という展開です。ネタバレしておくと、隠されていた謎解きのヒントとは関係なく、解錠ナンバーは・・というオチですね。

第三話の「公務員 園部芳明氏の困惑」は前話でも謎解きの主役となった園部が、今度は友人の一人・秋山の入院中、彼の飼育している熱帯魚の管理を頼まれるのですが、秋山が「大切で貴重な熱帯魚」が入っていると言っている水槽には、他の水槽に入っているのと同じ小魚が4匹。この魚がなぜ貴重なの、というところから始まります。少しネタバレしておくと、この水槽の中に入っていた魚は、秋山の世話をしているデイ・サービスの女性が誤って死なせてしまっていたのですが、自分の落ち度と見られるのはプライドが許さない園部が、もともと水槽に入っていた熱帯魚の正体をつきとめようとするのですが・・という展開です。

第四話の「評論家 鷺宮聡氏の選択」は、ミステリー作家の高沢の頼みで、高沢が好意を持っている女性小説家・天宮にプレゼントする「お酒」をチョイスしていくお話です。天宮の好みを探り当てるため、天宮の友人でイラストレーターの「ササクレ」こと笹乃葉紅とのワインとシャンパン談義が面白いですね。

第五話の「編集者 小野寺司郎氏の失策」は第一話で傷害の容疑をかけられた編集者の小野寺が、以前から作品を出版したくてコネクションを取り続けていた作家・但馬廉丞を怒らせてしまい、話が潰れそうなので、その原因をさぐってほしいとミステリー作家の高沢なのですが、彼自体も但馬の不評をかってしまったので、知り合いの警察官僚・園部や映像作家の倉沢に助けを求め・・という筋立てです。小野寺が怒らせたのは、但馬の栽培しているバラの花がらを摘んでいたときに始まって、お詫びのしるしにバラの鉢植えを持参した時に決定的になったようなのですが・・という展開です。

最終話の「デザイナー 倉崎修一氏の疑惑」は、高沢の書いたミステリーの登場人物がリアリティがない、と編集者に指摘されているところを、彼の有事の倉崎が、そういう人物が実在することを「身をもって」証明する話です。その証明する内容は、まあここは原書で確認してください。結構しょうもないことではありますね。

絶対解答可能な理不尽すぎる謎 (文春e-book)
事件を解決するのは、「特殊な専門性」を持つ七人の素人探偵たち! 「推定脅威」...

レビュアーの一言

本巻の登場人物は、ワインや園芸が趣味で、航空エンジニアから工業デザイナーに転身。大病を経てミステリー作家となった作者の分身のような感じですね。ただ、その職歴の経験が発揮されていたデビュー作の「推定脅威」などの航空ものとは違って、ゆるーい日常の謎が解かれていく「こーじー・ミステリー」の典型のような物語となっています。
その分、殺人や社会的陰謀が渦巻くところがないので、血なまぐさい話やイヤミスが苦手な人も安心して読める仕上がりになっています。

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