平清盛政権末期に福原京でおきる怪事件の謎を解け=羽生飛鳥「揺籃の都 平家物語推理抄」

平安時代末期、それまで綿々と続いていた皇族や藤原氏をはじめとする名門貴族たちから、政権を奪取して栄耀栄華を誇り、武家政権の端緒をつくりながら、源頼朝率いる鎌倉勢に追い落とされた平氏一門の絶頂期を築いた平清盛の実弟・平頼盛が、平氏政権に陰りが出始めた時期に起きる怪事件の謎を解いていく歴史ミステリー「平家物語推理抄」シリーズの第2弾が本書『羽生飛鳥「揺籃の都 平家物語推理抄」(東京創元社)』です。

第一作「蝶として死す」では、平清盛が太政大臣になって二年後、都の支配を進める中で、清盛政権の密偵である「禿髪」が惨殺された事件の解決から、平氏が滅亡し、鎌倉幕府による京都統制のためやってきた北条時政による平氏の残党狩りの謎解きまで、平氏一門が隆盛を極めるところから滅亡直後までにおきた事件の謎解きが描かれていたのですが、今回は、以仁王の反乱以後、清盛政権の足元に不穏な空気が漂い始める中、上皇や平家一門の反対を押し切って、清盛が遷都した「福原」の清盛邸で怪事件が連続していきます。

あらすじと注目ポイント

構成は

序章
第一章 青侍、いずこなり
第二章 伸展する黒雲
第三章 祈祷所の祈り
第四章 ただならぬ夜
第五章 空を舞う物の怪
第六章 羅綾と綾衣
第七章 見果てぬ歩み

となっていて、冒頭では反対を押し切って遷都した「福原」の都(今の神戸市の中央区から兵庫区北部のあたりにありました)で巨大な頭の物の怪や天狗などの怪異が連発するところから始まります。おそらくは、この遷都に反対し、平家に叛心を抱く者たちの流した噂がほとんどなのでしょうが、その極めつけが、公卿の源雅頼に使える「青侍(身分の低い家人)」がみた

平家一門が信仰している厳島大明神が神々の議定の場から追放され、平家が預かっている節刀(天皇から征討将軍に権限委任の印として与えられる刀)を、源氏の氏神の八幡大菩薩が受け取った

という夢でしょう。まるで平氏から源氏へ政治の実権が移ることを暗示しているようでああるため、清盛はこの青侍を捕縛しようとするのですが、寸前で逃げられてしまいます。

この青侍の探索を命じられたのが、清盛の弟・頼盛で、これは頼盛が「禿髪殺し」などで秀でた推理を見せたというのが表向きの理由なのですが、うまくいかなかったら、頼家の率いる池殿流平氏を取り潰してしまおうという策略でもありますね。

そして、家の浮沈をかけて「青侍」捜索をすすめ、港のあたりでその青侍を見つけるのですが、追いかけているうちに、兄・清盛の屋敷内へ逃げ込まれてしまいます。

清盛や彼の息子たちが帰還して屋敷内に滞在する中、せっかく見つけた青侍を、清盛邸内に逃げ込まれたという失態を挽回するため、甥たちの妨害をかいくぐりながら屋敷内を捜すのですが、まず、清盛の寝室から、守り刀としている小長刀が盗まれてしまう、という事件がおき、さらに探していた青侍がバラバラ死体となって築地塀の外に撒き散らされているのが発見されます。

この当時、仮に邸内で屍体が発見されると、物忌として30日間、宮廷への出仕とがができなかったそうですが、バラバラ死体の場合は期間が短縮できたそうなのですが、ここのあたりは謎解きのヒントとなってきますので覚えておきましょう。

さらに事件のほうはこれで終わりません。邸内の厩で飼われている「猿」が殺されて雪の中に埋められていたり、清盛が可愛がっている厳島神社の巫女の女の子・小内侍が祈祷所で襲われて逆さ吊りにされていたり、夜間に化け物鳥が飛んでいるのが目撃されたり、と怪事件が連発します。

清盛の命令で、これら一連の事件の謎解きと犯人探しをすることとなった頼盛なのですが、彼を源頼朝と内通して、平氏一門に災いをもたらそうとしていると敵視する、清盛の息子である知盛・重衡たちが何かと邪魔をしてくるのをかいくぐりながら、彼がたどり着いた真犯人は・・というところで、真相のほうは原書のほうでどうぞ。

Bitly

レビュアーの一言

本巻の舞台の時代設定は、治承4年(1180年)6月の上皇の福原行幸から、11月の京都還行までの短い時間に起きた怪事件の謎解きなのですが、この間に、治承4年8月の頼朝の伊豆韮山での挙兵と石橋山での頼朝の敗戦、10月の頼朝の鎌倉入りと富士川の合戦での平氏の不戦敗という、日本の歴史を動かす大事件が連続しています。
この「揺籃の都」という題名は、清盛の平氏一門の隆盛を末永くつなげたい気持ちが現れたもので、今回の一連の事件も見ようによっては清盛のアレンジといえなくもないのですが、都の政権抗争にかまけて、東国で起きている大きなうねりを見逃したのが、清盛の油断であったように思えます。

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