祖母の犯罪の「真意」に孫が気づくときー芦沢央「許されようとは思いません」

「汚れた手をそこで拭かない」で直木賞候補となっている、新進気鋭の作家・芦沢央さんが虐待や悪意に着目して仕上げた「イヤミス」風のテイストでありながら最後に驚きのどんでん返しが仕掛けられているミステリー五篇がまとめられているのが本書『芦沢央「許されようとは思いません」(新潮文庫)』です。

収録と注目ポイント

収録は

「目撃者はいなかった」
「ありがとう、ばあば」
「絵の中の男」
「姉のように」
「許されようとは思いません」

の五編。

まず第一話の「目撃者はいなかった」は、契約がとれずにお荷物扱いされている営業マン・葛城修哉が、月間でナンバーワンとなる営業成績をたたき出すのですが、それが発注ミスであることから事件が動き出します。彼はその発注ミスを誤魔化すために、自腹で製品を購入し、本当の発注先には自分が届けるという偽装を行うのですが、そこで車の衝突事故を目撃します。
その事故では原因となった自家用車の運転をしていた中年女性が、相手の男性ドライバーが死亡していることをいいことに、その男性に事故の責任をすべてひっかぶせる証言をするわけですね。その男性の無実を証明するため、男性ドライバーの妻が、葛城に証言を求めてくるのですが、葛城は発注ミスがばれるのがいやで断ります。しかし、ここで、彼が証言拒否を貫けないような事態が起きてきて・・・、という展開です。

二番目の「ありがとう、ばあば」では、子役タレントのマネージャー的な役割をする「祖母」におきる事件です。彼女は、その女の子の母親の反対を押し切って、タレント活動をプッシュしていて実の娘である母親と厳しく対立しています。例えば、最近では年賀状に使う写真で、その女の子がまだ太っていたころのものを使おうとしたってなことで大喧嘩にもなっているようですね。その女の子もその写真が使われるのが嫌でできれば、その年賀状を出すのをストップしたいようなのですが、母と祖母のケンカが終息しないため、母親に押し切られそうな気配になっています。
で、事件のほうは、仕事のロケで出張した先の宿泊先のホテルで起きます。その祖母がベラベランダに出た時に、その女の子がベランダの出入り口を閉じて、締めだされてしまいます。そこには祖母の教育に忠実に、タレント活動に熱心な女の子が、年賀状の発出を阻止するアイデアが隠されていて・・・、という展開です。

三番目の「絵の中の男」は、絵が描けなくなった画家が、精神的に追い詰められて夫を殺してしまった事件がおきます。その画家は、幼少期に両親と姉を自宅に盗みに入った強盗によって目の前で惨殺されているのですが、その記憶を原動力に傑作を仕上げてきています。そして結婚後、スランプに陥っていたのですが、自宅が火事になり、息子がそこで焼死するという不幸に再び襲われ、創作意欲を取り戻します。ところがそれも数年しかもたず、再び絵が描けなくなり、といった状況の中での殺人事件なんですね。さて、この状況下で起きた「夫殺害」の真相は・・・といったところです。

四番目は、路上で実の3歳になる娘を階段から突き落として死なせてしまった母親の新聞記事から始まります。そして、そこから場面が転じて、事件を起こした姉のことに思いをはせる妹と、姉の事件をきっかけに夫との関係やママ友との関係が壊れていく様子が綴られていくので、あぁ、この突き落とし事故が妹の精神を蝕んでいくのだな、と読み進めていくと、最後にどんでん返しをくらいますので要注意です。

最終話の「許されようとは思いません」では、村八分の状態で死んでしまい、村の墓地への埋葬ができなかった祖母の「お骨」を埋葬しようとする孫の話です。祖母は、村外からお嫁にきていたのですが、ボケて村の水路の栓を開けて中干しをしている田んぼに水をあふれさせるということを繰り返してた曽祖父を殺害してしまうという事件を起こしてしまいます。これがもとで村八分以上の火事と葬式でも助けない「ムラ十分」の状況となり、祖母の骨壺は掘り返されて、村の墓地外に放置されるという仕打ちをされてしまっているのですね。これを見かねた孫の青年が埋葬をしようとするのですが、その過程で、祖母が曽祖父を殺害したときの「許されようとは思いません」と発言した真意に気付いて・・・、という展開です。これに気付くと思わず絶句してしまうかもしれません。

レビュアーからひと言

五篇とも、最初は「イヤミス」のように人間の悪意がつきつけられる感じがするのですが、話の最後のどんでん返しのところまで読むと、読後感がガラッと変わってしまうこと間違いないですね。

Bitly

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