【書評】異端の民俗学者・宗像、帰国。元恋人の「狼の研究」を追う=星野之宣「宗像教授世界篇」1

圧倒的な歴史的知識と猪突猛進といってもいい探求心、そして、制約をしたない独自の理論構築と考察力で、古代史・人類史の謎解きに挑み続ける異端の民族学者「宗像伝奇」の活躍を描いた「宗像教授伝奇考」「宗像教場異考録」の最新シリーズが、『星野之宣「宗像教授世界篇」(ビッグコミック)』。

異考録の後半で、イギリスのグレートブリテン大学の客員教授として日本を離れていた彼が、移転新築された東亜文化大学国際文化学部の民俗学教授として帰任したところで、新シリーズが始まります。

あらすじと注目ポイント

第1巻の収録は

第1話 獣の神殿
第2話 狼の星座
第3話 熊の玉座
第4話 斑の馬
第5話 鹿男(シャーマン)・前編

となっていて、冒頭ではイギリスから東亜文化大学の民俗学教授として帰任した宗像が帰任の記念講演を行い、若い研究者や学生から歓迎されているところで、すっかり憔悴した感じとなっている、前シリーズで宗像の調査活動先、テレビ局を誘導して混乱を引き起こしていた民間の歴史研究家「忌部捷一郎」が現れるところから始まります。

彼は宗像のライバルであるとともに恋人寸前の関係になっていた「忌部神奈」の兄なのですが、彼から、「神奈」が半年前に死去したことを知らされます。実はイギリスに無断で宗像を追ってやってきた加奈を、宗像は彼女の将来を思って諭して帰国させたのですが、それが裏目に出たようですね。

彼女は自分の研究のため、東北自動車道で岩手に入ったところで交通事故にあい意識を失って入院したのですが、その時点で、以前の乳がんの転移がみつかり、そのまま亡くなったという経緯です。

妹・忌部神奈の供養のため、妹がどんな研究をし、何をつきとめようとしていたか一緒に調べてほしいという兄・捷一郎の頼みを入れ、神奈が調査に向かった東北へと向かいます。

そして「神奈」の研究をさぐるヒントとなるのは、神奈が突然帰国を決めるあたりで話題にしていた「狼」」です。ヨーロッパでは人を襲う存在の象徴としておそれられ、さらにはスキタイやフン族、モンゴルのように農耕民族の文明を侵略し、破壊・掠奪する遊牧民族を象徴する存在である「狼」がなぜ、にほんでは「オオカミ(大神)」としてあがめられる存在になっていたのか、遊牧民の恐怖は、モンゴルの侵略は元寇のように日本人の心に大きな影響をもたらしているはずなのに・・といった筋立てです。

この神奈の動きを追って、東北から群馬、そして北海道まで移動し、かつての群馬=上毛野国を支配していた、渡来民と伝えられる「羊太夫」をはじめとする「毛人」の存在から、彼らが東北・北海道征服の尖兵として大和朝廷によって蝦夷討伐に派遣され、その後どういう仕打ちをされたか、へと推察をめぐらしていきます。

後半の「斑の馬」では、宗像が、九州の装飾古墳と古代バビロニアの星座図との類似という異端の説をぶちあげ、これが男神スサノオがまだらの馬の皮を機殿になげこむという乱暴狼藉をはたらき、姉神のアマテラスが天の岩屋にこもるという日本神話の由来につながり、さらには一万三千年前に地球に落下した彗星の影響による小氷河期の到来と縄文時代の招来という事象を示している、というトンデモ説へと発展していきます。

レビュアーの一言

今シリーズは、イギリスの大学にいた宗像は数年ぶりに日本の古巣の大学に帰還したという設定で始まるのですが、前シリーズで、彼の研究室で私設助手として働いていた、姪の宗像三姉妹の末妹・瀧の姿はありません。どうやら彼女は、前シリーズの後半で知り合った水中遺跡研究者の男性と一緒になっているのかもしれませんね。

このシリーズでは、「伝奇考」での宗像の若かりしときの憧れの存在「髙群真智」とか、「異考録」での忌部神奈や瀧といった美人の登場が必須と思われるので、次巻以降どこで登場してくるのが楽しみではあります。

それとも、死の間際に宮沢賢治の「オラ オラデ シトリ エグモ」という言葉をメールしてきて、一人で逝くことを選んだ「神奈」に義理立てして誰も登場しないのでしょうか。

コメント

タイトルとURLをコピーしました