鉄道を舞台にした「泣かせる物語」再び=高田郁「駅の名は夜明け 軌道春秋Ⅱ」

「みをつくし料理帖」や「あきない世傳 金と銀」をはじめとした女性を主人公とした時代小説の名手である筆者による鉄道や駅を舞台にしたハートウォーミングストーリーのほぼ10年ぶりの続編が本書『高田郁「駅の名は夜明 軌道春秋Ⅱ」(双葉文庫)』です。

あらすじと注目ポイント

収録は

「トラムに乗って」
「黄昏時のモカ」
「途中下車」
「子供の世界、大人の事情」
「駅の名は夜明」
「夜明の鐘」
「ミニシアター」
「約束」
「背中を押すひと」

の9篇で、時代設定は介護保険が創設された頃から、現代までの様々な時代の喪にガタリが描かれます。

まず、第一話の「トラムに乗って」と「黄昏時のモカ」はウィーンを舞台にした姉妹編といでもいうべき物語です。第一話では、娘を幼くして難病で喪い、それ以後、夫婦仲に隙間風がはいりはじめた「真由子」という女性が、日本に夫を残し、新婚旅行で訪れたウィーンに旅をしてきます。ウィーンの街中を歩いても娘への慙愧の念にさいなまれる主人公と、日本にいるはずの夫を再び結びつけたのは死んだはずの・・という展開です。さらに、この主人公にウィーンで一緒になった老婦人の、オーストリア青年とのふれあいが第一話によりそうように展開されていきます。

第三話の「途中下車「は、クラスの中で孤立して学校にいけなくなった女子生徒・亜紀が、祖父母のいる田舎町の学校に転校し、再出発を目指す物語なのですが、その最初の登校日、彼女は不安にかられて、通学列車を途中下車してしまいます。再び、登校拒否になってしまうかも、と悩む女子生徒が降りた駅には、「レストラン駅舎」という名前の駅舎を改良したカフェ兼食堂がありました。そこを経営する、国鉄民営化で早期退職し、脱サラしてレストラン経営を始めた「ジロ」と「タロ」の二人の男性と話をしているうちに、亜紀の心に変化が生まれてきて・・という展開です。女の子がゆっくりと立ち上がっていく姿が泣かせます。

第四話の「子供の世界、大人の事情」は両親が離婚して東京ら大坂に引っ越してきた小学四年生の少年・圭介が主人公です。彼は、大好きなラジオ番組のお便りコーナーのプレゼントで、父親が以前話をしてくれた流氷が見える、「レストラン駅舎」のある駅を目指します。途中、様々な乗客や車掌たちの好意に包まれて、駅へ着くのですが、そこで最後に起きる出来事が感動的ではありながらも切ない結末となっています。

第五話の「駅の名は夜明け」は介護保険の導入当時、制度の激変で、認知症の妻が低いランクの介護認定となり、前途を悲観した夫が妻を連れて、小倉の先にある「夜明」という駅で心中を図ろうとする物語です。しかし、その駅に着いて夜明けを見た夫の心境にはある変化がおき、という展開です。第五話の「夜明けの鐘」はそれに並行する中年女性二人の旅を描くサイドストーリーです。

このほか、ゴールデンウィークも終わった平日の昼過ぎの電車の中で繰り広げられる、捨て猫を拾った老婦人を中心とした人情物語(「ミニシアター」)、流行作家と立ち食いソバ店に勤務する10歳年上の女性との恋物語(「約束」)や、俳優の夢を追って、家出同然に都会へ出た男性が、癌で死期の近い父親の見舞いで帰省した際。父親から最期の熱いエールを贈られる話(「背中を押すひと」」など、心が折れそうになっている人が、周囲の励ましやエールで再び立ち上がって歩き出すハートウォーミングストーリーが目白押しになっています。

レビュアーの一言

「鉄道駅」というのは人の出会いと別れが凝縮しているせいか、心を揺るがす物語の舞台としてはこれ以上ない舞台設定ですね。文庫本の帯には筆者の「何もしない、でも傍にいる。九つの物語が、あなたにとって、そんな存在になれれば、と願います」とあって、前作同様、鉄道を舞台に困難や悲しみに直面しながら立ち上がっていく人々の再生物語が描かれます。今回の「駅の名は夜明」も、前作「ふるさと銀河線」負けない泣かせる物語集となっています。

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