山中の豪邸でおきた連続殺人の「探偵のいない」推理劇=渡辺優「私雨邸の殺人に関する各人の視点」

嵐によって、山中の豪邸に閉じ込められてしまった11人の男女が、遭遇した資産家のオーナーの刺殺事件。オーナーは密室となっている自室で殺されていて、屋敷の外は嵐とそれによっておきた山崩れで麓の集落とは通行不能。二重の構築されたクローズドサークルの中で、皆が思い思いに推理を巡らせて、11人の中にいるはずの犯人を探っていく、探偵のいない密室ミステリーが本書『渡辺優「私雨邸の殺人に関する各人の視点」(双葉社)』です。

あらすじと注目ポイント

物語は梅雨時を迎えている6月22日の午後、山中にある豪邸「私雨邸」へ、所有者・雨目医師製鋼の名誉会長。雨目医師昭吉の孫、杏花、梗介とサクラ、T大学ミステリ同会会の二ノ宮と一条、山中をトレッキング中に足を挫いてしまった水野、館を撮影に来ていた地元の雑誌編集者・牧、山中での首つり自殺に失敗し、この館に保護された田中がこの屋敷に、集結するところから始まります。

これに、屋敷の主人の雨目石昭吉、昭吉が:会長を務める雨目石鋼機の社員で会長補佐の石塚、今回、臨時の雇われた出張料理人兼家事代行の恋田を咥えて11人のメンバーが、クローズドサークル内での被害者または容疑者、あるいは探偵役となるわけです。

もともとの発端は、SNSで知り合いになった、密室殺人について異常な熱意をもつ二ノ宮に対し、雨目石昭吉会長が自分は、かつて愛人に実業家が殺されるという殺人事件の舞台となっている屋敷を所有しているのだが、今度、孫3人と一緒にその屋敷で過ごすのでご一緒しませんか、という誘いを受けて、ミステリ・サークルの会長と一緒にのこのこやってきた、というのが主軸の設定で、まあ、昔のミステリっぽく、わざとらしい設定だな、と思う人がいるかもしれませんが、そこは不問にしておきましょう。

そして、梅雨時の豪雨で、昭吉翁や孫たちをはじめ11人は、近くでおきた土砂崩れもあって、この屋敷内にとどまらざるをえなくなってしまうのですが、翌日の夜の夕食中、雨目石老人の孫・サクラが部屋の中で昭吉翁が死んでいると駆け込んできて、と第一の殺人事件が発生します。

昭吉翁は、自分の書斎の中央でに左腕を下にして倒れていて、その背中には刃物が突き刺さっています。部屋のドアには鍵が中からかかっていて、外からは入ってこれないという密室状態で、さらに、屋敷の外は雨で、土砂崩れによって麓からのデイルは不可能、という二重の密室状態で・・という状況です。

ここで通常のミステリであれば、推理が得意そうな人物、たとえばこの話ではミステリ同好会の一条とか二ノ宮あたりが事件のあちこち嗅ぎまわって真相を勝手に探っていくのですが、この物語では彼らが「探偵役」として名乗りを上げようとするのですが、能力不足ゆえか、思うように能力を発揮できず、真犯人まで行き着くことができません。

そのうちに、4日目の朝になって、再びサクラが、恋田が昭吉翁が死んでいた書斎で刃物で刺殺されているのを発見し・・という筋立てです。

何のつながりもない、昭吉翁と恋田が殺されたのはなぜなのか、連続殺人犯を、この屋敷に床込められている人々がでんでバラバラに推理を始めていくのですが、果たして真犯人は?、という展開です。

レビュアーの一言

本書は、探偵がいるようで「いない」、殺人の筋の通った動機があるようで「ない」という、通常のミステリであれば、必須事項と思われることが欠けている不思議なミステリと思われるのですが。それにもかかわらず、しっかりと謎解きのあるミステリとして成立しているのが面白いところですね。

【スポンサードリンク】

コミックシーモアのおすすめポイントをまとめてみた
新型コロナウィルスの感染拡大以来、マンガを読む手段としてすっかり「王道」のポジションを獲得した「電子コミック」サービス。2021年のHon.jpのデータによると、電子コミックの総販売高は4114億円で、コミック市場の占有率は60.9%になっ

コメント

タイトルとURLをコピーしました