美濃・斎藤家の落ち武者から国持大名にまで出世したのに、自らの突出によって島津との戦に敗戦して改易。一家離散のどん底から再び国持大名まで出世。さらには徳川二代将軍のときには「秀忠付」に任命されるなど徳川幕府の重鎮となった「仙石久秀」のジェットコースター人生を描く「センゴク」シリーズの第4Season『宮下英樹「センゴク権兵衛」』の最終巻にして、「センゴク」シリーズの完結です。
前巻では、所領の小諸で「風呂」による領国支配を固める中で、お市の娘の三姉妹の末っ子・お江を徳川秀忠のもとへ送り届け、徳川家との繋がりを強固にするというしたたかさを見せた「センゴク」こと仙石秀久。一方で、彼が戦国時代をともに生きた豊臣秀吉の「老い」はますます進行していて、豊臣政権と戦国時代の「落日」の日が近くなっています。
あらすじと注目ポイント
構成は
vol.232 遺言
vol.233 夢のまた夢
vol.234 進むべき道
vol.235 家中騒動
vol.236 天下二分
vol.237 戦国の倣い
vol.238 計略のにおい
vol.239 敗将の縁
vol.240 無常の鐘
vol.241 乱世の臨終
vol.242 縁ありし者たち
最終話 別れの時
となっていて、前半部では、自分の死後、息子の秀頼が成長するまで「豊臣政権」を存続させるシステムとして「五大老五奉行」という相互監視体制を基礎におく政権運営体制をつくるのですが、有力大名である五大老自らがこのシステムを破っていて、すでに破綻間近になっているところが描かれています。
この体制を守って、豊臣政権を維持していくには、秀吉の絶対的信頼を得ている「石田三成」が秀吉の権威をバックにして将来の禍根となる家康をパージしていかないといけないのですが、光成はこの時点では動こうとしていません、
通説では、五大老だけではなく、秀吉政権を支える有力大名から嫌われていた三成が動こうとしても動けなかったという説が有力なのですが、本書では
というように、光成が秀吉の臨終を心穏やかにおくらせようとして、自重していたという解釈がされています。
このあたりが、イスパニアなどの外国勢力や、毛利、足利将軍などのしぶとい対抗勢力を排除して「織田」政権の存続を狙って謀反を起こした明智光秀との違いなんでしょうね。
そして、秀吉の死去から二年後、天下を二つに割る「関ヶ原の戦」がおきようとしているのですが、このシリーズの主人公・仙石権兵衛は、家康の上杉討伐軍に加わって、領国の小諸に帰り、近隣の真田勢と合流して上杉攻めに向かうつもりなのですが、ここで真田勢が陣を引き払って自領に帰り、反徳川の兵をあげた石田三成勢に加わります。そして、天下は、石田三成が差配する西軍と、徳川方の東軍に別れ、日本を真っ二つに分けた、史上最大級の戦争が始まっていきます。
ここで注意しておきたいのは、私達はこの戦争の結末とその後の歴史を知っているので、「家康」側でしょ、なんて思うのですが、その時は勝敗の行方はわからないどころか、陣容をみれば圧倒的に「西軍」有利です。
ここで、家康の切り崩し工作などの情報もないまま、野生の勘で、徳川勢につくセンゴクの嗅覚はスゴイものですね。
そして、この戦争で、センゴクは真田勢に惨敗して家康の叱責に怯える秀忠を勇気づけて、信頼をかちえていくのですが、そのきっかけは、彼の得意とする「風呂」です。
そこで彼が秀忠に説いた「大名の役目」が、かなり「深い」アドバイスになってますので、詳しくは原書のほうで。
後半部分は、先を急ぐ事情でもあったのか、関ヶ原以後へとどんどん進んでいきます。
センゴクは、結局、信濃で秀忠軍とともに真田勢に足止めをくらったため、関ヶ原の実践には参画していないのですが、豊臣政権と徳川政権の間で時代が移り変わっていくのを見守ることとなりますね。ここらは少しばかり説教くさいところがあるのですが、まあ、このシリーズの特徴の一つとして読み進めましょう。
ちなみに、石山本願寺の開城後、浅倉の姫とともに消息を断っていた「お蝶」が登場していますので、お見逃しなきように。彼女は、大阪城落城後、そこから逃れてきた女性を看病している様子が描かれています。
レビュアーの一言
当方の勝手な予測としては、豊臣秀吉亡き後、再び乱れようとする情勢の中で、徳川と豊臣の最後の闘争、そして、家康の近臣たちと秀忠と彼の腹心たちとの権力争いの中で、センゴクがどう立ち回るか、といったところも期待していたのですが、正直なところ、意外にあっさりと「戦国の世」を閉じてしまったな、という感じです。おそらくは「戦国」を体現していたのは「秀吉」までで、「家康」はその任にない、という解釈なのではと思われます。このあたりは、関ヶ原の開戦前夜、家康が「怯えた」様子に見えた、というセンゴクの人物評に表れているように思うのですがいかがでしょう。
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