新九郎は甥の家督相続に奮闘するが失敗続き=ゆうきまさみ「新九郎奔る!」11

戦国時代の「下剋上」の典型として、堀越公方足利政知の息子・茶々丸を攻め滅ぼして「伊豆」を我が物にしたのを皮切りに、関東管領の上杉氏の家臣から小田原城を奪い取り、その後、相模国を領土とし、戦国大名の魁といわれる「北条早雲」の若き頃の姿を描く『ゆうきまさみ「新九郎奔る!」』シリーズの第11弾。

新九郎の姉・伊都の夫である駿河国守護・今川義忠の急な戦死によって生じた今川一族の内部抗争を、三浦一族ら有力国人侍の指示する義忠の従兄弟・範満に、伊都の息子・龍王丸の成人まで守護代行とすることで、太田道灌たち関東管領勢力を手打ちをして、伊都と龍王丸を京都へ連れ帰った新九郎だったのですが、龍王丸の家督相続の進展もないまま、全国的な飢饉に見舞われ始めている領国・荏原の統治に苦労する姿が描かれます。

あらすじと注目ポイント

構成は

第六十六話 家督の行方 その1
第六十七話 家督の行方 その2
第六十八話 家督の行方 その3
第六十九話 家督の行方 その4
第七十話  悪企み
第七十一話 ぬい
第七十二話 義政の胸中

となっていて、冒頭では将軍義尚の御伴衆にえらばたものの一向に呼び出しのない新九郎は、日照り続きで不作・凶作が心配される領国の東荏原の引き締めを図るため、一時帰国をするのですが、挨拶の訪れた叔父で西荏原の領主・伊勢盛景の屋敷で、盛景の嫡男の妻となっている、初恋の人「つる」と再会します。

つるの美貌は相変わらずなのですが、子供・千々代ができて、今まで家督争いには全く興味のなかった彼女にも変化が訪れているようで、跡継ぎのいない、実家の那須家の跡取りに我が子をつけようという計画に一口のるよう新九郎をそそのかしてきます。

「家督の魔力」が、以前の想い人を変えてしまったことに驚く新九郎なのですが、幕府へ納めるべき年貢を、地元の百姓から代官・国人侍に至るまでは中抜きをしていることを教えられ、自分が領国支配の勘所を何も知らないことに驚くとともに、幕府をないがしろにする行為だと言い放ち、家中に要らぬ騒ぎを持ち上がらせています。

この「直言傾向」は姉の伊都も同様のようで、駿河国守護相続の口利きをする見返りに、寺への寄進を無心してきた今川家の京都の折衝係を務める妙音寺の関係者を追い返してしまいます。このため、駿河で伊都たちの対立勢力である今川範満や三浦一族につけ込む隙きを与えてしまうのですが、寺に貸し付けている借金を使って、範満側に加勢する寺の動きを封じてしまうところは、やはり、伊勢一族の底力というものでしょう。

ただ、なんやかやで龍王丸の家督相続の保証がとれないため、新九郎が家督相続の文書偽造に手を染めてしまったことが次巻での大騒動のもとになってきそうです。

巻の後半では、義尚に将軍位を譲ったものの、一向に実権は手放さない大御所・足利義政と将軍・義尚の間で確執が深まっていく姿が描かれています。

義政という人物は銀閣寺の造営や、文化活動に熱心出会った点の評価はあるのですが、応仁の乱の処理の仕方や、将軍位を巡っての混乱など、政治面ではその優しさというか優柔不断なところが悪影響して、幕府の勢威をボディーブローのようにじりじりと削らせていった人物のように感じています。ただ。今巻の最後では父の夢のお告げで、今川家の跡目争いに果断な措置をくだしていますね。

新九郎、奔る!(11) (ビッグコミックス)
母の野望と覚悟。歴史には残らない女の戦! 姉・伊都と甥・龍王丸らを連れて帰京した新九郎。 京で龍王の家督承認を目指し奔走するが、進展は無し。 そんな中、凶作が続く領地・荏原へと家族の反対を押し切り戻った新九郎は、困り果てた家臣達から、領地を...

レビュアーの一言

巻の後半で背中にできた腫れ物のせいでうなされる大御所・義政の悪夢の中に登場する、義政の父である「普広院」こと七代将軍・足利義教は、対立する鎌倉公方の討伐や比叡山延暦寺を圧迫した上に、守護大名の家督継承に積極的に首をつっこんで、意に反した大名を誅殺するなどしたことから「暴君」とも呼ばれた人物です。義政の悪夢で首をかかえて出現するのは、家臣の赤松満祐に謀反をおこされて、首をはねられたことによるものですね。

義教は、儀式中に笑顔を見せた公家を蟄居させたり、闘鶏を見物にきた一般民衆によって自らの行列の通行が妨げられたことに腹をたて、闘鶏を禁止した上に京都市中の鶏を市外へ追放したり、自分を説教しようとした僧侶に熱した鍋をかぶせた上に舌をきるといった蛮行の主でもあるので、彼の幽霊から「情けなや、義政・・・父のようにはできぬか・・」なんてことを言われるのは、義政も心外だったかもしれません。

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