アントワネットを破滅に導く美女・ポリニャック登場=「ローズ・ベルタン 傾国の仕立て屋」8

フランス革命期に、ルイ16世の王妃・マリーアントワネットのモード商を務め、40年間にわたってフランス宮廷、すなわちフランスのファッションをリードした平民出身の女性ファッションデザイナーの元祖「ローズ・ベルタン」の成り上がり物語を描く『磯見仁月「ローズ・ベルタン 傾国の仕立て屋」』シリーズの第8弾。

前巻で、修行時代を過ごした恩師「マダム・バジェル」の死とその店「トレ・ガラン」を閉店に追い込みながらも、それを踏み台にするかのようにマリー・アントワネット寵愛のモード商の階段をかけ上げっているベルタンだったのですが、今巻では、フランス革命がおきた原因の一つともいわれるアントワネットの大浪費の片棒を担いだといえるポリニャック伯夫人が登場します。

あらすじと注目ポイント

構成は

36針目 肖像画
37針目 ピュース
38針目 寵愛の行き処 
39針目 写し鏡
40針目 ローブ・ア・ポロネーズ

本巻でも書かれているように、王妃衣装部は、およそ1億円の予算に加え、王妃用に購入した衣装は多くて数回の着用の後は売り払われるしきたりで、この売上金のほとんどが衣装係長の懐に入るというのですから、その役得たるやすごいものでしたので、そのポジション争奪戦も相当に加熱したのは間違いないですね。

ちなみに、江戸時代の将軍の御台所や寵姫が暮らした「大奥」でも、一日に五回もあった着替えで使った着物は一回着ただけですべて払い下げられたという話が伝わっていますのです、こういう仕来りは日本も外国の同じなのかもしれません。

そして、この人事は結局、アントワネットの強い意向が通ってランバル公妃が登用されることになるのですが、アントワネットの母親「マリー・テレジア」の怒りの的となります。

この人事異動騒ぎは、アントワネットへの批判へと繋がり、「鏡の間」に展示される王妃の肖像画で火を吹くこととなるのですが、この騒動を黙って見ているベルタンではなくて、アントワネットに新色の絹地(作中ではルイ16世の命名で「蚤の色風」と命名された深い赤褐色の紫色の布ですね。血を吸った蚤の腹部の色に似ているそうです)を勧め、ベルサイユ宮殿内に大流行を呼び起こすこととなります。

さらに、アントワネットによる寵臣の登用は激しくなり、ついには王妃家政機関総監にランバル公妃、女官長にシメイ公妃、王家子女傅育官にゲメネ公妃という布陣を敷きます。現代日本の「お友達内閣」以上の側近登用ですね。

そして、この側近たちの中は、ニ派に分かれていたようで、派閥の一方の領袖であるゲメネ公妃がランバル派に対する秘密兵器として持ち出したのが、家柄はいいのですが大借金を抱えている、当時のフランス一の美女といわれたポリニャック伯夫人です。彼女の肖像はネットでも確認することができて、肖像画家による「盛り」の部分を差し引いても、第一級の美女であることが確認できますね。

このポリニャック伯夫人がアントワネットの目にとまったきっかけとなったのが、当時すでに古めかしい柄となっている「ダマスク織り」の青いドレスなのですが、この仕立直しには、(騙された格好なのですが)ベルタンも関与しています。

おそらく、このことが後のポリニャック伯夫人とベルタンとの心理的な対立の原因となっていると思うのですがいかがでしょうか。

少しネタバレしておくと、ベルタンは、アントワネットの依頼で、アントワネット、ランバル、ゲメネ、ポリニャック4人おそろいの服を仕立てるのですが、そこに新しい工夫とある皮肉を仕込むのですが詳細は原書で。

そして、このポリニャック伯夫人は婚家も実家のたいあへんな借金を抱えていて、この頃生計をたてていったのは夫の第一竜騎兵連隊の給与だけだったようですので、いわばサラリーマン貴族です。

このため、宮廷でアントワネットに仕えるとすれば、多額の生計費交際費もかかるため、宮廷入を渋る彼女に対し、アントワネットは、婚家と実家の借金の肩代わりと夫を実入りのいい官職へ斡旋をして、ポリニャック伯夫人を宮廷へいれることとなるのですが、これがフランス革命を引きおこす種まきの一つとなります。

後半部分は、このポリニャック伯夫人とベルタンとの、静かな闘争がメインです。マリー・アントワネットに仕えるのを家族や一族を反映させる「手段」と割り切るポリニャック伯夫人と、仕立て屋の仕事に誇りを持つベルタンとの「女の闘い」をお楽しみください。

Bitly

レビュアーの一言

「ランバル公妃」は、本シリーズでは悪女っぽい感じで描かれているのですが、もともとは北イタリアのサボィア家の公女で、フランス随一の資産家といわれたランバル公に嫁いできた女性で、夫の死後、ルイ15世の再婚相手の候補ともなっていて、後にアントワネットの寵姫となるポリニャック夫人のような貧乏貴族ではありません。

さらに、生来、引っ込み思案で繊細な性格で、陰謀を企むような野心もなく、革命後も、アントワネットに忠誠を尽くしたということですので、あまり悪くいってはいけないのかもしれません。

一方、「ゲメネ公妃」は、イギリスで流行していた新しい形式の競馬をヴェルサイユ宮廷で流行させ、この競馬による賭博でアントワネットに莫大な借金を追わせたり、心霊主義に傾倒して、愛犬と意思疎通ができると主張したり、騒々しく大胆な人物であったようです。(大阪のおばちゃんみたいなタイプを想像しておけばいいですかね。)

まあ、こんな感じを見ると表面上は穏やかでも、ランバルとゲメネが水と油であったことは間違いないような気がします。

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