京都・寺町二条の警官あがりの探偵と、天正以来の名家の御曹司が京都市中の謎を解く=伊吹亜門「焔と雪 京都探偵物語」

幕末から明治のはじめにかけての京都を舞台に、坂本龍馬や江藤新平といった維新の英傑たちが謎を解き明かす「京都ミステリー」を送り出してきた筆者が描く、大正期の男と女の情念が生みだす奇妙な事件の数々を巡査あがりの探偵と天正年間から続く公家の名家の御曹司が解き明かしてく京都大正ミステリーが本書『伊吹亜門「焔と雪 京都探偵物語」(早川書房)』です。

あらすじと注目ポイント

収録は

第一話 うわん
第二話 火中の蓮華
第三話 西陣の暗い夜
第四話 いとしい人へ
第五話 青空の行方

となっていて、メインキャストとなるのは、元京都府警の巡査で怪我をしたため退職し、寺町二条で探偵事務所を開業している「鯉城武史」と彼とは幼馴染ながら、貧乏な豆腐屋の倅である鯉城とは違い、妾腹ながら天正年間から続く「羽林家」の公家の末裔で貴族院議員・露木種臣のご落胤である「露木可留良」です。

基本的な物語の構造は、鯉城が依頼を請けたり、可留良のところに持ち込まれた調査や難事を鯉城が調査し、もつれた謎を可留良はアームチェア・ディテクティブとして解き明かしいくという設定です。

第一話の「うわん」は、可留良経由で鯉城のところへ持ち込まれた木材商からの依頼事です。その材木商・小石川一蔵はもともと丹波薪の荷揚げを手始めに材木商いを広げ、一代で財をなした「材木成金」なのですが、こうした人物によくある話で、業界の他の承認で組織する「組合」と対立しています。可留良経由の依頼は、その対立している組合の悪事を探ってくれということだったのですが、その依頼を首尾よくこなした鯉城は、その流れで、一蔵が最近購入した鹿ケ谷にある別荘に化け物がでる、というので調べてほしい、と追加注文を受けます。

一晩泊りこんだ鯉城は、何者かが話をしている声を聴き、あやしい人影が別荘内をのぞき込んでいるのを見つけるのですが、残念ながら捕まえられずに朝を迎えてしまいます。それを報告すると、今度は持ち主の「市蔵」が部下の「梶」とともにその別荘行くので来てくれ、と電話をかけてきます。多額の代金を払ってくれる依頼主なので、鯉城も断れず、その別荘へ出向くと、中で、市蔵が体一面が赤紫に膨れ上がり腫れあがった状態で、部下の梶は窓ガラスの突っ込んだ状態で割れたガラスが首筋に刺さった状態で絶命しているのを発見し・・という展開です。

彼らを殺したのは、この別荘を覗いていた人影なのか、それとも本当に妖しのしわざなのか・・という謎解きです。

第二話の「火中の蓮華」は、鯉城が最近贔屓にしているカフェ「ダミヰ」の女給・花枝からの頼みで友人の蓮沼夕子という女性が、勤めている会社の同僚の男に付きまとわれているのでなんとか撃退してほしい、という依頼事です。

頼みを断り切れなかった鯉城は、夕子と恋人のふりをして、その男・滑川をげきたいすることにして、夕子の生家である駄菓子屋でその男が夕子を見張っているのを捕まえ、突き飛ばして脅し、追い払います。しかし、その夜、夕子の住んでいる長屋の共同便所が放火され、焼け落ちてしまうという火事がおきます。

これは追い払われたことを恨みに思った「滑川」の仕業に違いない、と彼の家へねじ込もうとするのですが、滑川が焼身自殺をはかって死亡しているのが発見され・・という展開です。

この事件の話を聞いた「可留良」の推理は、「滑川の無理心中だろう」と死んでも怪我もしていない夕子を臣従相手に見立てるのですが・・という展開です。

このほか、西陣の機元をしている会社の社長と社長夫人、弟の専務が同時に殺されているのが発見された事件の陰に、鯉城がその社長から依頼を受けた社長夫人の不貞調査から、殺人ではないことが明らかになるのですが・・という「西陣の暗い夜」、「可留良」の生い立ちと「鯉城」との出会い、そして少年の頃、鯉城がでくわした殺された老婆の幽霊を謎を解く「いとしい人へ」、さらに製薬会社の創立記念パーティーで社長夫人の元夫が撲殺されたのと同時に、社長が薬物中毒で死んだ事件の陰にある真相が語られる「青空の行方」が収録されています。

レビュアーの一言

「明治」と「昭和」という戦争で彩られる時代にはさまれた「大正」という時代は「大正デモクラシー」や「大正ロマン」という言葉で連想されるように、当時の言葉でいえば「ハイカラ」な雰囲気とともに、時代が戦争へと傾斜していく「暗さ」をもっているように思えます。

そのせいか、本書にでてくる事件の謎解きも一見、「可留良」がスパッと謎を解き明かしたかに見えて、実は別の推理も成り立つことが後になった探偵自らが吐露するという二重性をもった複雑な仕立てになっています。そのことが事件の「暗さ」というか「妖しげ」な感じを醸し出しているような気がしますね。

「大正ロマン」の殺人事件を原書で楽しんでみてくださいな。

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