美人女性弁理士は、イチゴ産地の危機を救えるか?=南原詠「ストロベリー戦争 弁理士・大鳳未来」

人気VTuberにかけられた特許権侵害の警告を、彼女が使う撮影機材を全国のVTuberたちに無償で送ることで逆襲した、元パテント・トロール出身の弁理士「大鳳未来」の活躍を描く、特許を主題にしたリーガル・ミステリーの第二弾が本書『南原詠「ストロベリー戦争 弁理士・大鳳未来」(宝島社)』です。

あらすじと注目ポイント

構成は

プロローグ
第一章 作ったイチゴが商標権侵害で売れない?
第二章 田中山・フルーツ・ブランド・マネジメント・プロジェクト
第三章 久郷のイチゴ
第四章 識別力
第五章 絆姫
エピローグ

となっていて、本書の冒頭では、大鳳未来と相棒・姚愁林が経営するミストルウ法律事務所の近くのコーヒーショップで、オンライン会議をしている「大鳳未来」の様子から描かれます。未来が注文していたのが、キウイとオレンジがまるごと入り、隙間にはマスカルポーネチーズクリームの詰まったフルーツサンドで、これを提供しているコーヒ店にふっかけられた商標権侵害のいいがかりを解決するところが今巻の物語の導入となります。

本編のほうは宮城県の久郷村で新品種のイチゴ「絆姫」を栽培し、地域を牽引するイチゴ団地をつくることを目指しているイチゴ農家でつくった農事組合に、東京の大手綜合商社・田中山物産から、商標権侵害の「警告書」が届いたところからスタートします。商標権侵害の警告書なんてものがどんな効力をもっているか皆目わからない、このイチゴ組合の組合長が、特許関係のし仕事ならほとんど無条件に受ける未来の事務所にすがってきた、という筋立てです。

で、このイチゴというのが、組合長の娘が、「ワンモア」という人気品種から偶然見つけた新品種で、これを育種したものですが、冒頭のエピソードでフルーツ・フリークであることがわかった未来が驚愕するほどの「イチゴ」です。実は、世界的に有名なケーキ店「カリス」のクリスマスケーキに使われることが秘密裏に決まっているというほどの逸品です。

品種登録もしておらず、さらに「カリス」のケーキに使われることなど地元の組合の人間しか知らない情報をどうやって知り、東京の大手商社が商標権侵害を訴えてくるのか、その目的は・・というのがイチゴ組合のメンバーや未来の第一の疑問点です。

しかし、組合メンバーや未来の当惑には全く考慮せず、商標登録違反の警告書を送ってきた田中山物産は、同じ警告書を「カリス」に送り付けてきます。もし「カリス」が新品種「絆姫」をクリスマスケーキに使えば「カリス」もトラブルに巻き込まれることは間違いなく、「カリス」側は早急にトラブルを解消しなければ「絆姫」の利用は取り止めるととともに、今までの販促にかかった費用と損害賠償を請求する、と通告してきます。

この心労で急死してしまったイチゴ組合の組合長の代理人として、未来は田中山物産との商標権の法律闘争を始めるのですが、物産側は、「絆姫」が試作品として品評会に出展された直後に名前の商標を登録していて、法律的な勝ち目は非常に薄い勝負になります。
さらに、「絆姫」を栽培する地元では、このまま「絆姫」が販売できなくなれば生活に差し支えることを危惧する生産者たちが次々と「絆姫」の栽培を断念し始めます。この上に、イチゴ組合のある久郷村の危機を見て、隣村の和多利町が合併話をもちかけてくるという事態がおきます。

八方ふさがりの中、「未来」はいちかばちかの勝負にはなるのですが、田中山物産の取締役会に直接乗り込むことを決意します。

彼女が田中山物産の商標登録侵害の警告を打ち破ろうと考えているのは、田中山物産の適法な商標権を「後発的に識別力を失わせ」権利を行使できなくなる「秘策」ではあるのですが、それには、地元の久郷村と和多利町が共同で行う、地方議会の同意や県の認可の必要なあるおおがかりな仕掛けが必要で・・という展開です。

少しネタバレしておくと、「未来」の驚く作戦が見事炸裂し、爽快感が味わえること間違いなしの結末です。

Bitly

レビュアーの一言

今回、大鳳未来と「絆姫」の生産者の直接の敵となるのは「田中山物産」の調査部特命調査室の調査担当者で、商標という道具を使って、生産者が汗水たらして研究・栽培したイチゴの利益を掠め取ろうと発想したことから始まっています。この悪どいビジネスが未来によって木っ端微塵に粉砕されるシーンも痛快なのですが、エピソードのところでさらに爽快なシーンが待っているので、最後まできちんと読んだほうがいいですよ。

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