シリアルキラーの死刑囚の依頼は冤罪の再調査=櫛木理宇「死刑にいたる病」

大学生活に全く魅力を感じず、かといって他に打ち込むものの恋人も友人もいまいまま、Fラン大学に通っている大学生のもとへ、9件の連続殺人で死刑が確定されている死刑囚から、ある日一通の手紙が届きます。その手紙は、彼をある泥沼の中にひきこむきっかけとなるもので・・と物語が滑り出してくダーク・ミステリーが本書『櫛木理宇「死刑にいたる病」(ハヤカワJA文庫)』(単行本初出の「チェインドッグ」を改題)です。

本作は2022年5月6日から阿部サダヲ、岡田唯史の主演で映画化された同タイトルの「死刑にいたる病」の原作となります。劇場などの見たよー、という方もあるかもしれませんが、原作本からは、テキストで伝わってくる、映像とはまた違った不気味さをもっているのでぜひご一読を。

あらすじと注目ポイント

物語のほうは、大学三年生で恋人も友人もいない「ボッチ」の学生生活をおくっている主人公・筧井雅也のもとへ、幼い頃、よく通っていたパン屋の主人で、今は9人の、主に10代後半の男女を誘拐して殺害したとして逮捕され、死刑宣告を受けている死刑囚「榛村大和」に自分と面会してほしいという依頼をうけます。

この榛村という男は、雅也が中学校時代まですごした実家の近くにあった評判のいいパン屋のパン職人兼経営者で、雅也もそこのBLTサンドイッチが好きでよく買いにいった記憶が残っています。当時、雅也は成績もよくスポーツも万能な生徒であったので、幼い頃に輝かしい記憶の残っているところでありますね。榛村はパンの腕もよく、近所づきあいもよかったので、彼が連続大量殺人鬼であることが判明した時、近所に人は全員が信じられなかったという、いわくつきの「シリアルキラー」ですね。

そしてて、刑務所の面開所で、榛村が雅也に依頼したことというのが「自分がやったとされている9番目の、23歳の女性が山奥で拷問の末に絞殺され、そのまま遺棄された犯行は、自分がやったものではない。その事件を調査して、自分の冤罪を晴らしてほしい」というものです。ただ、そのほかの8件については、犯行を認めているので、死刑判決そのものは揺るぐことはないと思われるのですが、彼がターゲットとした層と殺し方がほかの8件とは異なっています。

雅也にこうした妙な依頼をする目的は?そして本当の冤罪なのか?といったところですね。

まあ、通常ならこうした依頼を受けることはないと感がるのが普通なのですが、それ以後、事件の詳細な資料が弁護士事務所から届いたり、榛村と面会をかさねるうちに彼の言葉に真実が含まれているかも、と思い始めたり、さらには、高校時代、県内の有名進学校に進学したもののついていけずドロップアウトして、今は不本意な大学に通っている自分の境遇から脱出するきっかけになるような気がしたのか、雅也は榛村の依頼を承諾し、日本の過去のシリアルキラー殺人を参考にして、榛村の犯行の個人的な再調査を始めることになります。

そして、その再調査の中でわかってきたのは、父親に捨てられ、母親からは虐待を受けながら成長してきた榛村の生い立ちと、彼に対する好悪真っ二つに別れる評価です。

さらに9番目の女性のことを調べるうちに、彼女にストーカーのような人物がまとわりついていたことと、榛村が若い頃、マインドコントロール状態において兄弟で傷つけ合いをさせた兄がそれに関係していたのでは、という推理に至るのですが、そこには殺人の真相が隠れているだけではなく、榛村のおぞましい狙いも明らかになり・・という展開です。

途中の展開で、家庭内で居場所をなくしている雅也の母親との親子のふれあいであるとか、小学校時代、雅也に憧れていて、今でも彼を慕っている大学の同級生・加納灯里とのぎこちない恋愛模様といった薄幸そうではあるのですが、美人な風情の女性との絡みもあって、少し心がほんわかとなるところはあるのですが、結末に向けて作者が容赦なくダークサイドの闇をまき散らしていきますので、そこのところは油断なきように。

死刑にいたる病 (ハヤカワ文庫JA)
鬱屈した大学生活を送る雅也は、連続殺人犯の大和から冤罪の証明を頼まれる。戸&...

レビュアーの一言

本書の主人公の榛村は「シリアルキラー」とされていることから、かれの依頼をうけた再調査の中で、日本だけでなく、イギリスやアメリカの「シリアルキラー」の犯行も、本文中に大量にでてくるので、そのあたりが苦手な人はちょっと注意しておいたほうがいいですね。

さらに少しネタバレになるのですが、「世界が赫に染まる日に」や「少女葬」、「虜囚の犬」などダークサイド・ミステリーの名手である作者の手管が如何なく発揮された作品ですね。

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