宗像は、出雲大社造営に使った巨木群の謎をとく=「宗像教授異考録」10〜11

圧倒的な歴史的知識と猪突猛進といってもいい探求心、そして、制約をもたない独自の理論構築と考察力で、古代史・人類史の謎解きに挑み続ける異端の民族学者「宗像伝奇」の活躍を描いた「宗像教授」シリーズの第2シリーズ『星野之宣「宗像教授異考録」(ビッグコミックス)』の第10弾から第11弾。

あらすじと注目ポイント

第10巻 宗像は、出雲大社造営に使った巨木群の謎をとく

第10巻の収録は

第1話 巨木漂流
第2話 ちいさきものの手
第3話 女帝陛下の百合若大臣
第4話 権現の馬場

の4話。

第1話の「巨木漂流」は、古代における木造建築としては世界最大級ともいえる出雲大社の神殿にまつわる話。この神殿は、その高さのせいで過去、何度も倒壊してその都度、建て直されているのですが、1109年に東海した翌年、建て替えのための木材の調達に苦労していたところ、翌年に100本の巨木が稲佐の浜に流れ着いて、無事造営できた、という伝承が残っているのですが、その巨木がどこからやってきたのか、の謎解きです。

彼は中越沖地震の際に、新潟県沖の出雲崎沖に海底に埋もれていた古木が浮かび上がってきたという現象がみられたのですが、その古木が妙高山噴火によってもたらされたものであろうという推理から、出雲大社の造営に使われた巨木群が、出雲よりはるか南方でおきた自然災害によるものでは、と推理し・・という展開です。

第2話の「ちいさきものの手」は北海道の恵庭市の郊外で発掘された縄文時代中期の墳墓遺跡から発見された、成人女性の骨と一緒に埋葬されていた、小さな手の形をした土器の謎です。

この謎ときには、乳がんの治療のため入院している忌部神奈が病院で知り合った、心臓に障がいのある幼児とその両親が大きなカギとなってきます。

第3話の「女帝陛下の百合若大臣」は、明治時代にギリシアのオデッセイア伝承が伝わったもの、と坪内逍遥が主張した、中世から語られた「百合若大臣」の説話がテーマです。

この「百合若」が治めたといわれる大分県の宇佐へ講演に招かれた宗像は、ここで第9巻に登場した、日本有数の鉄鋼メーカーの会長で、新興宗教の教祖でもある息長帯朝妃に再び出会い、彼女の日本神話とギリシャ神話との関連を訴える学説に巻き込まれていくのですが、これが日韓の漁業対立を引き起こす種ともなり・・という展開です。

第4話の「権現の馬場」は、そこに馬が入ると昏倒して死んでしまうという山中の「馬場」の謎解きです。家康の伝説の背後に、温暖化によるカビの大繁殖が隠れています。

第11巻 顔の裂けた怪奇な観音像に地震で亡くなった若き僧侶が蘇る

第11巻の収録は

第1話 扶桑伝説
第2話 無限回廊
第3話 裂けた仮面

との3話。

第1話の「扶桑伝説」は、宗像が古来より「扶桑の国」と呼ばれてきた日本がなぜそう呼ばれたのかを推理します。
「扶桑」とは中国の古代の地理書にでてくるもので、東海にある高さ三百里の巨大な桑の木のことですが、宗像はこの巨木伝説と、北九州の炭鉱とを結びつけていきます。

第2話の「無限回廊」は、伏見稲荷での、宗像の昔の研究仲間との再会が、二人の古傷を呼び覚ましていきます。
そして、神社の鳥居や彩色古墳に使われている「朱」の示す意味や、鏡と蛇神の関係を明らかにしていきます。

第3話の「裂けた仮面」は京都の古刹に伝わる、裂けた顔の奥から観音像が現れる不思議な仏像「宝誌和尚像」に関する話です。

宗像はかつてインドを仏教会の僧侶たちと訪れた時、そこで起きた地震に巻き込まれて亜南という若い僧侶を失っているのですが、この話で、彼の双子の姉と出会うこととなります。

彼が亡くなる前に遺した「いつかまた、どこかで、宗像先生」という言葉が、この仏像の盗難事件とインドで再び起きた地震に触発されたように、啓示として蘇ってきます。

レビュアーの一言

第11巻の最終話は、「宝誌和尚像」を依り代として現れた「亜南」僧侶の奇跡譚がメインの話ではあるのですが、途中、作者は双子の姉を登場させ、「唯心論」「人間原理」をこっそりと忍び込ませてきています。
「宗像教授」シリーズの魅力は、本筋の大胆な歴史仮説の一方で、こっそりとこうした仕掛けがこらされているところにもありますね。

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